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FILE1『倶楽部』
10・勧誘
しおりを挟む「やあ、たくみ」
司が軽く手を上げてこちらにやってきた。相変わらずマイペースな空気を醸し出している。高田と話をしていたので、今まで遠慮していたのだろう。
「何だか、歩きづらそうにしていたけれど、大丈夫?」
保険医の先生に湿布を貼ってもらってけれど、やはり背中の痛みが取れなくて、背中をかばって歩いているのを司は見破ったのだろう。
「あいつとけんかして、背中を打った。でも大丈夫」
「ああ、佐久間と。あいつはクラスの大将だから、みんな怯えているんだ。それなのに、立ち向かえるなんて、たくみは勇気があるね」
「そんなんじゃないけどさ」
けんかをし合うことが勇気なんて言わないだろう、と思ったが、気配り上手の司はぼくに気を使って言ってくれた言葉だと気付いて、苦笑をしてしまった。
「お金って大切なものだろ。自分の親が一生懸命働いて、子供に使ってくれているものだからさ。だから、何度も持ってこさせるっていうのは、何か違うと思ったんだ」
「うん」
ぼくのどうでもいい主張を、司は親身になって頷きながら聞いてくれた。
「うちが貧乏だから、そう思うだけかもしれないけれど」
「いや、俺なんか、いつも親に反発してしまうから。たくみは偉いよ」
「犯人は、結局わからないままだし」
「そのことなんだけどさ、たくみ……」
新聞倶楽部の会報の後ろに、わざわざ画鋲で止めて隠しておくなど、かなり悪質ないたずらだと思うのだが、犯人はまだ見つかっていない。先生に聞いたが、まだ自首はしてきていないそうだ。高田が疑われてしまったり、この先また誰かが疑われてしまうのならば、ぼくは犯人をつきとめたいと思うのだが、『見つかったからもういい』と山岡が優等生的なコメントを話したため、この件は終息しそうだった。
「柏木、仙石が呼んでる」
ドアの近くで、クラスメイトが司に向かって叫んだ。昨日も来ていた女子生徒だ。今日も派手な格好をしており、ニヤニヤと司を手招きしていた。
「ああ、また来た。全く、俺を下僕だと思っているんだよ、あいつ」
ぶつぶつと文句を言いながら、司は仙石の元へと歩いて行った。
何やら話している二人をしばらく眺めていたが、やがて司がぼくを見て手招きをした。仙石も眼鏡をかけ直しながら、今度はニヤニヤとぼくを見ている。ぼくは立ち上がって廊下に出た。
「君が大谷くんか。初めまして、私は仙石 ハルカだ」
「はあ……大谷 たくみです。初めまして」
はっきりとした口調で話す仙石 ハルカは、髪をショートカットにしている。背はぼくよりも高いくらいだ。今まで同い年で、ぼくより背の高い子を見たことがなかったので、少し驚いた。
「君のことは司から聞いている。とても賢い子だそうだな」
「カシコイ? おれが?」
「うん」
司が頷いてぼくを見たが、ぼくは肩を竦めて呟いた。
「さっき馬鹿って言われたばかりなんだけど」
堅苦しい口調で、何だかこちらまで堅苦しくなってくる。ぼくは司をちらりと見た。
「すまない。倶楽部のとき、たくみのことを話してしまったんだ。川野先生が独身ということや、絵画コンクールのことをズバリと当てたって。それからハルカに、たくみのことを良く観察しておくように命令されていたんだ」
「観察?」
ぼくは訳がわからなくて、司を見ながら曖昧に首を傾げた。その様子を見た仙石は、ぼくの両手を掴んで身を乗り出した。
「さすがだ! 司から聞いたが、無くなった修学旅行費を見事見つけたそうだな。そこでスカウトをしに来た! 君は是非、我々のいる探偵倶楽部に入るべきだ!」
「……へ?」
大声で叫んだ仙石の声は、うちのクラス全体に響き渡った。
ひんやりとした視線を感じ取ったが、それは誰の視線なのか、ぼくは後ろを振り向かなくてもわかっていた。
FILE1.終わり
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