9 / 41
FILE1『倶楽部』
9・発見
しおりを挟む
次の日、教室は歓声に包まれた。
「俺が発見したんだぜ!」
得意気に胸を張る野球倶楽部の彼の名は、佐久間 龍夢というらしい。昨日殴り合いのけんかをした後、山岡の修学旅行費を発見したぼくたちは、一時休戦してすぐに職員室へと茶封筒を持って行った。
川野先生は驚いて発見した場所を聞き、何故見つけたかという話になったときに、ぼくと佐久間の取っ組み合いのけんかを知り、結局ぼくたちは怒られた。
お互いの親に連絡され、学校に呼び出され、経過を報告され、けんか両成敗という形でお互いが謝った。
佐久間の母親はいつまでもぶつぶつと文句を言っていたが、佐久間本人はぼくに謝ってくれた。ぼくも暴力をふるったことは心底悪いと思っていたので、申し訳ない気持ちで謝った。
ぼくの母はぼくを叱った後、先生と佐久間の母親に深く頭を下げていた。そして、「転校早々の呼び出しは、最短記録だわ」と皮肉を言われた。
そしてすぐに山岡の家に電話をかけ、費用発見のことを伝えて、我々は解散となった。
山岡 愛美はというと、女子数名に囲まれて慰められているようだった。今日もふわふわした洋服を着ていた山岡は、費用発見の朗報に笑顔を見せていた。
「結局、余計なことを続けていたわけね」
ふと座っていたぼくの席に日がかげり、上を見た。高田がぼくの前に仁王立ちをして、冷たい目を向けていた。長い黒髪がさらりと前方に落ち、邪魔そうだった。
「おはよう、高田」
「……おはよう。山岡さんの修学旅行費を見つけたの、本当はあなたでしょう?」
教卓の側でわいわいと騒いでいる佐久間を横目で見やり、高田が低い声で囁いた。ぼくは肩を竦めて首を振った。
「いや、おれは佐久間とけんかしただけ。一人で探していても見つからなかったけど、あいつのおかげで見つかったようなものだから、おれが見つけたわけじゃない」
「何でけんかをしたのよ?」
高田の問いかけに、ぼくは余計なことを言ってしまったことに気付き、気まずいまま黙っていた。
「……まあ、言いたくないならいいけれど。あなたはあれね。馬鹿なのね」
眉を潜めて低い声で続ける高田に、ぼくは再び肩を竦めた。面と向かってはっきりと言ってしまうこの性格が、クラスで孤立してしまう理由なのだろう。ぼくは嫌いではないけれど。
「でも、ありがとう」
去る前に、ふいと横を向いてぶっきらぼうに呟いた言葉は、ぼくにしっかりと届いた。
「……難儀な奴」
小さく呟くぼくの言葉は、彼女には届かなかったようだ。
9・続く
「俺が発見したんだぜ!」
得意気に胸を張る野球倶楽部の彼の名は、佐久間 龍夢というらしい。昨日殴り合いのけんかをした後、山岡の修学旅行費を発見したぼくたちは、一時休戦してすぐに職員室へと茶封筒を持って行った。
川野先生は驚いて発見した場所を聞き、何故見つけたかという話になったときに、ぼくと佐久間の取っ組み合いのけんかを知り、結局ぼくたちは怒られた。
お互いの親に連絡され、学校に呼び出され、経過を報告され、けんか両成敗という形でお互いが謝った。
佐久間の母親はいつまでもぶつぶつと文句を言っていたが、佐久間本人はぼくに謝ってくれた。ぼくも暴力をふるったことは心底悪いと思っていたので、申し訳ない気持ちで謝った。
ぼくの母はぼくを叱った後、先生と佐久間の母親に深く頭を下げていた。そして、「転校早々の呼び出しは、最短記録だわ」と皮肉を言われた。
そしてすぐに山岡の家に電話をかけ、費用発見のことを伝えて、我々は解散となった。
山岡 愛美はというと、女子数名に囲まれて慰められているようだった。今日もふわふわした洋服を着ていた山岡は、費用発見の朗報に笑顔を見せていた。
「結局、余計なことを続けていたわけね」
ふと座っていたぼくの席に日がかげり、上を見た。高田がぼくの前に仁王立ちをして、冷たい目を向けていた。長い黒髪がさらりと前方に落ち、邪魔そうだった。
「おはよう、高田」
「……おはよう。山岡さんの修学旅行費を見つけたの、本当はあなたでしょう?」
教卓の側でわいわいと騒いでいる佐久間を横目で見やり、高田が低い声で囁いた。ぼくは肩を竦めて首を振った。
「いや、おれは佐久間とけんかしただけ。一人で探していても見つからなかったけど、あいつのおかげで見つかったようなものだから、おれが見つけたわけじゃない」
「何でけんかをしたのよ?」
高田の問いかけに、ぼくは余計なことを言ってしまったことに気付き、気まずいまま黙っていた。
「……まあ、言いたくないならいいけれど。あなたはあれね。馬鹿なのね」
眉を潜めて低い声で続ける高田に、ぼくは再び肩を竦めた。面と向かってはっきりと言ってしまうこの性格が、クラスで孤立してしまう理由なのだろう。ぼくは嫌いではないけれど。
「でも、ありがとう」
去る前に、ふいと横を向いてぶっきらぼうに呟いた言葉は、ぼくにしっかりと届いた。
「……難儀な奴」
小さく呟くぼくの言葉は、彼女には届かなかったようだ。
9・続く
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~
くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。
初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。
そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。
冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか!
カクヨム・小説家になろうでも記載しています!

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる