夢幻の花

喧騒の花婿

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FILE2『嘘で塗られた自分の体』

3・いじわるな大谷くん

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「せんせー。呼びましたか」


 ふと大きな声で私は目を覚ました。すぐに壁に掛かっている時計を見ると、十二時十五分だった。二時間目はおろか、四時間目が終わるまで寝てしまっていた。


「いないのかな」


 大きな声の人がしばらく先生を探していたけれど、いないようだった。そのうち、私の寝ているカーテンが開けられた。背の高い猫目の人と目が合った。転校生だ。


「あ、ごめんなさい。寝ているとは思わなくて」


 大谷くんはそう言うと、急いでカーテンを閉めた。私は閉められたカーテン越しに声をかける。


「あ、あの、大谷くん、中川先生は、多分職員室に食事を取りに行ったんだと思うよ」


 身体が大きくて、あの佐久間くんとけんかをしたと聞いていたから、私は思わずビクビクして、語尾が小さくなってしまった。
 大谷くんは、今度は静かにカーテンを開けてこちらを見た。


「あー、ええと、同じクラスの」


 大谷くんは大きな猫目で上を見て、私のことを思い出そうとしているようだった。


「山岡 愛美です」


「ああ、そうそう。修学旅行費の山岡」


 私はそれを聞いて、とても惨めな気持ちになってしまい、とうとう俯いてしまった。そんなことを無神経に言うなんて、酷い。涙が流れないように手に力を入れたけれど、どうやら駄目そうだ。


「うー……」


 せめて大谷くんに涙を見られないようにと思って、膝を抱えてみたけれど、今度は声が出てしまう。


「えっ、な、何で泣いてるの」


 大谷くんは慌てた声を出した。廊下から女子生徒の話し声が大きくなって聞こえてきた。大谷くんはその声にも慌てたのか、こちら側に入ってカーテンをサッと閉めてくれた。
 私は涙声になりながら大谷くんに言った。



「そうやって……みんなで私のことをからかって……うー……」


「いや、からかっているつもりはなかった。ごめん、無神経だったな。もう言わない」


 大谷くんはこちらに近づいてきて、ハンカチを突き出した。男の子は、こういうものを持っていないと思っていたのに、青いタータンチェックの綺麗に畳まれたハンカチを渡してくれた。


「おれ、まだ今日はハンカチ使ってないから」


「あ、ありがとう……」


 思っていたよりずっと優しい。身体が大きくて、けんかが強い人は、もっと乱暴だと思っていたのに、大谷くんはそういう人とは違うのかもしれない。


「修学旅行費って言うだけで、みんな私を見てクスクス笑うの」


「笑ってねーよ」


「でも、誰かが悪戯したってことは、私のこと悪く思っている人がいるってことだもの」


「ネガティブ過ぎるだろ」


 借りたハンカチで涙を拭っていたら、何だかわからなくなってしまって、私はまた泣いた。ハンカチはびしょびしょになってしまって、もう使い物にならなかったけれど、私はずっとそれで涙を拭い続けた。


3・続く
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