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【09】七侯会議
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聡い彼は何も言わなくとも全てを悟ったらしい。
勢いよく九十度に腰を折り、頭を下げた。
「皆様、大変申し訳御座いません!この者は私の天妓です。この者の罪は監督責任を怠った私の罪。何卒、私に罰をお与えください」
「なんだと!?」
「嘘よっ!!」
ザワザワと動揺が広がった。
広間の右側には七侯の竜騎士達が、左側にはそのパートナーの天妓達が一直線に腰掛けている。
その中にはあのカイゼル髭のおネェ男・オスカーとツインテールのロリポップ娘・シャーロット、それに先ほどアニーを案内したキャスとロゼもいた。
それぞれが座る椅子には植物や動物を模した繊細な細工が施され、背もたれが異様に長く高い。
正面には国王であるドルジが同じ形式の黄金の玉座に、少し下がった場所に彼のパートナーで女王のカロリーナが座していた。
玉座の背後は一面ステンドグラスで、精緻を極めている。
こんな大きなステンドグラスをアニーは初めて目にした。
首都コックスで一番の教会でも、これほど素晴らしい作品は拝めない。
陽の光が射し込めばさぞ美しく、そして国王と女王をより神々しくみせるのだろう。
「これは新たな展開だな」
楽しむような口ぶりのドルジとは反対に、誰かが厳しい口調で「バルトミール侯もその者と共にイカサマに組したのか!」と糾弾する。
アニーは「違います!」と叫んだ。
「この人とは…契りを交わした後は一度も会ってません‼︎」
全員が何を言ってるんだって顔をする。
ダリウシュでさえも不可解な面持ちを浮かべている。
そんなに変な発言したかな。
「嘘に決まってます!」
「そうだ、竜騎士に会わずしてどうやって魔力を維持するのだ」
今度はアニーのほうが頭を捻る番だった。どうって…どういう意味?
「静粛に」
ドルジの鶴の一声で全員が口を噤む。
「これは今までにない事案だ。一つ一つ確認して行こうではないか。アニー=ランダー、其方の竜騎士はそこにいるダリウシュ=バルトミール侯に相違ないな」
ドルジの赤茶色の瞳がギョロっとアニーを見つめる。
彼は眩しいほどの美形で、眉が太く切れ上った双眸は冴え冴えとし怜悧だ。
彫り深で精悍に削げた頬、薄い唇。
全てが完璧なバランスで配置され彫像のように美しいのに、所作の端々が荒々しく獰猛さに溢れていた。
「……はい」
今更嘘をついても仕方ないと、アニーは認める。
「いつ、バルトミール侯の天妓になったのだ?」
「二年前です」
誰もが小さく息を詰め、オスカーに至っては「んっん~、まぁまぁ」とおかしそうに口を歪めた。
奇妙な反応だった。
「どのような経緯で出会い、契りを結ぶ事となった?」
隣にいるダリウシュが息をのむ。
それはアニーも同じだった。
ゆきずりの関係。
酔った彼を解放し、売春をもちかけられたから乗った、なんて言えるわけない。
「ナンパ……で、私のほうから声をかけました。彼は私が天妓だと知りませんでした」
ダリウシュの視線が動いたのを、ドルジは見逃さない。
「なるほど、興味深いな。戸籍を確認したところ、其方は和親族となっていたが……」
再び場内がざわつく。
憐憫の眼差しを向けられ、アニーは内心苛ついた。
きっともっと早く天妓だとわかっていたら快適で贅沢な暮らしができたのに…と皆、思っているのだろう。
そんな事望んでないのに。
「自身が天妓だと知っていたか?」
「……知りませんでした。疑ってはいたけど、身体的に違いすぎるし、確証はなかった」
白皙玲瓏な肌、白金の髪、ブルーグレイの瞳、華奢な身体。それが天妓族の証。
しかしアニーの髪は蜜柑色で肌は小麦色。
上背もあり筋肉質がっしりした体躯をしており、当てはまるのはブルーグレイの瞳だけだ。
容姿や身体的特徴でいえば、健康的な和親族の部類に入る。
「なるほど、なるほど。天妓だと疑っていたから、魔力を得るためバルトミール侯に声をかけたのか?」
