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FILE2『嘘で塗られた自分の体』
7・待って、高田さん……
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私と亜紀ちゃんは、職員室の隣にある応接室で小説家を待っていた。
外からは、みんなの帰る声が楽しそうに響いてきた。校庭から、大きな声が聞こえてきる。今日は蹴球倶楽部の日だ。校内では、いくつの倶楽部が活動をしているのだろうか。
月の初めに学校に申請する活動曜日は、週に三度までならどの曜日でも構わない。新聞倶楽部は混乱を避けるために火曜日と金曜日を活動日とすることが決まっていた。活発に活動しているものは、週に三回、蹴球倶楽部や野球倶楽部のようにきっちりと入れて活動をしている。
関係ないけれど、蹴球倶楽部と野球倶楽部は、とても仲が悪く、いつもグラウンドの取り合いをしてしまうので、いつからか絶対にかぶらないように倶楽部の曜日を分けることにしたと聞いたことがあった。
でも、新聞部は二回で済むから、私はこの倶楽部を選択した。色々と習い事をしている私には、倶楽部に割ける時間はあまりなかったから。
「失礼します」
思わず私と亜紀ちゃんは姿勢を正したけれど、応接室に入ってきたのは同じクラスの高田 澄子ちゃんだった。長い黒髪を二つに束ねて、きっちりと止めている。髪飾りも何も付けないのはもったいないな、といつも思っているのだけれど、私とはあまり話も合わなさそうなので、そういう話はしたことがなかった。
高田さんは私たちを見つけると、眼鏡をクイッと持ち上げた。
「何だ、あなたたちだけだったの。小説家の先生はまだ来ないの?」
「え、何で高田さんが取材のこと知っているの?」
亜紀ちゃんが驚いたように高田さんに聞く。
「生徒会役員は、そういうの把握していないとならないのよ。来客のお茶出しも生徒会の仕事。見回りもあるから、早く来て欲しいんだけど、まだなの?」
「そんなの、あたしたちが知るわけないじゃない。こっちだって待ちぼうけ食らっているんだから」
亜紀ちゃんの言葉に、高田さんは少し黙ってから再び眼鏡を持ち上げた。
「それもそうね。じゃあ、悪いけどここにお茶とお茶菓子を置いていくから、冷めていたら職員室に行って淹れ直してあげて頂戴。私、他の倶楽部の見回り行って来るから」
そう言うと、高田さんは淹れたてのお茶と、お茶請けに少しのお茶菓子を置いて廊下に出て行った。
「偉そうに指図しちゃって。何様なのよ」
「亜紀ちゃん……やめなよ、そんなこと言うの」
出て行ったばかりで、聞こえてしまったら大変なのに、亜紀ちゃんは大きな声でそう言った。
亜紀ちゃんは、高田さんがあまり好きではない。『お高くとまっている』のが生理的に受け付けないのだそうだ。頭が良くて、クラスでいつも上位を争っているから、プライドも高く、そういうところが嫌なのだそうだ。
この前の小テストは、私が唯一得意な漢字だったので、たまたまクラスで一番を取ってしまった。そのときは少し高田さんに睨まれた気がした。私はというと、高田さんは嫌いではない。ただ、少しだけ苦手なだけなのだ。
「愛美は優等生だから、嫌いなんて言わないだけで本当は思っているんでしょ」
「そ、そんなことないよ」
そのとき、ガチャリとドアが再び相手、冷静な顔をした高田さんが入ってきた。私たち二人はハッとして沈黙してしまった。気まずい空気が流れてしまう。高田さんに聞かれてしまっただろうか。私はドキドキしながら高田さんの言葉を待った。
「言い忘れていたけれど……お礼の菓子折り、山岡さんの椅子の側に置いてあるから、帰るときに作家さんに渡してあげて頂戴」
高田さんは顔だけ覗かせてそれだけ言うと、私をチラリと睨み付けるようにしてドアを閉めてしまった。
「待って、高田さん……」
絶対今の会話、高田さんに聞かれていた。私は高田さんに謝るために思わず立ち上がってドアに近づいた。
「ちょっと、愛美! 行ってどうする気? 別に聞かれたっていいじゃない、本当のことなんだから。あいついつも一人でいるし、味方もいないでしょ。このことを話す相手もいないんだから、放っておきなよ」
