【完結】酔い潰れた騎士を身体で慰めたら、二年後王様とバトルする事になりました

アムロナオ

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【49】訃報

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 スタート直前、ミシェルの訃報の一報が届いた。

 知らせにきた初老の運営委員はアルタン家と懇意の御仁らしい。

   遠慮がちに「バルド殿が最後を看取ったとのことだ」と告げ、メディアの発表で知るより直接知らされたほうがいいだろうとも言った。

   メディアの発表は二十分後になるそうだ。


「それまでに決断してくだされ」

 そう言われても、アニーは何も考えられなかった。

   心が壊れないためだろうか。

   感情も思考も一時的機能停止を起こし、電話した時は涙が止まらなかったのに、今はそれすら起きない。

 ミミが死んだ、現実味がない。

   その事実を心の中で繰り返す以外に何もできない、虚ろな人形と化していた。


 ダリウシュは傍でそんなアニーを痛々しげに見守るが、決断できずにいた。

 訃報の発表と共にアニーの不参加を表明し、アンバーとのペアで竜王戦に挑むか。

   それともこのままアニーと共に竜王戦に挑むか。

 アンバーと参加しても、準備不足で負けるだろう。

   アニーと参加したとしても、きっとアニーは何もできないから、カロリーナの裏をかく事ができず、やはり負けるだろう。

 どちらにせよ負けるならアニー負担が少ない不参加を選びたいが、そうすればバッシングを受けるのは必須だ。

 弱っているところに更に世間から責められるなんて酷すぎる。

   懊悩するも、時間だけが刻々と迫る。


 するとドルジが二人の前に進み出た。

   いつも仮面のように同じような笑顔を浮かべているのに、口元を引き結び、厳しさを湛えた戦う男の顔をしていた。

「どうするんだ?戦うなら、容赦はしない」

 肌を刺すような殺気。

   ”赤獅子”の二つ名は伊達ではない。

   ドルジと比べるとダリウシュはまだまだ全てにおいて未熟だった。

   アンバーもどうするんだと言いたげにダリウシュを睨んでいる。


「アニー……どうしたい?」

 ダリウシュはアニーの前に膝をたて傅き、訊ねた。

「…………」

 どうしたいって聞かれても、わからない。

   今、アニーの中は空っぽだから。

   ダリウシュの両手がアニーの手を包んだ。

「君の望み通りにするよ……………棄権するか?」

「なんで?」

 反射的にそう返していた。

   ダリウシュは目を見開き、ドルジとカロリーナも息をのむ。

 ダリウシュは瞼を閉じ、全てを受け止めるように長く息を吐いた。

「それが君の選択なら、一緒に戦おう」

 ダリウシュも覚悟を決め、ドルジに向き直った。

 末っ子気質はなりを潜め、猛禽類のように鋭い眼差しへと変わる。

   二人の間に雷のような火花が散った。

「そうか……お互い、検討を祈る!」

 ドルジは控え室を出て行く。

   カロリーナも後に続いたが、闘志とは別の深刻な表情をしていた。


「バルトミール侯、出発口へどうぞ」

「アニー、俺たちも行こう」

 スタッフに呼ばれ、ダリウシュはアニーの手を握り立ち上がった。

「アニー、計画は覚えているか?」

「…………」

「最初は逃げる、だ…………大丈夫、俺が君の手を離さないから。だから安心してついてきてほしい」

 闘技場は古くから在る建造物で、岩肌剥き出しのバックヤードは殺風景で薄暗く、外からの声援が大音響で反響している。

 不思議な事に、煩くて聞こえにはずのダリウシュの声だけはハッキリと届き、逆に声援は一切気にならなかった。

 二人は照明の落ちた入り口で待機するよう言われた。


『おおっと!速報です。なんと先ほどアニー=ランダー嬢の母上であるミシェル=ランダーさんが、御亡くなりになったそうです。繰り返します。速報です、アニー=ランダー嬢の御母上であるミシェル=ランダー氏が御亡くなりになりました。心より御冥福をお祈りします』

 実況アナの言葉に、轟くような騒めきが起きる。

『いやぁ、驚きですね。事件かな、事故かな』

『入院していたそうなので、病死と思われます』

 卑しい解説者が死因に言及してきた

『それなら心の準備もできてるでしょうし、パフォーマンスに影響しないのでは?』

『いや、わかりませんよ。直前のインタビューでアニ嬢は”母のために戦う”と発言してますから』

『いずれにしても、アニー嬢には頑張ってほしいですね。さぁ、ファンファーレの後は、いよいよ竜王戦のスタートです』

 不幸を喜ぶような解説者達の物言いに、ダリウシュは怒りで青筋をたてた。

 実況アナだけが中立的かつ、慎むようなニュアンスを含み、二人を諌めた。


「スタートします」との案内係の声に、ダリウシュはアニーの手を強く握り締める。

『3、2、1!』、プワァァァァとトランペットの音が高らかに鳴り響いた。

「いくぞ!!」

 ダリウシュは走り出し、アニーは何も考えずに彼について回った。

 迷路内には至る所にカメラが設置され、二組の勇姿をどの角度からも見れるようになっている。

 観客は巨大モニターに映し出される参加者達の勇姿にうっとりしながら、上から迷路を進む様子を眺め、声援を飛ばした。


『やはり最大の魅力は、殴り合いですよね』

『バルトミール侯としては時間を稼ぎ、カロリーナ嬢の力切れを狙いたいところですね』

『そうなると、10Rは必要ですよ』

『大丈夫ですよ、皆さん泊まる準備はバッチリですもんね?』
 解説者の煽りに観客からちらほら歓声があがる。

『それでは皆さんを盛り上げるため、イケイケなあの人を呼んじゃうよ!”美を愛し、美に愛された男”!!ミスタぁぁ、オスカー=ハーーーーード!』
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