「……それもあるし、自分のアイデンティティをはっきりさせたかったってのもあります」
ダリウシュから視線を感じる。
「そうなのか?」という言葉にならない声がぶつけられている……気がする。
「いつ自身が天妓だと確信した?」
「彼と別れてしばらくしてから……なんとなく。力が使える様になって」
「そんな馬鹿な!」
「ありえませんわ、修練もなしに力が使えるようになるなんて!」
「そうよ!”なんとなく”ですって!?嘘おっしゃい!」
そう言ったのはダリウシュのパートナーのアンバーだ。
彼女は真っ青になり唇を震わせている。
「竜騎士なしでどうして魔力が使えるのだ!バルトミール侯が手ほどきしたに決まっておる!」
頭ごなしに嘘だと言われる理由がわからず、アニーは困惑した。
「静粛に!」
ドルジの強い口調に広間は静まり返る。
「傾聴できないのであれば、ご退席願おう」
有無を言わさぬオーラを漲らせ、獅子を思わせるひと睨みでその場にいる全員を黙らせた。
「ということは契りを交わした時、バルトミール侯は其方が天妓だと知らなかったのだな?」
「……たぶん」
「それではバルトミール侯に話を聞こう。アニー=ランダーの供述に相違はないか」
「概ね相違ありません」
「概ね、とは?」
「契りを交わした時、私は彼女が天妓ではないかと疑いを持ちました」
今度はアニーが驚きで固まった。
疑う素振りは全くなかったのに、いつそんな疑念を抱いたんだろう。
「気になり後日彼女を探しましたが、行方がわからなくなっておりました」
さらに驚き、アニーはダリウシュを見上げポカンと口を開けた。
あの後、家賃が払えず階段下の部屋は追い出された。
一夜きりの関係だと思っていたのに、探してくれたなんて。
嬉しさと、もしその時捕まっていたらもっと早く母と引き離されたんだろうかと、複雑な心境になる。
「その際、彼女が天妓疑いである事を報告済みです。同時に捜索願いも提出いたしました」
「なるほど、後ほど確認しよう。その後、彼女と会ったり連絡を取り合う事はあったか?」
「一度もありません」
「もう一度アニー=ランダーに尋ねる。本当にこの二年間、バルトミール侯と会ってないか」
「はい」
「なるほどな……」
ドルジは軽く目を瞑り、思索に耽る。
やがて「もしかすると……」と前置きして話し出した。
勢いよく九十度に腰を折り、頭を下げた。
「皆様、大変申し訳御座いません!この者は私の天妓です。この者の罪は監督責任を怠った私の罪。何卒、私に罰をお与えください」
「なんだと!?」
「嘘よっ!!」
ザワザワと動揺が広がった。
広間の右側には七侯の竜騎士達が、左側にはそのパートナーの天妓達が一直線に腰掛けている。
その中にはあのカイゼル髭のおネェ男・オスカーとツインテールのロリポップ娘・シャーロット、それに先ほどアニーを案内したキャスとロゼもいた。
それぞれが座る椅子には植物や動物を模した繊細な細工が施され、背もたれが異様に長く高い。
正面には国王であるドルジが同じ形式の黄金の玉座に、少し下がった場所に彼のパートナーで女王のカロリーナが座していた。
玉座の背後は一面ステンドグラスで、精緻を極めている。
こんな大きなステンドグラスをアニーは初めて目にした。
首都コックスで一番の教会でも、これほど素晴らしい作品は拝めない。
陽の光が射し込めばさぞ美しく、そして国王と女王をより神々しくみせるのだろう。
「これは新たな展開だな」
楽しむような口ぶりのドルジとは反対に、誰かが厳しい口調で「バルトミール侯もその者と共にイカサマに組したのか!」と糾弾する。
アニーは「違います!」と叫んだ。
「この人とは…契りを交わした後は一度も会ってません‼︎」
全員が何を言ってるんだって顔をする。
ダリウシュでさえも不可解な面持ちを浮かべている。
そんなに変な発言したかな。
「嘘に決まってます!」
「そうだ、竜騎士に会わずしてどうやって魔力を維持するのだ」
今度はアニーのほうが頭を捻る番だった。どうって…どういう意味?
