夢幻の花

喧騒の花婿

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FILE1『倶楽部』

5・費用はどこに?

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「なに、高田に用?」


 きょとんと首を傾げた司に、先ほど聞いた話を教えてみた。噂を人に伝達するなんて、また父に口が軽いと笑われそうだが、ぼくだって人は選ぶ。何となく司は信頼出来そうな気がしたし、団体行動をせずにいるところを見ると、人と無闇に群れたりしないタイプなのだろう。そういう人は大抵口が堅いと、生まれてからまだ十一年の経験だが、どこか心の奥で盲目的な確信を持っていた。



「ああ……朝の会での話か。川野先生のあの言い方だと、このクラスに費用を盗んだ犯人がいるとでも言いたそうな感じだったな」



 司が考え込むようにぽつりと呟いた。ぼくもその辺りが気になっていた。もしかしたら、山岡が勘違いして、どこか違う場所に置いたのを忘れているだけかもしれないし、どこかで落とした可能性だってある。



 それなのに、さも『盗んだ』『犯人』が『このクラスに』いるようなニュアンスの言い方で話していたのが気になった。



「というか、費用は引き落としにすればいいのに。どうしてわざわざ生徒に大金を持ってこさせるんだ」


 ぼくが口を尖らせて言うと、司は腕を組んで苦笑をした。


「いや、引き落とすと手数料がかかるだろ。手数料に対して生徒の数だと、見合わないのかも。学校側の負担が大きいんじゃないか」



「ああなるほど。一気に銀行に持って行った方が都合良いか」



「柏木、廊下で仙石が呼んでる」


 ドア付近にいたクラスメイトが、司に向かって叫んだ。

 
 ドアを見ると、黄色い縁の派手な眼鏡をかけた、背の高い女子生徒がドアの縁に腕をもたれかけてニヤニヤしながら司に手招きをしていた。眼鏡だけでなく服装も派手で、柄物のティーシャツには七つくらいの色彩が散りばめられていて、見ていて目がチカチカしてきた。



「ああ、早速来た。せっかちだなあ……」


 小さく呟いた司は、立ち上がってぼくに目線を向けてきた。


「話の途中で悪いけど、俺ちょっと行ってくる」


「うん、ごゆっくり」


 司を送り出したぼくは、高田と山岡を交互に観察することにした。ぼくの前の席で『高田が犯人』だと決め付けていた三人組の男子生徒たちは、すでにプラモデルの話へと移っていた。


5・続く
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