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【60】潜入 〜待っていて〜

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「来週から俺もマッキニー領に潜入することにしたんだ。ユーリと一緒に行ってくるヨ」

「その言い方だと、あたしは連れてってくれないのね」


父は不正を働いているのか、領主として不適切だったのか。

此処にいる誰より行く末を見届けたいと思ってるのを、サニーは知っているはずだ。


それなのに置いていくということは、役に立たないと言われたようなもの。

悔しさで心が靄に包まれる、ダニエルは唇を噛んだ。

そんなダニエルの気持ちを知ってか、サニーはより強く抱き締めてきた。



「ん……ディディには待っていてほしいんだ」

「どうして?あたしじゃ、みんなの力になれない?」


「そうじゃないヨ。ディディのせいじゃない、俺のせいだ。俺がキミを連れていきたくないんだ」

ダニエルは理由がわからず、黙って耳を傾けた。


「次の任務は”色仕掛け”になる。任務とはいえ、他の女性を口説いてるのを見られたくないんデス」

以前ハルボーン中佐から報告を聞いた時、信徒を誘惑し証言を得ようと話していたのを思い出した。

でもその役はワトソン少尉とハルボーン中佐がする予定だったはず。


「この前、話していた件ね。”証言を取る”っていう……でもなんでサニーまで潜入することに?ワトソン少尉とハルボーン中佐の潜入捜査がうまく行ってないの?」

サニーは喉奥で「ゔ……」と唸った。

それはね……俺は誘惑するのが天才的に上手いからさー!!、とは口が裂けても言えない。


「うまく行ってないっていうより、早くマッキニー領の問題を解決したくてサ。もし奴等が麻薬を使って父君を洗脳してるなら、早く助けださないと危険だ」

げっそりと頬が痩けた父を思い出し、ダニエルは胸が痛んだ。



父のことが心懸かりではあったけど、見捨てた自分もいる。

話しても無駄だと、お金を渡せばいいのだと、諦めていた。


もっと話をするべきだったかもしれない。

けれど父は幼少期から支配的威圧的で、意に沿わぬことを言えば躾と称し叩かれ、弟妹が生まれてからはダニエルに無関心になり、そんな父だったのでダニエルもいつしか必要最低限しか話しかけなくなった。


そして親娘の溝が決定的になったのが、だ。


父への不信感と恨みが晴れず、家を出て軍に入隊した。

父の意向を無視した勝手な入隊だったので、当然父は烈火の如く怒り狂い勘当されたが、悲しいとは思わなかった。



それ以降、成人後も父との直接的な会話を避け今に至る。

きっと父はダニエルと話したいとも、顔を見たいとも思っていないだろう。

勝手にそう決めつけてきたが、父がロンド教に傾倒し始めたのは、ダニエルが家を出て直ぐだったらしい。


「ねぇさんを失った悲しみや寂しさを埋めるため、ロンド教に救いを求めたんだよ」と、ポーラは言っていた。

「貴女が家を出たショックで、あの人はああなったのよ」と母からは詰られた。


もしかするとダニエルが思っている以上に、父は自分と話をしたいのかもしれない。

ダニエルにも何かできるかもしれない。
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