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【01】西の大地 ① 〜ボロンゴ侯爵邸〜

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秋の黄昏時たそがれどき、空は水彩画のように淡く色づく。

空の高い場所は透き通った青紫色で、陽が消えゆく地平線の中心へと向かって、紫、ピンク、オレンジ、白金……という風にグラデーションを織り成す。


合わせて心地よい風と、弦楽器・馬頭琴モリンホールの力強い音色が吹き込んできて、ダニエル・マッキニーは故郷の山を懐かしんだ。

突き抜けるような青空に高くそびえ立つ山々の姿は壮大で、大自然は美しくも過酷で、神々しくすら感じていたものだ。


この空が故郷マッキニー領の空に続いてると思えば、胸が切なくなる。

ーーディディ!羊達を迎えにいこう

幼い頃に何度もかけられた言葉が、今にも聞こえてきそうだ。



ここはマッシリーニ大帝国西部の中心地、西都ボロンゴ。

ボロンゴ侯爵が治める、農業と酪農で栄えた街だ。


この地方は高い山々に北方を囲まれ、ミネラルを含んだ水が流れ込み、肥沃ひよくな大地に大麦小麦トウモロコシ等の穀物が豊富に実る。

高山のふもとでは数万もの家畜が放牧され、穀物を糧に安定的に畜産業が行えるため、”マッシリーニ大帝国の食料庫”と呼ばれていた。



ウチにも栄養たっぷりの黒土があれば、もう少しマシだったかもしれない。

そうすればマッキニー領の民は救われたのに……と、ダニエルは侯爵邸の大広間から窓の外へと視線を移した。

そのターコイズグリーンの瞳に、夕陽に染められ一面オレンジに染まった家々を映す。

豊かなボロンゴ領の街並みは、まるで秋の絶景コスモス畑が如く美しい。


マッキニー男爵領は海に面した北西の山岳高地にあり、岩ばかりで作物の育ち難い痩せた土地しかない。

同じ西部地方に属するが、ボロンゴ領とは大きく違っていた。


ボロンゴ領の中心街は首都セーラスにもありそうな白亜の大聖堂と市庁舎、時計塔が軒を連ね、石畳の目抜通りが東西南北に伸び、その隙間を背の高い赤煉瓦の家々が埋めている。


駅や大通りに設置された街灯が夜でも明かりを灯し、夕方市場ナイトマーケットや酒場は深夜まで活気に満ち、街中には至る所に侯爵家の紋章旗が掲げられ、市民からの領主への信頼が見て取れた。


一方のマッキニー領は改修を重ねた古い聖堂を市庁舎として利用し、街灯も駅にしかない。

一日に列車が数本しか通らない限界集落で、区画整備もされず好き好きに建てた平屋が山なりにポツポツと並び、娯楽が少ない代わりに人との結びつきが強い、所謂いわゆるど田舎。


領民達は領主であるダニエルの父、シシェック・マッキニーの顔色を常に伺い、厳しい環境で互いに助けあわねばならないため、和を重んじる。

それが息苦しくもあり、ダニエルは十五歳の頃に両親の反対を押し切って帝国陸海軍に入隊したのだった。
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