44 / 81
【44】五年前① 〜思春期に〜
しおりを挟む
「五年前という時期に、何かこころあたりは?」
ハルボーン中佐に訊ねれ、ダニエルは少し考えこむ。
「その時分に帰省しましたが、特段なにも……」
サニーとユージンの目が光る。
「どうして帰省したんですか?マッキニー准尉は十年前、軍に入隊後、ご家族とは疎遠だったんですよね?」
「えぇ。ポーラが首都セーラスの寄宿舎にはいることになったので、迎えに行ったんです。ちょうど近衛隊に配属されたばかりだったし、その報告も兼ねて」
「迎えに?当時、ど田舎のマッキニー領には蒸気機関車が走っておらず、街まで出るには馬車での移動だった。だとしても十五歳の少年が姉に迎えにきてもらうのは少々過保護すぎる気がするんですが」
「当時、弟は不安定だったんです。失恋したって言ってました……食事も喉を通らないほどで、急に暴れたり自暴自棄になってお酒に逃げることもありました。寄宿舎への入校も、荒れた生活を立て直すためだと聞いてます」
「思春期にはありがちなことですね」
ユージンの言葉にダニエルは頷いた。
子どもと大人の狭間、多感な時期。
親の支配から抜けたくてもがき苦しんだ覚えは、ダニエルにもある。
「そこから女遊びが始まったんダネ」
「せっかく入ったのに、寄宿舎で覚えたのはタバコと博打、女遊び。あれじゃあなんのために行ったんだか……」
「貴族の坊々としては実に健全な学生生活だ」
サニーの言葉に、ダニエルとユージンは呆れる。
その視線を感じて彼は「俺は学業に励んでいたけど~」などと冗談にもならないことを言う。
無視してユージンが「それで……ご両親や妹さんに変化はありませんでしたか?城内の様子は?」と訊ねた。
「母は特に…父は飲酒量が増えたと。城内の使用人達は半数ほど入れ替わってました。あと妹は久しぶりに帰省したら、冷たくなってましたね。家を出た時は”行かないで”って泣いてくれたんですけどね。それを振り切って家を出たから、たぶん捨てられたと思ったんでしょう。入隊後も実家を避け幼い妹を省みなかったので、嫌われるのは当たり前ですけど」
「それなら近衛隊配属の報告も、家族は喜ばなかったんじゃないか?」
「えぇ、まぁ……」
そんな野蛮な仕事より、金持ちの家に嫁ぎなさい。
今なら貰い手があるけど、数年後には行き遅れよ。
母は顔を見ればそればかりだった。
表情を暗くするダニエルにサニーは彼女が何を言われたのか察した。
困窮した貴族が真っ先に売るもの、それは娘だ。
豊満な肉体を持つ彼女なら、援助を申し出るスケベな年寄りは沢山いるだろう。
彼女が軍に入ったのは、サニーにとっては良かったかもしれない。
ハルボーン中佐に訊ねれ、ダニエルは少し考えこむ。
「その時分に帰省しましたが、特段なにも……」
サニーとユージンの目が光る。
「どうして帰省したんですか?マッキニー准尉は十年前、軍に入隊後、ご家族とは疎遠だったんですよね?」
「えぇ。ポーラが首都セーラスの寄宿舎にはいることになったので、迎えに行ったんです。ちょうど近衛隊に配属されたばかりだったし、その報告も兼ねて」
「迎えに?当時、ど田舎のマッキニー領には蒸気機関車が走っておらず、街まで出るには馬車での移動だった。だとしても十五歳の少年が姉に迎えにきてもらうのは少々過保護すぎる気がするんですが」
「当時、弟は不安定だったんです。失恋したって言ってました……食事も喉を通らないほどで、急に暴れたり自暴自棄になってお酒に逃げることもありました。寄宿舎への入校も、荒れた生活を立て直すためだと聞いてます」
「思春期にはありがちなことですね」
ユージンの言葉にダニエルは頷いた。
子どもと大人の狭間、多感な時期。
親の支配から抜けたくてもがき苦しんだ覚えは、ダニエルにもある。
「そこから女遊びが始まったんダネ」
「せっかく入ったのに、寄宿舎で覚えたのはタバコと博打、女遊び。あれじゃあなんのために行ったんだか……」
「貴族の坊々としては実に健全な学生生活だ」
サニーの言葉に、ダニエルとユージンは呆れる。
その視線を感じて彼は「俺は学業に励んでいたけど~」などと冗談にもならないことを言う。
無視してユージンが「それで……ご両親や妹さんに変化はありませんでしたか?城内の様子は?」と訊ねた。
「母は特に…父は飲酒量が増えたと。城内の使用人達は半数ほど入れ替わってました。あと妹は久しぶりに帰省したら、冷たくなってましたね。家を出た時は”行かないで”って泣いてくれたんですけどね。それを振り切って家を出たから、たぶん捨てられたと思ったんでしょう。入隊後も実家を避け幼い妹を省みなかったので、嫌われるのは当たり前ですけど」
「それなら近衛隊配属の報告も、家族は喜ばなかったんじゃないか?」
「えぇ、まぁ……」
そんな野蛮な仕事より、金持ちの家に嫁ぎなさい。
今なら貰い手があるけど、数年後には行き遅れよ。
母は顔を見ればそればかりだった。
表情を暗くするダニエルにサニーは彼女が何を言われたのか察した。
困窮した貴族が真っ先に売るもの、それは娘だ。
豊満な肉体を持つ彼女なら、援助を申し出るスケベな年寄りは沢山いるだろう。
彼女が軍に入ったのは、サニーにとっては良かったかもしれない。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
獅子の最愛〜獣人団長の執着〜
水無月瑠璃
恋愛
獅子の獣人ライアンは領地の森で魔物に襲われそうになっている女を助ける。助けた女は気を失ってしまい、邸へと連れて帰ることに。
目を覚ました彼女…リリは人化した獣人の男を前にすると様子がおかしくなるも顔が獅子のライアンは平気なようで抱きついて来る。
女嫌いなライアンだが何故かリリには抱きつかれても平気。
素性を明かさないリリを保護することにしたライアン。
謎の多いリリと初めての感情に戸惑うライアン、2人の行く末は…
ヒーローはずっとライオンの姿で人化はしません。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる