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【75】予想外 〜ディディのもとに帰る〜

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「サボってるわけじゃないからな」

ユージンの気配を察知し、サニーは小言回避の先手を打った。

ドアを閉める音どころか足音さえ全くたてなかったのに、察しの良い人だとユージンは感心する。


「どうでしょうか。昔から殿下はサボるのがお上手で、私は探すのに苦労しましたよ」

「そうだったか?」

悪戯顔で微笑むと、ユージンは口では「仕方のない人だ」と言いながら、満更でもなさそうな顔をした。


「首尾は上々のようですね」

「製造方法、取引先、帳簿が手に入ったら俺は隠居するぞ。後は頼むな」

「馬鹿なことを……」

「本気だよ。こんな陰気な場所にはオサラバして、ディディのもとへ帰る」

軽く流してしまおうとしたユージンに、サニーは強い口調で返した。



「……帰ってどうするんです?まさか」

「ディディと戻ってくるさ」

サニーの言葉に、ユージンはつい眉を顰めた。


ダニエル・マッキニーは危険だ。

彼女に熱をあげるあまり、主人はロンド教幹部を罪に問うよりマッキニー領から追い出すのを優先するのでないか。

サニーに限ってそんな中途半端で甘い処分をする事はないと信じたいが、ユージンは不安になった。


「ハハハハハ、心配するなユーリ。害虫を駆除するなら根っこから、上澄みだけ払っても意味はない。徹底的にやるさ。ただ……」

「ただ?」


「ディディにもなにかさせてあげるべきだろ?此処は彼女の故郷で生家でもあるんだから」

「単に殿下がマッキニー准尉に会いたいだけでは?」


「否定はしない。独り寝が長引いてるしな」

「それなら口説いてる信徒の一人でも抱いたらいいじゃないですか」


「そんなことしたら、他の信徒達も抱かなきゃいけなくなるだろ。俺が何人口説いてると思ってんだ」

「七人ですね。ちょうど日替わりでイケます」


「食堂の定食メニューみたいに言うなよ。それに俺はそんなに節操のないオトコじゃないぞ」

「どの口が言うんですか。つい三ヶ月前まで、享楽にふけってたじゃないですか。それなのに、”ディディ、ディディ”って!!気持ち悪い……じゃなかった、厚かましいんですよ」


つい出てしまったユージンの本音にサニーは吹き出した。

「おお、今日も毒舌が冴えてるな」

「そもそも殿下がマッキニー准尉を置いてきたんですよ」

私は帯同させたらどうかと進言したのに!と、ユージンは小言を零す。


「そうだけどさぁ。俺だって予想外なんだよ。全て片付いた後に俺の正体を明かして、任務で潜入していたとマッキニー男爵夫人に説明しようと思っていたのにサ。俺が浮気性でも男爵夫人はまーったく気にしないなんて」

末娘キャサリンの夫候補にロックオンされてますもんね。マッキニー准尉が知ったら、また大騒ぎになりますよ」


「だからこそ早いところディディとの関係を打ち明けるべきだろ」

「どうですかねぇ」

ユージンは尖った顎を意味あり気に触った。
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