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FILE1『倶楽部』
8・喧嘩
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「高田は何に入っているの?」
「私は生徒会長だから、倶楽部には入ってないわよ。生徒会は、それだけで倶楽部扱いとなるから」
「小学生で生徒会なんてあるんだ」
「前の学校ではなかったの?」
「そんなもの、なかったよ」
それぞれの小学校で色々違いがあるものだ、と感心してしまった。
「じゃあ私は帰るけど、大谷もいい加減に帰りなさいよ。山岡さんの落ち度にわざわざ付き合ってあげる暇があるなら、もう何も言わないけれど」
いちいち一言多い奴だ。ぼくは少しムッとしてしまったので、高田に言い返してしまった。
「費用も気になるけど、無実の罪で色々言われてしまっている奴のことも気になるから、もう少し探していくよ」
ハッと目を見開いた後、苦虫を噛み潰したような顔をした高田は、ぼくと視線を合わせた直後に、すぐ教室から出て行ってしまった。
しばらく探していたが、結局教室には無さそうなので、ぼくは帰ることにした。教室は探したとは言っても、個人の机の中やロッカーなどは到底見られるはずがないので、ざっと探しただけなのだが。ふと目を上げると、黒板の隣にある掲示板に、新聞倶楽部の会報なるものが張ってある。
この教室内で見つけたのは、倶楽部の活動が結構盛んだということだ。新聞倶楽部もそうだし、今日の放課後はソフトテニス倶楽部と野球倶楽部が活動をしている。昨日は探偵倶楽部とやらが活動をしていた。
ぼくは思わず顎に手を当てて考え込んでしまった。
「こんなにバラバラに倶楽部活動しているなら、犯人は大よそ絞れそうなものだけど」
「何だよ、犯人って? よそ者くん」
大きな声に驚いて振り返ると、そこには朝大声で高田が犯人だと嘯いていた男子生徒がバットを右肩に掲げてやってきた。
「……野球倶楽部には関係ないことだよ」
「はあ? 生意気言ってんじゃねえぞ、転校生」
名前も知らぬこの男子生徒は、ぼくの方へ大きな歩幅で歩いてきた。痛々しいことに、左頬に湿布を貼っている。バットを持つ手が右なので、恐らく右打ちだろうから、デッドボールでも受けたのだろう。ぼくより背が低いため、ガンを飛ばされたけれど、下から見上げられては迫力が無かった。
「じゃあ、言い直す。高田を犯人呼ばわりしている奴には、関係ないことだよ」
「こいつ!」
彼は突然バットを放り投げて、ぼくの胸ぐらを掴んできた。その反動で後ろに下がった僕は、掲示板に頭をぶつけてしまう。
「いってえ……」
その場でしりもちをついて倒れ込んだぼくの後から、ハラハラと一枚紙が落ちてきた。新聞倶楽部の会報だった。地面に落ちた会報は破れてしまっていた。
「高田が犯人じゃなかったら、高田に謝れよ」
「俺は思ったことを口に出しただけだ! 高田が犯人かもしれないと思ったからだ! お前こそ、偉そうに俺に説教するな、よそ者!」
しりもちをついているぼくに向かって、彼は体重をかけて乗り上がってきた。胸ぐらを掴まれ、地面に押し倒される。今度は頭を教壇にぶつけてしまい、鈍い音を放った。
「いってえな! 犯人扱いされた人が、傷付くとは考えないのかよ」
ぼくは彼のお腹を足で蹴った。「ぐっ」と声を出して彼はぼくの上から飛びのいた。
「こんな時間までクラスにいるなんて、お前が山岡の修学旅行費を盗んだ犯人なんだろ! 白状しろ!」
明らかに怯えた表情で言う彼に、ぼくは後頭部を押さえながら睨み付けた。二度ぶつけた頭がガンガンと響いていた。
「ばかじゃねえの? 大体、昨日盗まれたものを、昨日初登校のおれが知るわけないだろ。それより覚悟は出来てるんだろうな! 右頬向けろ!」
そのとき、ぼくもカッとなってしまい、起き上がると同時に彼に向かって拳を突き出していた。デッドボールを受けたらしき左頬はさすがに可哀想だと思ったので、利き手ではない左で拳を作ってやったことには感謝をしてもらいたい。威力は弱くなっていただろうからだ。
ごっ、と鈍い音を立てて僕の左拳は野球倶楽部の彼にヒットした。短い悲鳴を上げ、床に倒れ込んだ彼は、すぐさま立ち上がってぼくに向かって突進してきた。身体では敵わないと思ったのか、全身でぼくにタックルを仕掛ける。
派手な音を立ててぼくは後ろから地面に叩きつけられた。鈍い痛みが背中を走った。上半身を起こすと、見下ろしていた彼の後ろに、掲示板が目に入る。
「……あれ?」
突拍子もない声を上げたぼくは、彼を押しのけて掲示板を凝視した。
「何するんだよ、よそ者!」
「山岡の修学旅行費、あれじゃないか?」
「え?」
彼も驚いた様子で新聞倶楽部の会報が張ってあった場所を見ると、四方を画鋲で止められた茶封筒が張られてあり、丁寧な字で『山岡 愛美』と書かれてあった。
