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【39】心の棘
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アニーは部屋に戻った。
ダリウシュが追ってくる気配がしたが、階下から「ダル、仕事遅れるよ」とアンバーの明るい声がかかる。
何もかもが嫌になった。
「アニー、気分を悪くさせてごめんな。アンバーも謝っていたし……」
「あれが謝る態度なの?全然悪いと思ってなかったじゃない。しかもダリウシュも”悪戯”って!あれがただの悪戯だと思う⁉︎悪意的に私達を引き離そうとしていたよ!」
「あぁ…アニーの気持ちもわかるよ。悪質だよな」
「悪質で片付けていい問題じゃないでしょ!?私は二人とはやっていけない。これ以上一緒に暮らすのは無理だわ!」
「…………」
ダリウシュは眉根を寄せ険しい表情になった。
室内は重苦しい雰囲気で満たされる。
「今回のことは全面的に二人が悪いよ。アニーが不快になるのは当然だ。でも俺はアンバーのパートナーとして彼女の人生にも責任がある。もう二度とこんな事させないから、怒りを収めてくれないか?な、頼むよ」
胸が怒り悲しみドロドロした感情で埋め尽くされていく。
責任感があって優しいのは彼の美徳だが、これは事勿れ主義っていうんじゃない⁉︎
ダリウシュは置き時計に目をやり、申し訳なさそうに口を開く。
「……ごめん、アニー。仕事に行かなきゃ。帰ってから話そう」
「いつ帰ってくるかもわからないのに?」
ついつい責めた口調になってしまう。
ダリウシュはアニーをふわっと抱き締めた。
アニーが拒否しなかった事に安堵している様子だ。
「今夜は早くかえってくるよ」
頬を寄せてきたが、アンバーとキスした唇にキスする気にはなれず顔を背ける。
するとダリウシュは眉を下げ、あのしょぼくれた大型犬の雰囲気を醸し出す。
いつもならその顔をされると無条件で許したくなるのに、今回は心の棘は癒えなかった。
その夜、帰宅したアンバーはダリウシュからこってり絞られたのだろう。
再度謝ってきたが、誠意は感じられなかった。
ダリウシュに言われたから反省はしてないけど渋々謝ってますという感じ。
ダリウシュも苦虫を噛み潰した顔をしていたが、それでも二人を追い出す事は考えてないらしい。
再度二人と離れて暮らす事を頼んでみたが、ダリウシュはいい顔をしない。
「アニー、竜騎士と天妓の契りは結婚よりも重いんだ。二年前アンバーに浮気された時は、その契りに縛られ、俺も辛かった。でも俺達が過去に契った以上、この繋がりを断ち切る事はできないんだ」
「つまり今後も一緒に暮らして行くのね。私が嫌だって言ってるのに、彼女をとるのね!」
アニーは目を真っ赤にしてダリウシュを睨んだ。
こんなに嫌だって言ってるのに、どうしてこんなにも頑ななのだろう。
竜騎士と天妓の繋がりは理解しているけれど、以前は保護施設にいたのだ。
またそこに戻す事はできるはず。
それなのに、ダリウシュの頭の中では、本人が出て行くのは良いが、自分が追い出すのは駄目らしい。
どちらでも結果は同じなのに!
ダリウシュは眉を下げ、困り果てたような顔をした。
「いや、そうじゃないよ……そういう事じゃないだろ?論点がずれてるよ。彼女と君。俺にとっては、どちらも俺の天妓だ。どちらも幸せにする責任がある」
その言葉に、アニーの瞳から涙が溢れた。
心にナイフが突き刺さり簡単には抜けそうにない。
「あ、アニー…」
「もういい」
アニーは自室に篭ろうとしたが、ダリウシュは後ろをついてきた。
そして腕を掴んで、会話を続けようとする。
「アニー、ごめん」
「もういいって!悪いと思ってないくせに、意見を変える気もないくせに!口先だけで謝るのはやめて」
「…………ごめん」
唇を真一文字にし、ダリウシュは押し黙る。
理不尽な目にあった時、譲れない時、困った時。
そんな時にする表情だった。
「泣かれるのが嫌なんだよね⁉︎一人で泣くからほっといてよ!」
「アニー……」
腕を振りほどこうとしたが、ダリウシュの手は離れない。
それどころか癇癪を起こすアニーを宥めるように抱き締めてきた。
彼なりに、アニーを宥める方法を学んだんだろう。
そう、こうして抱き締められたら、アニーの心は無条件に絆されてしまう。
有耶無耶にベッドへ雪崩れ込めば、慣らされた身体は簡単に燃え上がってしまう。
「君が世界で一番大切だ」
そう囁かれても、心の中は寒々しかった。
はっきりとアンバーに負けたのだと感じる。
価値観に勝ち負けもないが、ダリウシュが自分よりアンバーを優先させたのが許せない。
同時に、キスくらいと思えない自分に嫌気がさした。
天妓としてどちらも幸せにしたいというダリウシュの言い分を認められない、心の狭い自分にもウンザリだ。
