夢幻の花

喧騒の花婿

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FILE1『倶楽部』

4・観察

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「ずばり、犯人は高田だな」


 僕の前の席で、得意気にふんぞり返りながら男子生徒が大きな声で彼を囲んでいる二名の少年たちに言った。つい聞こえてしまう距離なので、思わず聞き耳を立ててしまう。


「高田? どうしてそう思うの?」


「山岡、この前の漢字テストでクラスで一番だっただろ? 高田のやつ、それが気に食わなくて隠したんだ、きっと」


「なるほど。あいつ、それくらいやりそうだもんな」


 褒められた会話ではなかったが、それでも今話に出た高田という人物が気になって、思わず顔を上げて教室内を見渡してしまった。高田の顔はわからなかったが、ふと目が合った柏木 司が軽く手を上げてぼくの机の側に寄ってきた。


「おはよう、大谷。昨日の絵、間に合った?」


「出来はともかく、一応間に合わせたよ。先生に提出したら渋い顔してたけど。それより大谷って、堅苦しいな。たくみでいいよ。おれも司って呼ばせてもらうから」


「え? ああ、うん」


 一瞬驚いたように目を丸くした司だが、すぐに頷いた。


「川野先生って独身?」


 司は少し考えるように天井を向いたと思ったら、頷いた。


「確か独身だったと思うよ。良くわかったね」


「結婚指輪してなかったから。女の人って、大抵結婚指輪しているからさ。見た目もまだ若そうだし」


 淡く染めた茶髪に長いポニーテールの、テールがカールがかっていた。学校が終われば、髪ゴムを外してお洒落をしていそうな感じがしたからだ。


「ああ見えて、三十二歳だよ」


「ええ? 若いなあ。おれの母ちゃんと同い年だ」


「ええ? 若いなあ。俺の母さんは四十五歳だよ」


 おどけたぼくに、さらにおどけて見せた司に、思わず顔を見合わせて二人で笑ってしまった。司は真面目な表情で面白いことを言うのが楽しい。


 ぼくは気になっていた高田というクラスメイトのことについて聞いてみた。司が目線で教えてくれた高田は、黒縁眼鏡を掛けて、黒髪をおさげにした女子だった。


 机で一人で読書しており、周囲との接触を拒絶しているような、近寄りがたいような雰囲気を醸し出していた。真面目そうな印象を受けたが、彼女が悪いことを企むような感じにはどうしても見えなかった。しかし、ぼくの主観だから良くわからない部分があるし、ずっと一緒にいたクラスメイトからはどう見えているのか不明なので、何とも言えなかった。


4・続く
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