8・終わり
「私は生徒会長だから、倶楽部には入ってないわよ。生徒会は、それだけで倶楽部扱いとなるから」
「小学生で生徒会なんてあるんだ」
「前の学校ではなかったの?」
「そんなもの、なかったよ」
それぞれの小学校で色々違いがあるものだ、と感心してしまった。
「じゃあ私は帰るけど、大谷もいい加減に帰りなさいよ。山岡さんの落ち度にわざわざ付き合ってあげる暇があるなら、もう何も言わないけれど」
いちいち一言多い奴だ。ぼくは少しムッとしてしまったので、高田に言い返してしまった。
「費用も気になるけど、無実の罪で色々言われてしまっている奴のことも気になるから、もう少し探していくよ」
ハッと目を見開いた後、苦虫を噛み潰したような顔をした高田は、ぼくと視線を合わせた直後に、すぐ教室から出て行ってしまった。
しばらく探していたが、結局教室には無さそうなので、ぼくは帰ることにした。教室は探したとは言っても、個人の机の中やロッカーなどは到底見られるはずがないので、ざっと探しただけなのだが。ふと目を上げると、黒板の隣にある掲示板に、新聞倶楽部の会報なるものが張ってある。
この教室内で見つけたのは、倶楽部の活動が結構盛んだということだ。新聞倶楽部もそうだし、今日の放課後はソフトテニス倶楽部と野球倶楽部が活動をしている。昨日は探偵倶楽部とやらが活動をしていた。
ぼくは思わず顎に手を当てて考え込んでしまった。
「こんなにバラバラに倶楽部活動しているなら、犯人は大よそ絞れそうなものだけど」
「何だよ、犯人って? よそ者くん」
大きな声に驚いて振り返ると、そこには朝大声で高田が犯人だと嘯いていた男子生徒がバットを右肩に掲げてやってきた。
「……野球倶楽部には関係ないことだよ」
「はあ? 生意気言ってんじゃねえぞ、転校生」
名前も知らぬこの男子生徒は、ぼくの方へ大きな歩幅で歩いてきた。痛々しいことに、左頬に湿布を貼っている。バットを持つ手が右なので、恐らく右打ちだろうから、デッドボールでも受けたのだろう。ぼくより背が低いため、ガンを飛ばされたけれど、下から見上げられては迫力が無かった。
「じゃあ、言い直す。高田を犯人呼ばわりしている奴には、関係ないことだよ」
「こいつ!」
彼は突然バットを放り投げて、ぼくの胸ぐらを掴んできた。その反動で後ろに下がった僕は、掲示板に頭をぶつけてしまう。
「いってえ……」
その場でしりもちをついて倒れ込んだぼくの後から、ハラハラと一枚紙が落ちてきた。新聞倶楽部の会報だった。地面に落ちた会報は破れてしまっていた。
「高田が犯人じゃなかったら、高田に謝れよ」
「俺は思ったことを口に出しただけだ! 高田が犯人かもしれないと思ったからだ! お前こそ、偉そうに俺に説教するな、よそ者!」
しりもちをついているぼくに向かって、彼は体重をかけて乗り上がってきた。胸ぐらを掴まれ、地面に押し倒される。今度は頭を教壇にぶつけてしまい、鈍い音を放った。
「いってえな! 犯人扱いされた人が、傷付くとは考えないのかよ」
ぼくは彼のお腹を足で蹴った。「ぐっ」と声を出して彼はぼくの上から飛びのいた。
「こんな時間までクラスにいるなんて、お前が山岡の修学旅行費を盗んだ犯人なんだろ! 白状しろ!」
明らかに怯えた表情で言う彼に、ぼくは後頭部を押さえながら睨み付けた。二度ぶつけた頭がガンガンと響いていた。
「ばかじゃねえの? 大体、昨日盗まれたものを、昨日初登校のおれが知るわけないだろ。それより覚悟は出来てるんだろうな! 右頬向けろ!」
そのとき、ぼくもカッとなってしまい、起き上がると同時に彼に向かって拳を突き出していた。デッドボールを受けたらしき左頬はさすがに可哀想だと思ったので、利き手ではない左で拳を作ってやったことには感謝をしてもらいたい。威力は弱くなっていただろうからだ。
ごっ、と鈍い音を立てて僕の左拳は野球倶楽部の彼にヒットした。短い悲鳴を上げ、床に倒れ込んだ彼は、すぐさま立ち上がってぼくに向かって突進してきた。身体では敵わないと思ったのか、全身でぼくにタックルを仕掛ける。
派手な音を立ててぼくは後ろから地面に叩きつけられた。鈍い痛みが背中を走った。上半身を起こすと、見下ろしていた彼の後ろに、掲示板が目に入る。
「……あれ?」
突拍子もない声を上げたぼくは、彼を押しのけて掲示板を凝視した。
「何するんだよ、よそ者!」
「山岡の修学旅行費、あれじゃないか?」
「え?」
彼も驚いた様子で新聞倶楽部の会報が張ってあった場所を見ると、四方を画鋲で止められた茶封筒が張られてあり、丁寧な字で『山岡 愛美』と書かれてあった。
8・終わり
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