「静粛に」
ドルジの鶴の一声で全員が口を噤む。
「これは今までにない事案だ。一つ一つ確認して行こうではないか。アニー=ランダー、其方の竜騎士はそこにいるダリウシュ=バルトミール侯に相違ないな」
ドルジの赤茶色の瞳がギョロっとアニーを見つめる。
彼は眩しいほどの美形で、眉が太く切れ上った双眸は冴え冴えとし怜悧だ。
彫り深で精悍に削げた頬、薄い唇。
全てが完璧なバランスで配置され彫像のように美しいのに、所作の端々が荒々しく獰猛さに溢れていた。
「……はい」
今更嘘をついても仕方ないと、アニーは認める。
「いつ、バルトミール侯の天妓になったのだ?」
「二年前です」
誰もが小さく息を詰め、オスカーに至っては「んっん~、まぁまぁ」とおかしそうに口を歪めた。
奇妙な反応だった。
「どのような経緯で出会い、契りを結ぶ事となった?」
隣にいるダリウシュが息をのむ。
それはアニーも同じだった。
ゆきずりの関係。
酔った彼を解放し、売春をもちかけられたから乗った、なんて言えるわけない。
「ナンパ……で、私のほうから声をかけました。彼は私が天妓だと知りませんでした」
ダリウシュの視線が動いたのを、ドルジは見逃さない。
「なるほど、興味深いな。戸籍を確認したところ、其方は和親族となっていたが……」
再び場内がざわつく。
憐憫の眼差しを向けられ、アニーは内心苛ついた。
きっともっと早く天妓だとわかっていたら快適で贅沢な暮らしができたのに…と皆、思っているのだろう。
そんな事望んでないのに。
「自身が天妓だと知っていたか?」
「……知りませんでした。疑ってはいたけど、身体的に違いすぎるし、確証はなかった」
白皙玲瓏な肌、白金の髪、ブルーグレイの瞳、華奢な身体。それが天妓族の証。
しかしアニーの髪は蜜柑色で肌は小麦色。
上背もあり筋肉質がっしりした体躯をしており、当てはまるのはブルーグレイの瞳だけだ。
容姿や身体的特徴でいえば、健康的な和親族の部類に入る。
「なるほど、なるほど。天妓だと疑っていたから、魔力を得るためバルトミール侯に声をかけたのか?」
「……それもあるし、自分のアイデンティティをはっきりさせたかったってのもあります」
ダリウシュから視線を感じる。
「そうなのか?」という言葉にならない声がぶつけられている……気がする。
「いつ自身が天妓だと確信した?」
「彼と別れてしばらくしてから……なんとなく。力が使える様になって」
「そんな馬鹿な!」
「ありえませんわ、修練もなしに力が使えるようになるなんて!」
「そうよ!”なんとなく”ですって!?嘘おっしゃい!」
そう言ったのはダリウシュのパートナーのアンバーだ。
彼女は真っ青になり唇を震わせている。
「竜騎士なしでどうして魔力が使えるのだ!バルトミール侯が手ほどきしたに決まっておる!」
頭ごなしに嘘だと言われる理由がわからず、アニーは困惑した。
「静粛に!」
ドルジの強い口調に広間は静まり返る。
「傾聴できないのであれば、ご退席願おう」
有無を言わさぬオーラを漲らせ、獅子を思わせるひと睨みでその場にいる全員を黙らせた。
「ということは契りを交わした時、バルトミール侯は其方が天妓だと知らなかったのだな?」
「……たぶん」
「それではバルトミール侯に話を聞こう。アニー=ランダーの供述に相違はないか」
「概ね相違ありません」
「概ね、とは?」
「契りを交わした時、私は彼女が天妓ではないかと疑いを持ちました」
今度はアニーが驚きで固まった。
疑う素振りは全くなかったのに、いつそんな疑念を抱いたんだろう。
「気になり後日彼女を探しましたが、行方がわからなくなっておりました」
さらに驚き、アニーはダリウシュを見上げポカンと口を開けた。
あの後、家賃が払えず階段下の部屋は追い出された。
一夜きりの関係だと思っていたのに、探してくれたなんて。
嬉しさと、もしその時捕まっていたらもっと早く母と引き離されたんだろうかと、複雑な心境になる。
「その際、彼女が天妓疑いである事を報告済みです。同時に捜索願いも提出いたしました」
「なるほど、後ほど確認しよう。その後、彼女と会ったり連絡を取り合う事はあったか?」
「一度もありません」
「もう一度アニー=ランダーに尋ねる。本当にこの二年間、バルトミール侯と会ってないか」
「はい」
「なるほどな……」
ドルジは軽く目を瞑り、思索に耽る。
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