【完結】ユージン・クラインの憂鬱

【13】ユージン・クラインは今日も憂鬱

「全部……彼女の全てが俺には可愛いよ。今のところぞっこんさ」

　素直に認められてしまうと、益々苦々しさがこみ上げてくる。


「出会ってから、朝目覚めると真っ先に彼女が浮かぶんだ。何をしていてもディディにたどり着くし、彼女のことを考えると自然に鼓動が高鳴る。こんなの初めてだから、どうしていいかわからない時があるけど。それすらも新鮮で、毎日楽しいんだ。」

「しかしそんなの今だけです。永遠の愛など、不毛なお伽話です。人間は必ず飽きます、新たな好奇心を求めるのが人の性。いつか彼女に飽きる日が絶対に来ます」

「…………そうかもな」


　そんな日は来ない。

　生涯、彼女を愛し続ける。


　……とは口が裂けても言えない。

　飽き性で何者にも執着が薄い己の性格を、サニー自身、よく知っているからだ。



　ユージンの言う通り、何年後かに胸のトキメキが消える日がくるかもしれない。

　恋が終わった後、自分と彼女はどんな未来が待っているだろう。

　将来さきのことは何もわからない。


「でもそんな日が来たとしても、彼女と一緒に歩んでいきたいと思うんだ」



　好きの気持ちがなくなっても一緒にいたいと思える女性だからこそ、”公式な愛妾”にしようと思った。

　その覚悟を持てることが、”本気アイ”の証ではないだろうか。


　誰にでも心変わりする博愛主義者、おまけに快楽が三度の飯より大好きな享楽主義者ゆえ、サニーはろくな恋愛をしたことがなく、いい年して恋愛未熟者だ。

　その恋愛未熟者なりにダニエルとのことを考え抜いて出した結論だ。


　誰にも傷つけさせたくない。

　苦しみも悲しみも、喜びも幸せも……与えるのは自分でありたい。

　現在も未来もーーー。



　サニーの告白ににユージンは目を丸くした。


　陽の光を反射させる主人サニーの青紫の瞳が情熱と決意を秘め炎のように揺れ動く。

　同時にふと見せる寂し気な様子に、ユージンも切なさを覚えた。


　彼はこの世でただ一人、ユージンが幸せになってほしいと強く願う人。


　……仕方がありません、認めるしかありませんね。

　ユージンは心の中で何度目かになる大きなため息をついた。


　小娘ダニエルは気にくわないが、殿下の真剣な恋を応援せざる負えない。

　ともすれば、初めて本気になった女性なのだから。



「お待たせしました……」

　無遠慮に開かれた扉からダニエルが入ってくる。

　何も考えてなさそうなのんきな表情にイラっときて、ユージンは「時間がかかりすぎです！」と小言を吐いた。


「というか、なんでトレイを二つも持っているんです？」

「クライン執務官のぶんも、お持ちしました」

　無邪気に笑うダニエルに、ユージンは絶句した。


「私はまだ職務中です！余計なコトはやめていただきたい」

「まぁまぁ。クライン執務官も一緒にどうぞ」

「貴女ねぇ……」



　ユージンは眉間の皺をもみこむ。

　ダニエル・マッキニーの性格情報をアップデートしなければいけないようだ、”図々しく図太い”と。

　”どうぞ”ってなんだ！ここは殿下の客室だぞ。


　とはいえ、小娘なりに小賢しく考えたのだろう。

　ユージンをランチに引き込めば、自分だけが特別扱いされたわけではないと言い訳できると。


「クライン執務官も一緒でいいよね？」

　今度こそユージンは呆れて顔を歪めた。

　先ほど礼節をわきまえろと注意したばかりなのに、もうタメ口。


「いいヨ」

　サニーはニヤついた口調でそう答えた。


　きっと背後でユージンの主人は笑っているに違いない。

　この呑気のんきで図々しい小娘に骨抜きにされてるんだろう。

　口うるさくしながら、ユージンも口の端を綻ばせた。





【了】





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エロなしの短編/続編に最終話までお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
お気に入り&感想くださった読者様に、感謝(*´ω｀人)感謝です。


私事ですが、本編更新中に急性胃腸炎（カンピロ爆弾）にかかりまして😢
感想の承認&お返事遅くなり、大変申し訳ないです。

お肉の生焼けには注意⚠が必要ですね…。
健康が一番☘読者様もお身体ご自愛くださいませ。




なお『女王陛下、誤解です～』は六月以降のUPになる予定です。
更新の際は、近況ボードにてお知らせいたします。
自作も読んで頂けると嬉しいなっ٩꒰*´◒`*꒱۶

最後に……拙い作品をお読み頂き、誠にありがとうございました。
それでは、続編でまたお会いできることを願って(*´∀`*)ﾉ″

◆2022.5.14安室成桜◆