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【42】遭難 〜絶望を知る〜
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「それ以外には何かあるか?」
「ポーラ君が気づいたことなんですが……五年前から度々、失踪事件が起きてるそうです。行方不明者と遭難者合わせて四十名以上、全て年端もいかない少年少女達です」
「家出の可能性は?」
「血気盛んな若者が衝動的に故郷を飛び出す事はよくありますもんね」
中佐は即座に首を振って、サニーとユージンの問いを否定した。
「もしも家出したとすれば、困窮し故郷へ戻ってくるか出奔先で悪さをして捕まるでしょう。紹介状なしで働けるほど、世の中は甘くありませんからね。それなのに、誰も帰ってきていない。つまり完全に行方知れずになっているんです」
「五年で四十名以上……一年に八名もの行方不明者が出てるってこと!?どう考えても多すぎるわ。父上は一体なにをしていたのかしら」
一気にきな臭くなってきた展開にサニーもユージンもおし黙る。
「全員が十八歳以下の若者で、十歳の少年もおります。未だに発見されてないことから、事件もしくは事故に巻き込まれたと考えるのが妥当かと。ちなみにマッキニー男爵は捜索を行っていません」
「そんなっ!!」
ダニエルは思わず口を塞いだ。
そうしなければ疑念を声にしてしまいそうだったから。
父上は敢えて捜索しなかったんじゃないか……と。
「まぁ多くの者は十一月から三月にかけて行方をくらましており、冬山での遭難事故として処理されているんですが」
中佐の言葉に、ダニエルの心臓が錆びた金属が軋む時のような嫌な音を立てた。
山で……遭難…………。
思考が過去の記憶の中へと堕ちていく。
忘れることのできない、あの日のーー。
それは晴れた冬の日だった。
久しぶりに太陽が空に昇っていたのをよく覚えている。
天気がいいと、麓は賑わいを増す。
物資を売り買いしに山から降りてくるからだ。
その日ダニエルは久しぶりに幼馴染と会い、離れがたくて山の中腹にある山小屋へ行った。
その帰り道のことだった。
ーー翡翠の指輪を山小屋に忘れてきた?
ーーディディは忘れっぽいよな
ーーちょっと待ってな、俺が取ってくるよ
陽が落ち始め、厚い雲が山頂を覆っている。
天候が荒れるのは目に見えていた。
ーー大丈夫、心配ないさ
ーー雪嵐になる前に帰ってくるから
ーー山道は慣れっこなの、知ってるだろ?
少年は身を翻し、あっという間に山道へと消えていく。
その俊敏さはまるで鷹のようで、ダニエルは彼の背に翼をみた。
力強く羽撃くその姿に、不安は一つもなかった。
……あたりが暗闇に包まれる、までは。
ーーなに!?山小屋へ行っただと!
ーーまだ帰ってきてない!?
ーーそんなっ!この吹雪だぞ!!これじゃあ……
ダニエルは父の元へ走った。
ーー父上、捜索隊を出してください!
ーーお願いします!!
ダニエルを見下ろす父の視線は冷たく硬い。
ダニエルや弟妹に引き継がれたターコイズグリーンの瞳が、緑泥のように見える。
その時初めて、ダニエルは父の闇を見た。
父親はダニエルに背を向けた。
ダニエルは絶望を知った。
ーー今なら間に合うわ!
ーー父上、ダスティンを助けて……
ーーダスティン、ダスティンーーーー!!!
「ポーラ君が気づいたことなんですが……五年前から度々、失踪事件が起きてるそうです。行方不明者と遭難者合わせて四十名以上、全て年端もいかない少年少女達です」
「家出の可能性は?」
「血気盛んな若者が衝動的に故郷を飛び出す事はよくありますもんね」
中佐は即座に首を振って、サニーとユージンの問いを否定した。
「もしも家出したとすれば、困窮し故郷へ戻ってくるか出奔先で悪さをして捕まるでしょう。紹介状なしで働けるほど、世の中は甘くありませんからね。それなのに、誰も帰ってきていない。つまり完全に行方知れずになっているんです」
「五年で四十名以上……一年に八名もの行方不明者が出てるってこと!?どう考えても多すぎるわ。父上は一体なにをしていたのかしら」
一気にきな臭くなってきた展開にサニーもユージンもおし黙る。
「全員が十八歳以下の若者で、十歳の少年もおります。未だに発見されてないことから、事件もしくは事故に巻き込まれたと考えるのが妥当かと。ちなみにマッキニー男爵は捜索を行っていません」
「そんなっ!!」
ダニエルは思わず口を塞いだ。
そうしなければ疑念を声にしてしまいそうだったから。
父上は敢えて捜索しなかったんじゃないか……と。
「まぁ多くの者は十一月から三月にかけて行方をくらましており、冬山での遭難事故として処理されているんですが」
中佐の言葉に、ダニエルの心臓が錆びた金属が軋む時のような嫌な音を立てた。
山で……遭難…………。
思考が過去の記憶の中へと堕ちていく。
忘れることのできない、あの日のーー。
それは晴れた冬の日だった。
久しぶりに太陽が空に昇っていたのをよく覚えている。
天気がいいと、麓は賑わいを増す。
物資を売り買いしに山から降りてくるからだ。
その日ダニエルは久しぶりに幼馴染と会い、離れがたくて山の中腹にある山小屋へ行った。
その帰り道のことだった。
ーー翡翠の指輪を山小屋に忘れてきた?
ーーディディは忘れっぽいよな
ーーちょっと待ってな、俺が取ってくるよ
陽が落ち始め、厚い雲が山頂を覆っている。
天候が荒れるのは目に見えていた。
ーー大丈夫、心配ないさ
ーー雪嵐になる前に帰ってくるから
ーー山道は慣れっこなの、知ってるだろ?
少年は身を翻し、あっという間に山道へと消えていく。
その俊敏さはまるで鷹のようで、ダニエルは彼の背に翼をみた。
力強く羽撃くその姿に、不安は一つもなかった。
……あたりが暗闇に包まれる、までは。
ーーなに!?山小屋へ行っただと!
ーーまだ帰ってきてない!?
ーーそんなっ!この吹雪だぞ!!これじゃあ……
ダニエルは父の元へ走った。
ーー父上、捜索隊を出してください!
ーーお願いします!!
ダニエルを見下ろす父の視線は冷たく硬い。
ダニエルや弟妹に引き継がれたターコイズグリーンの瞳が、緑泥のように見える。
その時初めて、ダニエルは父の闇を見た。
父親はダニエルに背を向けた。
ダニエルは絶望を知った。
ーー今なら間に合うわ!
ーー父上、ダスティンを助けて……
ーーダスティン、ダスティンーーーー!!!
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