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【41】腹心 〜正教会の闇祓い〜
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「そしてこの二人がティアゴ・ダロッチャの腹心である、ジョン・ダマーとベラ・ウェインです」
ハルボーン中佐は懐からもう二枚、写真を取り出した。
ジョン・ダマーは白髪の生えた壮年の男で、眉は細く、サニーと同じくタレ目だが、瞳には凶暴さと狂気が見て取れる。
一方のベラ・ウェインは頬も目も垂れた老婆で、特に目は線のように細く、近所の温厚なお婆ちゃんといった風貌だ。
彼女になら宗教を勧められても、いつでも断れる、害はないと判断してしまうだろう。
「一人は悪人、もう一人は善人っぽい顔をしているわね。彼なんて見るからに極悪人じゃない」
「ロンド教のルーツは正教会の闇祓い。そこから独立し、祓魔師として生計を立てるうちに宗教家へと転身したのでしょう」
正教会とはマッシリーニ大帝国の国教で、全国民が生誕と共に洗礼を受け、教皇は代々王太子が拝命する。
その正教会の闇祓い達は、王太子の命で公にはできない闇の仕事を請け負う集団なのである。
つまりもともと胡散臭い奴らなのだと、ユージンは内心で説明を加えた。
「手口は、悪魔祓いを受けた客の不安につけこみ、”ロンド教を信じなければ、今後も悪霊に悩まされる”と脅し信者に引き込むというものです」
「古典的なやり口だな」
中佐の呟きにユージンは鷹揚に頷き、共感を示した。
「薬は使ってなかった?ポーラ君は薬を処方されたって言ってたヨネ」
サニーの言葉にダニエルは十年前の記憶を辿った。
「当時父は不眠で悩んでいたそうです。その時に近づいてきたのがロンド教で、悪魔祓いの儀式を行い処方された薬を飲むと、不眠問題は驚くほど簡単に解決したそうです。しかしロンド教に入信しなければ、また悪霊に取り憑かれ眠れなくなると言われ信者になったという経緯です。当時私は軍学校に入っており実家を離れていたので、全てはポーラから聞いた話ですが……」
「今もその薬を飲んでいるんですか?」
「わかりません」
「中佐、ポーラ君とワトソン少尉に薬を拝借するように命じてください」
「わかった」
薬の話になり、ユージンは活き活きと目を輝かせる。
「ユーリは薬学に精通しているんだヨ」
その理由を、サニーが耳打ちして教えてくれる。
「他領からの報告では、ロンド教は信者に麻薬を使うそうです」
「そりゃあまた、えげつない。思考を奪い洗脳するわけか」
「ま、やく?なんですか、それ?」
聞きなれない言葉に、ダニエルはサニーとユージンに聞き返した。
しまった、口を滑らせたとユージンは息を飲む。
すかさずサニーが「女王陛下が使用を禁じた劇薬を総じて麻薬っていうんだ。でもこれは機密事項だからこれ以上は教えられないし、ディディも外部に漏らしたらいけないよ」とフォローした。
ハルボーン中佐は懐からもう二枚、写真を取り出した。
ジョン・ダマーは白髪の生えた壮年の男で、眉は細く、サニーと同じくタレ目だが、瞳には凶暴さと狂気が見て取れる。
一方のベラ・ウェインは頬も目も垂れた老婆で、特に目は線のように細く、近所の温厚なお婆ちゃんといった風貌だ。
彼女になら宗教を勧められても、いつでも断れる、害はないと判断してしまうだろう。
「一人は悪人、もう一人は善人っぽい顔をしているわね。彼なんて見るからに極悪人じゃない」
「ロンド教のルーツは正教会の闇祓い。そこから独立し、祓魔師として生計を立てるうちに宗教家へと転身したのでしょう」
正教会とはマッシリーニ大帝国の国教で、全国民が生誕と共に洗礼を受け、教皇は代々王太子が拝命する。
その正教会の闇祓い達は、王太子の命で公にはできない闇の仕事を請け負う集団なのである。
つまりもともと胡散臭い奴らなのだと、ユージンは内心で説明を加えた。
「手口は、悪魔祓いを受けた客の不安につけこみ、”ロンド教を信じなければ、今後も悪霊に悩まされる”と脅し信者に引き込むというものです」
「古典的なやり口だな」
中佐の呟きにユージンは鷹揚に頷き、共感を示した。
「薬は使ってなかった?ポーラ君は薬を処方されたって言ってたヨネ」
サニーの言葉にダニエルは十年前の記憶を辿った。
「当時父は不眠で悩んでいたそうです。その時に近づいてきたのがロンド教で、悪魔祓いの儀式を行い処方された薬を飲むと、不眠問題は驚くほど簡単に解決したそうです。しかしロンド教に入信しなければ、また悪霊に取り憑かれ眠れなくなると言われ信者になったという経緯です。当時私は軍学校に入っており実家を離れていたので、全てはポーラから聞いた話ですが……」
「今もその薬を飲んでいるんですか?」
「わかりません」
「中佐、ポーラ君とワトソン少尉に薬を拝借するように命じてください」
「わかった」
薬の話になり、ユージンは活き活きと目を輝かせる。
「ユーリは薬学に精通しているんだヨ」
その理由を、サニーが耳打ちして教えてくれる。
「他領からの報告では、ロンド教は信者に麻薬を使うそうです」
「そりゃあまた、えげつない。思考を奪い洗脳するわけか」
「ま、やく?なんですか、それ?」
聞きなれない言葉に、ダニエルはサニーとユージンに聞き返した。
しまった、口を滑らせたとユージンは息を飲む。
すかさずサニーが「女王陛下が使用を禁じた劇薬を総じて麻薬っていうんだ。でもこれは機密事項だからこれ以上は教えられないし、ディディも外部に漏らしたらいけないよ」とフォローした。
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