12 / 13
【12】ユージン・クラインは今日も憂鬱
しおりを挟む
「……ッキニー准尉、マッキニー准尉!」
がしかし、氷のように冷たいクライン執務官の声に我に返りった。
「は、はいっ!」
「食堂車へ食事をとりに行きなさい。殿下を待たせるじゃありません」
「は、はい!」
ぎゃぁぁぁ!クライン執務官にチューしてるとこ見られちゃった。
サニーのばかぁぁぁ!
ダニエルは羞恥に顔を真っ赤にして、新兵の如く走り出した。
大きな胸を揺らして去っていくダニエルの後ろ姿を見送り、サニーは「あまり厳しくするな」とユージンに釘を刺す。
「私ほど優しい男はいませんよ。殿下のために彼女を鍛えて差し上げてるんですから。マッキニー准尉は男爵令嬢といえど、最低限のマナーしかありませんしね。それに少々のんびりした性格のようです。良く言えば図太い、豪胆。悪く言えばバカ、愚鈍」
ユージンはダニエルが居ないことをいい事に、毒舌を繰り出す。
彼女が居たとしても、遠慮なく目の前でこき下ろしただろうけれど。
耳の痛い話題にサニーは渋い顔になった。
「察しも悪く、護衛として殿下の傍に置くには危険な人物です。いつ、あの娘から情報が漏洩するとも限りません。殿下もお気をつけください」
「あぁ、わかってる」
「というわけで、今後あの娘を”公式な愛妾”にするなら、今のうちから心構えと慎みを教えておきましょう」
「お手柔らかに頼むよ」
「もちろんです……ま、私よりも殿下のほうがお人が悪いと思いますがね」
ユージンの指摘にサニーは悪い男の笑みを浮かべる。
素知らぬ顔を貫く彼に、ユージンは指摘を続けた。
「殿下がマッキニー准尉に構うほど、彼女は親衛隊や周囲から浮くでしょう。彼女を孤立させ、辞めさせるのがお望みで?本人は護衛任務を全うし、近衛隊に戻るつもりのようですよ」
「可愛がっているだけさ」
「ほどほどになさいませ。か弱き者を力一杯掴んでは、潰してしまいます」
ユージンの忠告に、サニーは笑みを携えたまま車窓に視線を向ける。
車外には葉色を変えた山が広がり、実に長閑。
「大切にするって難しいネ。たまに、握り潰してしまおうかとすら思うよ」
柔らかな口調、穏やかな横顔。
そこから繰り出される物騒な告白にユージンは困惑した。
そして「マッキニー准尉のどこがそんなにいいんですか」と呟く。
ユージンには彼女の良さが全く理解できない。
美しい瞳に愛嬌のある顔をしているが、サニーに釣り合うほどの美貌ではない。
サニーが好きそうな豊満な肉体だが、娼婦にも同じくらいの女性はいるだろう。
性悪ではないが善人でもなく、聡明といえないのは致命的だ。
殿下の傍に侍ることができるのは聡明な人間だけ。
彼女にその権利があると思えない。
紅い唇をへの字にするユージンは、初めてできた兄のガールフレンドにヤキモチ焼く弟のようなもの。
そんな可愛い彼に、サニーは諭すように話しかけた。
がしかし、氷のように冷たいクライン執務官の声に我に返りった。
「は、はいっ!」
「食堂車へ食事をとりに行きなさい。殿下を待たせるじゃありません」
「は、はい!」
ぎゃぁぁぁ!クライン執務官にチューしてるとこ見られちゃった。
サニーのばかぁぁぁ!
ダニエルは羞恥に顔を真っ赤にして、新兵の如く走り出した。
大きな胸を揺らして去っていくダニエルの後ろ姿を見送り、サニーは「あまり厳しくするな」とユージンに釘を刺す。
「私ほど優しい男はいませんよ。殿下のために彼女を鍛えて差し上げてるんですから。マッキニー准尉は男爵令嬢といえど、最低限のマナーしかありませんしね。それに少々のんびりした性格のようです。良く言えば図太い、豪胆。悪く言えばバカ、愚鈍」
ユージンはダニエルが居ないことをいい事に、毒舌を繰り出す。
彼女が居たとしても、遠慮なく目の前でこき下ろしただろうけれど。
耳の痛い話題にサニーは渋い顔になった。
「察しも悪く、護衛として殿下の傍に置くには危険な人物です。いつ、あの娘から情報が漏洩するとも限りません。殿下もお気をつけください」
「あぁ、わかってる」
「というわけで、今後あの娘を”公式な愛妾”にするなら、今のうちから心構えと慎みを教えておきましょう」
「お手柔らかに頼むよ」
「もちろんです……ま、私よりも殿下のほうがお人が悪いと思いますがね」
ユージンの指摘にサニーは悪い男の笑みを浮かべる。
素知らぬ顔を貫く彼に、ユージンは指摘を続けた。
「殿下がマッキニー准尉に構うほど、彼女は親衛隊や周囲から浮くでしょう。彼女を孤立させ、辞めさせるのがお望みで?本人は護衛任務を全うし、近衛隊に戻るつもりのようですよ」
「可愛がっているだけさ」
「ほどほどになさいませ。か弱き者を力一杯掴んでは、潰してしまいます」
ユージンの忠告に、サニーは笑みを携えたまま車窓に視線を向ける。
車外には葉色を変えた山が広がり、実に長閑。
「大切にするって難しいネ。たまに、握り潰してしまおうかとすら思うよ」
柔らかな口調、穏やかな横顔。
そこから繰り出される物騒な告白にユージンは困惑した。
そして「マッキニー准尉のどこがそんなにいいんですか」と呟く。
ユージンには彼女の良さが全く理解できない。
美しい瞳に愛嬌のある顔をしているが、サニーに釣り合うほどの美貌ではない。
サニーが好きそうな豊満な肉体だが、娼婦にも同じくらいの女性はいるだろう。
性悪ではないが善人でもなく、聡明といえないのは致命的だ。
殿下の傍に侍ることができるのは聡明な人間だけ。
彼女にその権利があると思えない。
紅い唇をへの字にするユージンは、初めてできた兄のガールフレンドにヤキモチ焼く弟のようなもの。
そんな可愛い彼に、サニーは諭すように話しかけた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
30
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる