【完結】酔い潰れた騎士を身体で慰めたら、二年後王様とバトルする事になりました

アムロナオ

文字の大きさ
上 下
5 / 59

【05】タイトル戦

しおりを挟む
 ぼんやりブラウン管を眺めていると、公営賭博である”タイトル戦”の特集が流れていた。


 タイトル戦とは【竜騎士】と【天妓】がパートナーとなりゴールまでのタイムを競うレースだ。

   毎年、竜王戦/天王戦/王位戦/天位戦/和位戦/騎王戦/王戦の七大会が開催される。


 勝者が国王となり翌年の政の采配を担うため、国民の関心は高く、国家をあげた一大イベント。

 戦いを制し勝ち上がった竜騎士と天妓は国民から絶大な人気を誇り、アイドル的扱いを受ける。


 そもそも此処レミュエル島にはレミュエル国があり、三つの民族が肩を寄せ合い暮らしている。


 竜を祖に持つ竜騎族りゅうきぞく、魔を祖に持つ天妓族てんぎぞく、和を祖に持つ和親族わしんぞくだ。


 竜騎族は強靭な肉体と高い身体能力を持っている。

   圧倒的に強いので、国の中枢機関を牛耳っており、竜騎族による軍事国家だ。

   所謂特権階級の民族である。


 天妓族は竜騎族と契る事で魔力を得て、竜騎族から与えられるエネルギーを元に魔力を操る。

   繁殖力が低く、同族種間でしか子を産めない。

 絶滅危惧種に認定されるほど人口が少なく、不明な事が多い。

   竜騎族に保護されており、一般人は滅多な事では彼等を拝めない。


 和親族は特別な力を持たない。

   しかし繁殖力は高く人口の八割は和親族で、レミュエル国は和親族が支えていると言っても過言ではない。

   血気盛んだが、おおらかで情に厚い性格の人が多い。


 竜騎族と天妓族は特区で暮らしているので、街ですれ違うのはほぼ和親族と言っていい。

 つまり隣でジョシュにあしらわれているあの娘も、ケージ内で取っ組み合ってる彼等も和親族なのである。


「良かったな、勝ったぜ」

「やった」

 運良くアニーが賭けた選手が勝った。

   気を良くし、更に金額を倍にして次の試合にベットした。


 アニーだけでなく、この場にいたほぼ全員が大なり小なり賭けを楽しんでいる。

   ”格闘技”と”賭け”はレミュエル国の文化風習に深く根付いた娯楽なのだ。

 アニーも護身のために週二回、無料の格闘技塾に通っているし、賭けを生業とする賭博師は子ども達に人気の職業だ。

   目利きのある伯楽者になると、予想がメディアに取り上げられるほど高い地位を築いている。


「おっ、王位戦の結果でるぞ」

 ジョシュの独り言にアニーもテレビに目をやった。

   白黒ブラウン管の中には美男美女が所狭しと並んでいる。

 王位戦を勝ち上がった上位の竜騎士×天妓のペアだ。

   その中に知った顔を見つけ、苦い感情が蘇った。
 

   二年前アニーに力を与えた男、ダリウシュ=バルトミール。

   アニーと出会った時の彼はまだ少年っぽさが残り、身体も細マッチョで頼りない印象があった。

 しかしここ数年で彼の体躯はより洗練され、上半身の厚みは増し、尻や太腿は丸太のように太く、肩も腕も背中も大きくなった。

 頬は削げ、顎のラインはシャープになり、眼光にも凄味が増し、精悍な青年へと成長した。


 胸がドキドキと高鳴ると同時に苦しくなり、アニーはため息と共に目を伏せた。

 あの夜初めて異性に抱かれ、翌朝一人で目覚めた。

   机の上には十分過ぎるほどの紙幣が残され、メモの類はなかった。


 何故か虚しくなり涙が出た。

 何を期待していたのだろう。

   あの人には憂さを晴らせるなら誰でもよい、一夜の瑣末な情事。

 アニーも金を貰うため、あわよくば力を手に入れるための割り切った関係だった……はずなのに。


