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【1】ポーラは困り果てる

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「こまったな……」
 ポーラ・マッキニーは夕闇に包まれた街角で、弱り切って呟いた。





 そもそも見栄を張ったのが間違いだったのだ。

 先月、故郷の昔馴染みから連絡があった。
 商家の坊ちゃんで、仕事でポーラが滞在している街にやってくるらしい。
 手紙には「会えないか」とあり、ポーラは二つ返事で了承した。

 二人の故郷は西部の田舎町。
 せっかく都会に来るのだ。
 少し高級なレストランへ案内してあげたい。

 そのためには軍資金が足りない。
 絶対に勝てると考えたポーラは、全財産を競馬に突っ込んだ。

 結果はまさかの惨敗。
 その瞬間、ポーラは無一文になった。

 だが友人は待ってはくれない。
 仕方なしに金貸かねかしの門をくぐり、その場を凌いだ。



 とはいえ、あてがなければポーラも金貸しを利用しない。
 ちゃんと返せると思ったのだ。

 その頼みの綱である姉ダニエル・マッキニーは、借金の件を聞くと直ぐに駆けつけてくれた。

 休暇を切り上げて戻ってきたという姉は、キタキツネ色にこんがり日焼けしている。
 ポーラより重症の天然パーマは爆発したみたいにボサボサで、なぜかレストランに同席していた母ミランダは、そんな姉に「みっともない」と柳眉をつりあげた。

 母は姉の容姿を非難するが、ポーラには姉の一風変わった容姿はとても個性的でオシャレに見えた。

 西部の原住民の血をひくマッキニー家。
 中でも最も色濃く先祖の血を反映しているのが姉だ。

 エキゾチックな面立ち、特に目が醒めるようなターコイズグリーンの瞳は宝石よりも鮮やかで、その目をみた者を魅了する。

 貴族令嬢や高級娼婦達が華麗な薔薇だとしたら、寒い冬にも彩りを与えてくれるパンジーみたいな女性。
 可憐だが芯の強い姉にぴったりの花だ。

 それに姉は男なら誰でも振り返りそうなエロい身体をしている。
 娼婦顔負けのボンキュッボン、ダイナマイトボディー。
 それを帝国陸軍のカーキ色の軍服に押しこんでいるので、胸元やヒップはぱつぱつ。

 下心満載で姉の胸元をチラチラみてくる周囲の男共に、ポーラは威嚇をこめて睨んだ。


「それで……この督促状はなんですか?」

 食事を終えたところで、ダニエルがテーブルの上に金貸しからの督促状を出した。
 姉に睨まれ、ポーラは自分の不甲斐なさを恥じ入りながら訥々とつとつと話し出す。

「競馬に負けて……少しだけ借りたんだ。その日は友人と食事に行く約束をしていたし、どうしてもお金が必要で…………」

 ポーラの声は尻すぼみになっていく、すると母は助け舟を出した。
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