どうしてダリウシュを好きなだけなのに、こんなに苦しいんだろう。
ダリウシュが追ってくる気配がしたが、階下から「ダル、仕事遅れるよ」とアンバーの明るい声がかかる。
何もかもが嫌になった。
「アニー、気分を悪くさせてごめんな。アンバーも謝っていたし……」
「あれが謝る態度なの?全然悪いと思ってなかったじゃない。しかもダリウシュも”悪戯”って!あれがただの悪戯だと思う⁉︎悪意的に私達を引き離そうとしていたよ!」
「あぁ…アニーの気持ちもわかるよ。悪質だよな」
「悪質で片付けていい問題じゃないでしょ!?私は二人とはやっていけない。これ以上一緒に暮らすのは無理だわ!」
「…………」
ダリウシュは眉根を寄せ険しい表情になった。
室内は重苦しい雰囲気で満たされる。
「今回のことは全面的に二人が悪いよ。アニーが不快になるのは当然だ。でも俺はアンバーのパートナーとして彼女の人生にも責任がある。もう二度とこんな事させないから、怒りを収めてくれないか?な、頼むよ」
胸が怒り悲しみドロドロした感情で埋め尽くされていく。
責任感があって優しいのは彼の美徳だが、これは事勿れ主義っていうんじゃない⁉︎
ダリウシュは置き時計に目をやり、申し訳なさそうに口を開く。
「……ごめん、アニー。仕事に行かなきゃ。帰ってから話そう」
「いつ帰ってくるかもわからないのに?」
ついつい責めた口調になってしまう。
ダリウシュはアニーをふわっと抱き締めた。
アニーが拒否しなかった事に安堵している様子だ。
「今夜は早くかえってくるよ」
頬を寄せてきたが、アンバーとキスした唇にキスする気にはなれず顔を背ける。
するとダリウシュは眉を下げ、あのしょぼくれた大型犬の雰囲気を醸し出す。
いつもならその顔をされると無条件で許したくなるのに、今回は心の棘は癒えなかった。
その夜、帰宅したアンバーはダリウシュからこってり絞られたのだろう。
再度謝ってきたが、誠意は感じられなかった。
ダリウシュに言われたから反省はしてないけど渋々謝ってますという感じ。
ダリウシュも苦虫を噛み潰した顔をしていたが、それでも二人を追い出す事は考えてないらしい。
再度二人と離れて暮らす事を頼んでみたが、ダリウシュはいい顔をしない。
「アニー、竜騎士と天妓の契りは結婚よりも重いんだ。二年前アンバーに浮気された時は、その契りに縛られ、俺も辛かった。でも俺達が過去に契った以上、この繋がりを断ち切る事はできないんだ」
「つまり今後も一緒に暮らして行くのね。私が嫌だって言ってるのに、彼女をとるのね!」
アニーは目を真っ赤にしてダリウシュを睨んだ。
こんなに嫌だって言ってるのに、どうしてこんなにも頑ななのだろう。
竜騎士と天妓の繋がりは理解しているけれど、以前は保護施設にいたのだ。
またそこに戻す事はできるはず。
それなのに、ダリウシュの頭の中では、本人が出て行くのは良いが、自分が追い出すのは駄目らしい。
どちらでも結果は同じなのに!
ダリウシュは眉を下げ、困り果てたような顔をした。
「いや、そうじゃないよ……そういう事じゃないだろ?論点がずれてるよ。彼女と君。俺にとっては、どちらも俺の天妓だ。どちらも幸せにする責任がある」
その言葉に、アニーの瞳から涙が溢れた。
心にナイフが突き刺さり簡単には抜けそうにない。
「あ、アニー…」
「もういい」
アニーは自室に篭ろうとしたが、ダリウシュは後ろをついてきた。
そして腕を掴んで、会話を続けようとする。
「アニー、ごめん」
「もういいって!悪いと思ってないくせに、意見を変える気もないくせに!口先だけで謝るのはやめて」
「…………ごめん」
唇を真一文字にし、ダリウシュは押し黙る。
理不尽な目にあった時、譲れない時、困った時。
そんな時にする表情だった。
「泣かれるのが嫌なんだよね⁉︎一人で泣くからほっといてよ!」
「アニー……」
腕を振りほどこうとしたが、ダリウシュの手は離れない。
それどころか癇癪を起こすアニーを宥めるように抱き締めてきた。
彼なりに、アニーを宥める方法を学んだんだろう。
そう、こうして抱き締められたら、アニーの心は無条件に絆されてしまう。
有耶無耶にベッドへ雪崩れ込めば、慣らされた身体は簡単に燃え上がってしまう。
「君が世界で一番大切だ」
そう囁かれても、心の中は寒々しかった。
はっきりとアンバーに負けたのだと感じる。
価値観に勝ち負けもないが、ダリウシュが自分よりアンバーを優先させたのが許せない。
同時に、キスくらいと思えない自分に嫌気がさした。
天妓としてどちらも幸せにしたいというダリウシュの言い分を認められない、心の狭い自分にもウンザリだ。
どうしてダリウシュを好きなだけなのに、こんなに苦しいんだろう。
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