 彼の隣にはパートナーのアンバー=レモンドが微笑んでいる。

 薔薇の花が似合うきつめの美人で少し高慢そうだが、男ウケは良い。

   隙を見せるが簡単には手に入らない、駆け引きを楽しみたい小悪魔系といったところだろうか。

 前髪は女優のように立ち上がり、波紋のように波うつウェーブは整然と並び一糸乱れない。

 真っ赤な唇から白い歯を覗かせ、女性にしては鼻梁がしっかり通っている。

   そのせいで勝気で高飛車な印象をもつが、彼が選んだ女性だ。実は懐の広い女傑なのかも。


 二人が仲睦まじくデートする様子が定期的に報道される。

  毎回アニーはひどくショックを受けた。

 やっぱり彼女と付き合っているんだ。お似合いのカップルね、どんなデートをしてるんだろう。

   私にしたように彼女を抱いているのか……と気持ち悪い事を考えてしまう自分が本当にイヤだ。


 身体を繋げると、心まで奪われるのだろうか。SEXで愛着が湧いたか。

 例えるなら一度口にした至高の果実の味が忘れられず、手に入らないとわかっていても欲するのをやめられないってところだろうか。

 だとすればこのトキメキや胸は痛みは恋や愛などではなく、単なる欲望、執着。

   理性で押さえこめるはず。


 何度も気にしないようにしよう、忘れようとしたが、テレビや新聞に載っていると無意識で目で追ってしまう。

 どんなに努力してもアイドル竜騎士である彼を見ない日はなく、二年経った今でも、一方的に囚われている。

 自分はこんなにも苦しんでいるのに、ブラウン管の中の彼はいつも仲間に囲まれ、無邪気に微笑み幸せをそうだ。

 それがいつしか憎らしくなるという、負の無限ループ。


「やっぱりドルジか。国王様は強ぇな~」

 ダリウシュの隣で腰まである髪をハーフアップにし威風堂々と立つのが、現国王ドルジ=アルタンだ。

 彼は”赤獅子”の異名を持ち、朝陽を浴び暁の空に咆哮する獅子を彷彿とさせる。

   身長体格はダリウシュのほうがあるが、自信に満ち溢れる様は彼を誰よりも大きく魅せる。


「ニア、おまえは良い賭博師なんだから、タイトル戦に賭けろよ。こんな場末のファイトクラブでちまちま稼いでないでさ」

 ジョシュのアドバイスに、アニーは苦笑いした。


 公営ギャンブルのタイトル戦では、多くの人が沢山の金を賭ける。

   たった一日で億万長者になれるほどに。

 その分イカサマ対策は厳重で、バレたらやばい。

   ただでさえアニーは天妓族から追われているというのに。


 それに賭博師は母の医療費を稼ぐために始めた仕事だ。

   今は家もないし、母娘二人の根無し草生活に大金は必要ない。


「あたしは馬が本職だから、タイトル戦はよくわかんないんだよね。此処で勉強中!」

「そうだな。格闘技の見る眼はイマイチかもしんねぇな」

 ジョシュ顎をしゃくった方向を見ると、二試合目、アニーが賭けた選手はマウントを取られフルボッコに殴られている。


「ダメだなアレは、立てねぇよ」

 彼の予想通り、背後から首を絞めるチョーク技で選手は失神した。


「残念だったな、ニア」

「……だね」

 アニーは左手に握られた懐中時計の竜頭に手をかけた。

   蓋が開き、秒針が時を刻む。


 突然ジョシュは固まり、我に返り「えーっと」と独り言を零す。

「ジョシュ、払い戻しお願い」

「あぁ、そうだ。そうだったな、俺は払い戻してたんだった」

 ジョシュは紙幣を数え、「またアタリだな」と言ってアニーに手渡す。

 アニーは「たまたまだよ」と答え、慣れた手つきで丸めゴムで留めてナップザックに仕舞った。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...