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【44】五年前① 〜思春期に〜

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「五年前という時期に、何かこころあたりは?」

ハルボーン中佐に訊ねれ、ダニエルは少し考えこむ。


「その時分に帰省しましたが、特段なにも……」

サニーとユージンの目が光る。


「どうして帰省したんですか?マッキニー准尉は十年前、軍に入隊後、ご家族とは疎遠だったんですよね?」

「えぇ。ポーラが首都セーラスの寄宿舎にはいることになったので、迎えに行ったんです。ちょうど近衛隊に配属されたばかりだったし、その報告も兼ねて」


「迎えに?当時、ど田舎のマッキニー領には蒸気機関車が走っておらず、街まで出るには馬車での移動だった。だとしても十五歳の少年が姉に迎えにきてもらうのは少々過保護すぎる気がするんですが」

「当時、弟は不安定だったんです。失恋したって言ってました……食事も喉を通らないほどで、急に暴れたり自暴自棄になってお酒に逃げることもありました。寄宿舎への入校も、荒れた生活を立て直すためだと聞いてます」


「思春期にはありがちなことですね」

ユージンの言葉にダニエルは頷いた。


子どもと大人の狭間、多感な時期。

親の支配から抜けたくてもがき苦しんだ覚えは、ダニエルにもある。



「そこから女遊びが始まったんダネ」

「せっかく入ったのに、寄宿舎で覚えたのはタバコと博打、女遊び。あれじゃあなんのために行ったんだか……」

「貴族の坊々としては実に健全な学生生活だ」

サニーの言葉に、ダニエルとユージンは呆れる。


その視線を感じて彼は「俺は学業に励んでいたけど~」などと冗談にもならないことを言う。

無視してユージンが「それで……ご両親や妹さんに変化はありませんでしたか?城内の様子は?」と訊ねた。


「母は特に…父は飲酒量が増えたと。城内の使用人達は半数ほど入れ替わってました。あと妹は久しぶりに帰省したら、冷たくなってましたね。家を出た時は”行かないで”って泣いてくれたんですけどね。それを振り切って家を出たから、たぶん捨てられたと思ったんでしょう。入隊後も実家を避け幼い妹を省みなかったので、嫌われるのは当たり前ですけど」

「それなら近衛隊配属の報告も、家族は喜ばなかったんじゃないか?」

「えぇ、まぁ……」


そんな野蛮な仕事より、金持ちの家に嫁ぎなさい。

今なら貰い手があるけど、数年後には行き遅れよ。

母は顔を見ればそればかりだった。


表情を暗くするダニエルにサニーは彼女が何を言われたのか察した。

困窮した貴族が真っ先に売るもの、それは娘だ。

豊満な肉体を持つ彼女なら、援助を申し出るスケベな年寄りは沢山いるだろう。

彼女が軍に入ったのは、サニーにとっては良かったかもしれない。
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