【完結】酔い潰れた騎士を身体で慰めたら、二年後王様とバトルする事になりました

アムロナオ

文字の大きさ
上 下
16 / 59

【16】サバイバル訓練

しおりを挟む
 週末、アニーはダリウシュと共に山へ入った。

   天王戦は山中でのサバイバルレース。

   途中、沼や岩山などの障害物を越えないと先へは進めない。

   速くゴールしたチームが優勝となるが、山を抜けるのに竜騎士の足でも二日かかる。

   パートナーの天妓が一緒だとさらに時間はかかるだろう。

 おまけに水食料は自分たちで調達せねばならず、風呂もトイレもない。

   虫や雨風にも耐えなきゃいけない。

   まさにどれだけサバイバル力があるかが試されるレースなのだ。


 「んん~」と伸びをして、アニーは両手を突き出した。

   真っ直ぐ空へと伸びる針葉樹林は緑のカーテンとなり、強い日差しを遮る。

   ここでは誰かにじろじろ見られることはない。アニーは束の間の自由を楽しんだ。


「今日はここにテントをはろう」

 ダリウシュは小川横の木陰に荷物を降ろした。

   俊敏な動きでアニーの太腿くらいある木の枝を集め、先を削り尖らせてから地面に打ち込む。

   シャツから覗く筋肉の筋が逞しい。

 森の中でみるダリウシュはヒグマかってくらい大きい。

   それなのにあんなに素早く動けるのは、無駄な筋肉がないからだね。

 貴族の坊ちゃん出身なのに、手際よく木を組み立てている。

   なんだが活き活きして楽しそうだ。

   アニーまで楽しい気持ちになった。


「あたしは何をしたらいい?」

 ダリウシュは目を丸くした。

   変な事を言ったかな。

   顔に出ていたのか、彼は「天妓はこういうの苦手だと思ってから…」と取り繕った。

   なるほど、とアニーは納得する。

 アンバーは虫嫌いそうだから、山は苦手だろう。

   自分は野宿も平気だけど。

   タイトル戦にも色々種類があるし、この手のレースは苦手だから自分を代打に出場させたのかな。

 ロゼの話を聞いた後から、事ある毎にゴチャゴチャと推測し、ひとりモヤモヤしてる。


 邪念を振り払い小枝を両手一杯に抱え戻ると、ダリウシュは木と紐と布でテントを作り上げていた。

   テントの端には石を組み上げた造った囲炉裏に火が燃えている。

「わぁ、すごーーい!火もあるよ!短時間でこんな豪華なお家を作れちゃうなんてやばいね」

「これくらい竜騎士なら誰でもできるよ。それに豪華なお家って……馬鹿だな」

 ダリウシュは照れて目を伏せるが、ほっぺがほんのり赤くなり、褒められて嬉しそうだ。

   彼の素直な反応に胸がキュンとなる。


 バルトミール邸にお世話になって、テレビで見てきたダリウシュが作られた虚像だと知った。

   メディアでは常にスーツや軍服で髪型もきまっているが、実際の彼は容姿に無頓着だ。

   取材がなければ髪を整えないし、仕事がない日は髭も剃らない。

 『一途な男』的な扱いだが、実は不器用で女性と話すのが苦手。

   女性相手だと口数も笑顔も減る。

   女を口説き駆け引きするのが男と女の愉しみ方。

   しかし彼はそれを楽しいと思わないらしい。

 そういうわけで彼は日頃からやんわり女性を避けているのだが、凄いのは避けてる素振りをみせず、上手にあしらう。

   当たり障りなく平坦な口調で。

   優しく柔らかく微笑み、爽やかに会話を切り上げる。

   これがまた罪作りなのだ。

 初々しく学生時代の異性とするような感じで、恥じらいつつ会話がなされる。

   褒めてくれるし、ジョークも交わし、女性側からすると楽しくお喋りは終了した……はずなのに!

   彼の態度は変わりなく、秋波を送っても彼女を特別扱いはしない。

   脈ありだと思ったのに、脈なし⁉︎と、狐につままれたような気持ちになるだろう。


 ハッキリした意思表示をしないから、女性からのアプローチは減らない。

   アニーの出現で天妓達はパートナーの座を諦めたようだが、和親族のアナウンサーも取材にかこつけてアプローチしてると聞く。

 竜騎族のご令嬢からは更にモテモテだそうな。

   職務とタイトル戦に実直で、女遊びも酒癖も悪くない。

   礼儀正しく将来有望となれば、良い嫁ぎ先だろう。

 ご令嬢達は皆、若く豊満な身体を持ち、顔も美しい。

   竜騎族一番の美貌を誇るレイチェル嬢にも見向きもしなかった。

   振られた彼女がゲイじゃない?と愚痴っていたらしい。

   因みに彼女はドルジにもアタックし、撃沈したという猛者でもある。


 結果、アンバー一筋という事に落ち着き、更に周囲の株を上げた。

   竜騎士達からは”女に骨抜きにされた腑抜け男”と”一途な男”の二択評価で、やや前者が多かったらしいが。

   他者からの評価をいちいち気に留めないダリウシュからすると、噂など痛くも痒くもないのだろう。


 そんな中でアニーにだけは、一生懸命会話をしようと試みてくれている。

   ただそれはタイトル戦を勝つためのチーム戦略だろう。

   だとしても特別扱いは嬉しい。


「焼けたよ」

「ありがとー」

 枝に刺した川魚を差し出され、アニーは受け取った。

   さっそくかぶりつく。

   ホロっと身が崩れ口の中に微かな塩味が広がった。

   美味しいと目で訴えると、ダリウシュは顔をほころばす。

 あれから二人で木の実を集め、釣りや狩りを教えてもらったら、あっという間に日が暮れた。

   その後火を囲み、釣った魚や蛙を焼きながら、天王戦に向けての作戦会議をする。


「実際の天王戦では二日間の野営を想定してる。初日はできる限り先へ進み、夜は体力を温存に努める。二日目は俺たちの前後にいるチームには戦いを仕掛け、先へ行けないようにしながら進む」

「二日目ガチじゃん!急に肉弾戦じゃん!!」

「あぁ、そうだな」

 ダリウシュは楽しそうに笑う。

   瞳は夢を追う少年のように輝き、天王戦を本当に楽しみにしているようだ。

   毎日騎士の仕事が終わった後も格闘技の訓練をし、規則正しい生活を心がけ、ストイックに修練に励んでいる。

   本気で世界一の竜騎士を目指しているのが、よくわかる。

 そんな彼がだがら、一緒に夢を追いかけようと思えるのだろう。

   惚れた弱みもあるが、彼じゃなければとっくに音をあげていた。


「ダリウシュはサバイバルが得意なの?」

「あぁ、もともと行軍訓練や野営は好きなんだ」

 重い装備背負って昼夜なく何キロも歩き続ける行軍訓練が好きって、変わってる。

   強靭な彼の足腰があればこそだ。

   ダリウシュは竜騎士の中でも体格が良い方なので、サバイバルレースにおいては有利だ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...