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【28】スケッチブック 〜……会いたいなぁ〜
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ダニエルは開けた口が塞がらず、ドアが閉まると同時にワナワナと怒りが込み上げてきた。
「埋め合わせって、どうせプレゼントでしょ!」
サニーは機嫌をとるように、毎晩贈り物を買ってきてくれる。
プレゼントを与えれば、女性の機嫌が直ると思っているらしい。
「ドレスを貰っても着ていく場所も褒めてくれる人もいないのに、どうしろっていうのよ」
きっとかつての女達もそうやって黙らせてきたのだろう。
ダニエルも最初は喜んだが、馬鹿の一つ覚えのようにプレゼントを贈られれば、昔の愛妾達にしてきたことだと気づく。
「……謝るくらいなら、一緒に連れてってよ」
ポツリと溢れた言葉が、豪華な部屋に虚しく響く。
今までならこんな時、親友のセレーナ・フェリックスとアリ・シュミットと励まし合い乗り越えてきたが、今、彼女達は遠く離れた首都セーラスで気軽に話すこともできない。
サニーの執務室には電話があるので、二人と連絡がとれないわけではない。
けれど執務室への入室は禁止されてるし、口を滑らるのが怖くて電話するのを躊躇ってる。
サニーがもっとかまってくれたら、いいんだけどなぁ。
今日あったことや他愛もないこと、喜びや不安に感じてることを聞いてほしい。
プレゼントも嬉しい……けど、ただ話を聞いてくれるだけで満たされるのに。
でもサニーが話す間もないほど忙しく動き回っていること。
実力不足を男に庇われ暇を持て余してるダニエルとは違い、誰もが彼を必要としていることも知っている。
昼は勿論、夜も会食……遅くまで会食。
酒の匂いを漂わせて帰宅し、「酒を飲むと口が軽くなる人が多いから、飲ませて情報収集してるんだ」って、女の香水の香りをさせながらエッチに雪崩れ込んだ日には、怒ってもイイよね!?
だから寂しさより劣等感や嫉妬怒りが先にきて、顔を合わせれば愚痴と不満ばかりこぼしてしまうの。
もっと可愛くてイイ女になりたい。
……のに、なれない。
それがダニエルには大きなストレスだった。
「はぁぁ、やめよ。余計虚しくなるわ」
ダニエルは何度目かになるため息をつき、クローゼットの続き間になる扉を開いた。
そこはサニーの部屋に比べるとシンプルな装飾の廊下とドアが並び、その内の一つがダニエルに割り当てられた居室である。
陽が入らず寝具と小さな机椅子だけの簡素な部屋だったが、サニーがランプや少しだけ豪華な椅子を用意してくれたので、不便なことはなにもない。
ダニエルはベッド脇に引き寄せられ、ベッドフレームの下からナップザックを引き出した。
陸軍支給のそのナップザックから手の平サイズのスケッチブックを取り出す。
このスケッチブックは何処へ行くにも持ち歩いてる、ダニエルの宝物だ。
パラパラとめくると、どのページも或る人物で埋め尽くされていた。
ダニエルは丸坊主の生意気そうな少年に目を細めた。
マッキニー領の先住民の特徴を引き継いだ尖った鼻先。
彫りが深すぎて目元に影がさし、陰鬱で鋭く感じる目元。
でも本当の彼は誰よりも優しく……温かくて……、そして強い人だった。
「……会いたいなぁ」
ダニエルは絵の輪郭をなぞろうとして手を止めた。
鉛筆の粉が掠れて、絵が薄くなっては困るからだ。
「……頑張らなくちゃ」
目頭が熱くなってきて、ダニエルは頭を振ってやりきれない想いを振り払った。
ここにいるのは警護実績を作って、近衛隊第一分隊に抜擢されるため。
目的を見失わないようにしなきゃ。
「埋め合わせって、どうせプレゼントでしょ!」
サニーは機嫌をとるように、毎晩贈り物を買ってきてくれる。
プレゼントを与えれば、女性の機嫌が直ると思っているらしい。
「ドレスを貰っても着ていく場所も褒めてくれる人もいないのに、どうしろっていうのよ」
きっとかつての女達もそうやって黙らせてきたのだろう。
ダニエルも最初は喜んだが、馬鹿の一つ覚えのようにプレゼントを贈られれば、昔の愛妾達にしてきたことだと気づく。
「……謝るくらいなら、一緒に連れてってよ」
ポツリと溢れた言葉が、豪華な部屋に虚しく響く。
今までならこんな時、親友のセレーナ・フェリックスとアリ・シュミットと励まし合い乗り越えてきたが、今、彼女達は遠く離れた首都セーラスで気軽に話すこともできない。
サニーの執務室には電話があるので、二人と連絡がとれないわけではない。
けれど執務室への入室は禁止されてるし、口を滑らるのが怖くて電話するのを躊躇ってる。
サニーがもっとかまってくれたら、いいんだけどなぁ。
今日あったことや他愛もないこと、喜びや不安に感じてることを聞いてほしい。
プレゼントも嬉しい……けど、ただ話を聞いてくれるだけで満たされるのに。
でもサニーが話す間もないほど忙しく動き回っていること。
実力不足を男に庇われ暇を持て余してるダニエルとは違い、誰もが彼を必要としていることも知っている。
昼は勿論、夜も会食……遅くまで会食。
酒の匂いを漂わせて帰宅し、「酒を飲むと口が軽くなる人が多いから、飲ませて情報収集してるんだ」って、女の香水の香りをさせながらエッチに雪崩れ込んだ日には、怒ってもイイよね!?
だから寂しさより劣等感や嫉妬怒りが先にきて、顔を合わせれば愚痴と不満ばかりこぼしてしまうの。
もっと可愛くてイイ女になりたい。
……のに、なれない。
それがダニエルには大きなストレスだった。
「はぁぁ、やめよ。余計虚しくなるわ」
ダニエルは何度目かになるため息をつき、クローゼットの続き間になる扉を開いた。
そこはサニーの部屋に比べるとシンプルな装飾の廊下とドアが並び、その内の一つがダニエルに割り当てられた居室である。
陽が入らず寝具と小さな机椅子だけの簡素な部屋だったが、サニーがランプや少しだけ豪華な椅子を用意してくれたので、不便なことはなにもない。
ダニエルはベッド脇に引き寄せられ、ベッドフレームの下からナップザックを引き出した。
陸軍支給のそのナップザックから手の平サイズのスケッチブックを取り出す。
このスケッチブックは何処へ行くにも持ち歩いてる、ダニエルの宝物だ。
パラパラとめくると、どのページも或る人物で埋め尽くされていた。
ダニエルは丸坊主の生意気そうな少年に目を細めた。
マッキニー領の先住民の特徴を引き継いだ尖った鼻先。
彫りが深すぎて目元に影がさし、陰鬱で鋭く感じる目元。
でも本当の彼は誰よりも優しく……温かくて……、そして強い人だった。
「……会いたいなぁ」
ダニエルは絵の輪郭をなぞろうとして手を止めた。
鉛筆の粉が掠れて、絵が薄くなっては困るからだ。
「……頑張らなくちゃ」
目頭が熱くなってきて、ダニエルは頭を振ってやりきれない想いを振り払った。
ここにいるのは警護実績を作って、近衛隊第一分隊に抜擢されるため。
目的を見失わないようにしなきゃ。
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