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【24】内偵調査 〜心配無用〜

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「っと!俺のお姫様がひいてるからこの話は止めよう……ディディ、俺は何もしてないヨ。ちょっと火の粉が掛かったら払ったダケ」

ベッドに腰掛けたサニーは煌めく笑顔を向けた。


「絶対ウソ!その笑顔が怖いのよ!」

伸びてきたサニーの手をパチンと叩くと、彼は手の甲を摩り「ヒドイなぁ」と弱々しく呟く。

その仕草や表情が芝居であること、サニー傍若無人ぼうじゃくぶじんに振る舞いつつも猫をかぶるのが上手いことを、もうダニエルは知っている。


「マッキニー准尉!殿下の御手を叩くなんて……貴女は本当に失礼で野蛮ですね。言葉遣いも悪いし、令嬢としての礼儀がなってません」

呆れるユージンとは逆に、サニーは嬉しそうに「そこがディディのい素敵なところじゃないか」と褒める。

どんなに不敬な態度をとろうがサニーは自分に甘いことも、既にダニエルは知っていた。


「ディディ、一先ひとまず、ブランチはどうデスか」

「食べ物で誤魔化されたりしないんだからっ!」


お腹はペコペコだったが、ダニエルは意地はって顔を背けた。

「ディディの好きなベーグルサンドだよ」

「……!!」

唾を飲むダニエルに、サニーはチョロいと口の端を引き上げる。


「サーモンとブルーベリーチーズを挟んだサンドウィッチ、好きでしょ?」

「なんで知ってるの?」

弟君ポーラから聞いたのさ。ホクトベガ号では色々話したからね」


ウマが合ったようで、首都セーラスから此方ボロンゴへ向う蒸気機関車の中で、サニーとポーラは夜分まで酒を酌み交わし話に華を咲かせていた。

護衛のダニエルはそれに付き合わされて寝不足になったのだけれど。


「さぁ、おいで、俺のお姫様。ブランチしながら弟君の事も話そう」

おもむろにサニーは毛布を被ったままのダニエルを抱きかかえた。


ポーラの名前を出されたら、聞かないわけにはいかない。

ダニエルはされるがままテラスのカウチに運ばれた。



「それで……ポーラの事って?」

ユージンがブランチを設定するのを横目で眺めつつ、ダニエルはサニーに訪ねた。


「予定通り、今朝早くマッキニー領へ発ったよ。内偵調査のためにね」

「そう……」


ダニエルは顔を曇らせ溜息をついた。

あの弟に内偵スパイが勤まるのか……不安だ。


ポーラは朗らかで要領は良いが、忍耐がなく気分屋なところがあり、嫌なことがあると途中で放り出してしまう。

学業や家督相続はのらりくらり逃げられても、親衛隊の内偵調査はそうはいかない。


逃亡しようものなら国家権力で追われ、処罰を受けることになる。

つまりポーラとダニエルは、マッキニー両男爵領の民のため、そして家族のために今回の任務を成功させるしかないのである。



「心配無用ダヨ。カイルが補佐についているからサ」

弟は訓練など皆無の一般人。

危険も伴うため、支える人材が必要である。

そこで白羽の矢が立ったのが、ハルボーン中佐である。


「そうよね……ハルボーン中佐なら上手くやってくれるわよね」

「中佐だけでなく、ワトソン少尉も帯同してますから。大船に乗った気持ちでいてもいいんじゃないですか」


ユージンの言葉にダニエルは驚いた。

彼はダニエルの補佐としてサニーの護衛に就くと聞いていたからだ。


「どうして少尉も一緒に?中佐だけのはずだったんじゃ……」

「んー、そうだったんだけどネ。カイルと弟君じゃあ、タイプが違うでショ。友達って感じしないじゃない」


「まぁ……そうね」

「それだけじゃなく、いかにも軍人的な中佐は警戒される恐れがある……そこで少尉です。彼は見た目もスリムで軍人風吹かせてません。ポーラ君の友人役として上手に立ち振る舞ってくれるでしょう」

なるほど!と、ダニエルは合点がいった。


「でも……それじゃあハルボーン中佐は潜入しないの?」

「いや、カイルは表向きエドの家人兼ボディーガードとして二人と行動を共にするヨ。ポーラ君を警護するから安心して」

「あの二人はヤバイ修羅場を何度も潜り抜けてる親衛隊切っての精鋭ですからね。相当ヤバい事が起きない限り、大丈夫でしょう」

ダニエルはコクコクと頷き、漸く胸のつかえが薄らいだ気がした。
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