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FILE3『無自覚と功罪』
1・幼馴染
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自室の窓から見える空を仰ぐと、いわし雲の隙間から太陽の光が差し込んでまるで後光のように美しかった。
ぼくは空が好きだ。海や山とか、自然のものを見ても特に何の感想もないのだけれど、空に限っては別だった。何時間眺めていても飽きない。同じ光景はその瞬間しかないからだ。
空は『完璧』なのだそうだ。完璧であるためには、一瞬たりとも同じではならないからだ。
絵にも描けない美しさとは、きっとこういうような風景を言うのだ。いくら竜宮城が相手でも、自然と自然のコントラストの美しさには敵うまいと、ぼくは密かに浦島太郎に反旗を翻している。
運動会のある月には、体育の授業が増えるのはどこの学校も同じなのだなと、どうでも良いことを思いながら机に向かって上の空で鉛筆を動かしていた。明日は雨が降るだろうから、体育館での練習になるだろう。もしかしたら、雲の速さも手伝って、台風がきているのかもしれない。
この学校に転校してきて早一週間。何となくクラスの雰囲気もわかりはじめてきた。学業に力を入れているためか、恐らくぼくがクラスで一番運動が出来ると自負していた。現に、五十メートル競走のタイムでは、余裕を持って一位になれた。元々体育は得意だったし、前の学校でもリレーの選手を任されていたので、運動神経が悪い方ではないとは思っていたが、これほどまで簡単に一位になれるとは思っていなかった。
逆を言えば、この前の小テストでは下から数えた方が早かった。前の学校では、勉強は中の上をキープしていたぼくだったが、この学校ではそう上手くはいかないようだった。五十点満点中十五点で、早速帰ってから母に怒られたものだった。
「大谷くん、筆が止まっているね」
こほん、と咳払いをした仙石 ハルカが、教卓に立ち仁王立ちをし、ぼくに向かって定規を突きつけながら言った。
「なあ、こんなことして何か意味があるの? 倶楽部に入るのは構わないけど、おれのプロフィールなんかいらないだろ。百問って、拷問だぞ」
司は少し遠くの席に座って本を読んでいた。
探偵倶楽部に入って騙されたと気付いたのは、人数がぼくを含め三人しかいないことだった。つまり、仙石と司しかいなかった。
「君の身長や体重、血液型。それから、趣味や嫌いなものなど、知っておいて損はない。例えば、ある人をターゲットに話を聞き出す場合、趣味の合う者を宛がえば、すんなりと話が聞けるかもしれない。つまりはプロファイル捜査をする際に必要なのだよ」
一人で納得したように頷き、今日かけている派手な赤い眼鏡をずり上げた仙石に、ブーイングを投げかけ、司を振り向いた。
「なあ司、言ってやってよ。百問って、何だよこれ。好きなタイプとか、初恋はいつだったとか、必要ないじゃん」
司はゆっくりと顔を上げて肩を竦めた。
「諦めろ、たくみ。俺もやらされた」
「司、裏切者!」
「ハルカは一度言いだしたら絶対に曲げないよ」
残念そうに首を振った司を見て、ぼくは諦めた。二人は家が隣同士の幼馴染みで、産まれたときから一緒に過ごしてきたそうだ。
だから仙石の性格は司が一番良く知っている。残念だが、さっさと終わらせるしかなさそうだった。
1.続く
ぼくは空が好きだ。海や山とか、自然のものを見ても特に何の感想もないのだけれど、空に限っては別だった。何時間眺めていても飽きない。同じ光景はその瞬間しかないからだ。
空は『完璧』なのだそうだ。完璧であるためには、一瞬たりとも同じではならないからだ。
絵にも描けない美しさとは、きっとこういうような風景を言うのだ。いくら竜宮城が相手でも、自然と自然のコントラストの美しさには敵うまいと、ぼくは密かに浦島太郎に反旗を翻している。
運動会のある月には、体育の授業が増えるのはどこの学校も同じなのだなと、どうでも良いことを思いながら机に向かって上の空で鉛筆を動かしていた。明日は雨が降るだろうから、体育館での練習になるだろう。もしかしたら、雲の速さも手伝って、台風がきているのかもしれない。
この学校に転校してきて早一週間。何となくクラスの雰囲気もわかりはじめてきた。学業に力を入れているためか、恐らくぼくがクラスで一番運動が出来ると自負していた。現に、五十メートル競走のタイムでは、余裕を持って一位になれた。元々体育は得意だったし、前の学校でもリレーの選手を任されていたので、運動神経が悪い方ではないとは思っていたが、これほどまで簡単に一位になれるとは思っていなかった。
逆を言えば、この前の小テストでは下から数えた方が早かった。前の学校では、勉強は中の上をキープしていたぼくだったが、この学校ではそう上手くはいかないようだった。五十点満点中十五点で、早速帰ってから母に怒られたものだった。
「大谷くん、筆が止まっているね」
こほん、と咳払いをした仙石 ハルカが、教卓に立ち仁王立ちをし、ぼくに向かって定規を突きつけながら言った。
「なあ、こんなことして何か意味があるの? 倶楽部に入るのは構わないけど、おれのプロフィールなんかいらないだろ。百問って、拷問だぞ」
司は少し遠くの席に座って本を読んでいた。
探偵倶楽部に入って騙されたと気付いたのは、人数がぼくを含め三人しかいないことだった。つまり、仙石と司しかいなかった。
「君の身長や体重、血液型。それから、趣味や嫌いなものなど、知っておいて損はない。例えば、ある人をターゲットに話を聞き出す場合、趣味の合う者を宛がえば、すんなりと話が聞けるかもしれない。つまりはプロファイル捜査をする際に必要なのだよ」
一人で納得したように頷き、今日かけている派手な赤い眼鏡をずり上げた仙石に、ブーイングを投げかけ、司を振り向いた。
「なあ司、言ってやってよ。百問って、何だよこれ。好きなタイプとか、初恋はいつだったとか、必要ないじゃん」
司はゆっくりと顔を上げて肩を竦めた。
「諦めろ、たくみ。俺もやらされた」
「司、裏切者!」
「ハルカは一度言いだしたら絶対に曲げないよ」
残念そうに首を振った司を見て、ぼくは諦めた。二人は家が隣同士の幼馴染みで、産まれたときから一緒に過ごしてきたそうだ。
だから仙石の性格は司が一番良く知っている。残念だが、さっさと終わらせるしかなさそうだった。
1.続く
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