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【74】初めて 〜そろそろ潮時〜

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「この薬はどういう時に使うんだい?」

その粉ウィードはすごい薬なんですのよ。病気の時に飲めば痛み苦しみが緩和され、憂鬱な時に飲むば気分が晴れる。まるで魔法のようにどんな悩み苦しみに効く万能薬として、教会内では使われているわ」


「すごい薬だ!もしこの薬を私の領内で生産できれば、私達は大金持ちになれるぞ」

サニーの言葉にマリナは目を輝かせた。

教会の仲間を裏切る罪悪感が、二人の愛と素晴らしい未来の前に霞んでゆく。


「薬の原料は?」

「近くの山で栽培されてる葉っぱよ。それを蒸して抽出したエキスを乾燥させて粉にするの」


「正確な栽培方法や製造方法はわかるかい?それとどんな人に売れば一番儲けが出るか知りたい。いつ誰に使ったかわかるような帳簿があれば助かる」

「わかったわ、探してみる」


「ありがとう、マリナ。でも大丈夫かい?教会にばれたら……」

「ばれないようにやるわ!大丈夫、アタシを信じて」


「あぁ、マリナ。貴女はなんて素晴らしい女性なんだ。勇敢で健気で……貴女に愛されて私は幸せだ。薬の事がわかったら、此処から二人で逃げ出そう」

「伯爵様……」

「マリナ……」

二人は固く抱き合った。



まるで本当の恋人同士のようだが、女が部屋を出た瞬間、サニーは無表情になり髪をかきあげ、窓枠に腰掛け煙草に火をつけた。

煩わしさを吐き出すように煙を吐き、気怠気にサニーは遥か遠くの空に目を向ける。


荘厳な山々に薄い雲、透き通るような青い空。

美しい景色を前にしても、虚しさは埋められない。


「ディディ……」

マッキニー領に来て暫く経つが、ふとした瞬間に想い出すのは彼女のことばかり。

彼女はどうしているだろう……。


ダニエルの長い睫毛、ピンクベージュの唇、ハッとするほど蠱惑的こわくてきな瞳。

思い出すだけで、サニーの下半身は悶々としてくる。


干涸ひからびた男の身体は、女体の柔らかな身体に惹かれる。

それはもう正直なほどに。

ハグだけで邪な欲求が沸き起こるほどに。


ハグはなるべくするなとダニエルが言っていたけど、その理由がわかった。

欲求は沸き起こるし女性に触れれば身体は反応するが、求めてるのはダニエルだけだ。

それを証明するすべがないのが残念だけれど。


「ふぅ」と、サニーはため息をついた。

女性を口説くのも、女性の身体に触れるのも大好きだったのに、なんだか面倒だ。

これまではゲーム感覚で楽しめたのに、今は億劫で仕方ない。


上手に嘘を吐くコツは、真実を僅かに混ぜること。

「愛してる」という言葉が百パーセント嘘であってはならない。

そこに好意がなければ、嘘だと見抜かれる可能性があるからだ。


「そろそろ潮時かな」

今後、こういう仕事は別の者に任せたほうがいいだろう。

まさかこんな形で彼女ディディが影響を及ぼしてくるなんて。


見ない鎖に繋がれているようだが、それが心地よく、胸を高揚させる。

サニーにとって初めての経験だった。
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