「違うの、亜紀ちゃん。本当のことじゃないから、訂正をしに行かないと」
絶句する亜紀ちゃんを残して、私は廊下に飛び出していた。
7.続く
外からは、みんなの帰る声が楽しそうに響いてきた。校庭から、大きな声が聞こえてきる。今日は蹴球倶楽部の日だ。校内では、いくつの倶楽部が活動をしているのだろうか。
月の初めに学校に申請する活動曜日は、週に三度までならどの曜日でも構わない。新聞倶楽部は混乱を避けるために火曜日と金曜日を活動日とすることが決まっていた。活発に活動しているものは、週に三回、蹴球倶楽部や野球倶楽部のようにきっちりと入れて活動をしている。
関係ないけれど、蹴球倶楽部と野球倶楽部は、とても仲が悪く、いつもグラウンドの取り合いをしてしまうので、いつからか絶対にかぶらないように倶楽部の曜日を分けることにしたと聞いたことがあった。
でも、新聞部は二回で済むから、私はこの倶楽部を選択した。色々と習い事をしている私には、倶楽部に割ける時間はあまりなかったから。
「失礼します」
思わず私と亜紀ちゃんは姿勢を正したけれど、応接室に入ってきたのは同じクラスの高田 澄子ちゃんだった。長い黒髪を二つに束ねて、きっちりと止めている。髪飾りも何も付けないのはもったいないな、といつも思っているのだけれど、私とはあまり話も合わなさそうなので、そういう話はしたことがなかった。
高田さんは私たちを見つけると、眼鏡をクイッと持ち上げた。
「何だ、あなたたちだけだったの。小説家の先生はまだ来ないの?」
「え、何で高田さんが取材のこと知っているの?」
亜紀ちゃんが驚いたように高田さんに聞く。
「生徒会役員は、そういうの把握していないとならないのよ。来客のお茶出しも生徒会の仕事。見回りもあるから、早く来て欲しいんだけど、まだなの?」
「そんなの、あたしたちが知るわけないじゃない。こっちだって待ちぼうけ食らっているんだから」
亜紀ちゃんの言葉に、高田さんは少し黙ってから再び眼鏡を持ち上げた。
「それもそうね。じゃあ、悪いけどここにお茶とお茶菓子を置いていくから、冷めていたら職員室に行って淹れ直してあげて頂戴。私、他の倶楽部の見回り行って来るから」
そう言うと、高田さんは淹れたてのお茶と、お茶請けに少しのお茶菓子を置いて廊下に出て行った。
「偉そうに指図しちゃって。何様なのよ」
「亜紀ちゃん……やめなよ、そんなこと言うの」
出て行ったばかりで、聞こえてしまったら大変なのに、亜紀ちゃんは大きな声でそう言った。
亜紀ちゃんは、高田さんがあまり好きではない。『お高くとまっている』のが生理的に受け付けないのだそうだ。頭が良くて、クラスでいつも上位を争っているから、プライドも高く、そういうところが嫌なのだそうだ。
この前の小テストは、私が唯一得意な漢字だったので、たまたまクラスで一番を取ってしまった。そのときは少し高田さんに睨まれた気がした。私はというと、高田さんは嫌いではない。ただ、少しだけ苦手なだけなのだ。
「愛美は優等生だから、嫌いなんて言わないだけで本当は思っているんでしょ」
「そ、そんなことないよ」
そのとき、ガチャリとドアが再び相手、冷静な顔をした高田さんが入ってきた。私たち二人はハッとして沈黙してしまった。気まずい空気が流れてしまう。高田さんに聞かれてしまっただろうか。私はドキドキしながら高田さんの言葉を待った。
「言い忘れていたけれど……お礼の菓子折り、山岡さんの椅子の側に置いてあるから、帰るときに作家さんに渡してあげて頂戴」
高田さんは顔だけ覗かせてそれだけ言うと、私をチラリと睨み付けるようにしてドアを閉めてしまった。
「待って、高田さん……」
絶対今の会話、高田さんに聞かれていた。私は高田さんに謝るために思わず立ち上がってドアに近づいた。
「ちょっと、愛美! 行ってどうする気? 別に聞かれたっていいじゃない、本当のことなんだから。あいついつも一人でいるし、味方もいないでしょ。このことを話す相手もいないんだから、放っておきなよ」
「違うの、亜紀ちゃん。本当のことじゃないから、訂正をしに行かないと」
絶句する亜紀ちゃんを残して、私は廊下に飛び出していた。
7.続く
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