8 / 13
【8】ダニエル・マッキニーの哀しみ
しおりを挟む
「あたしも爵位返還には賛成だけど……でも母上は嫌がるんじゃない?」
「僕が説得するよ」
いつになく強気な弟に、ダニエルは目を瞠る。
「それに内偵調査で”何か”見つかれば、爵位取消になるかも」
意味あり気な視線、まるで”ねぇさんから爵位取消してもらえるよう頼んでよ”と言っているようだ。
ダニエルは途端に興醒めし懐疑的になった。
そんな画策をして、もしも両親の耳に入れば、ダニエルは罵倒されるけでは済まないだろう。
「何を期待してるか知らなけど……」
「心配しないで、ねぇさん!何があっても僕がねぇさんを守るから」
ポーラはダニエルの両手を強く握り、真剣な眼差しで訴えてくる。
男爵家のしがらみから逃れられるチャンス、彼なりに必死だ。
とはいえ今まで母とダニエルのイザコザをのらりくらりとやり過ごしてきたくせに、こんな時だけ都合が良すぎる。
「ドルパ山が手に入るよう、僕も手伝うからさ」
「…………っ!」
なぜポーラの口から”マイトナー家の山”が出てくるのか。
ダニエルは驚き息をつめながらも、マッキニー男爵領にある岩ばかりの山岳地へ思いを馳せた。
標高が高く、切り立った岩山が並ぶ山脈。
あまりの険しさから足を踏み入れるが憚れる秘境。
その中でも街に一番近い場所にあるのがドルパ山で、そこに代々暮らし、マッキニー家に仕えてきたのがマイトナー家である。
高地に強い家畜ヤクの放牧で生計を立てているが、暮らしは自然に左右されるため、いつも貧しく厳しい。
父シシェックと母ミランダは”穀潰しの遊牧民”と彼等を嫌っていたが、昔ながらの風習や生活様式を維持し慎ましく暮らすマイトナー家の人々がダニエルは大好きだった。
ポーラの瞳が、獲物を追う狩人のようにギラギラ光る。
「ねぇさんの目的は、あの山だよね?知ってるんだ。ねぇさんが母上にお金を渡すのは、あの土地とマイトナー家を守るためだって。父上や母上は、翡翠の指輪を無くした負い目からだろうって言ってたけど。本当はラスのためなんでしょ。ねぇさん、僕と組んでマッキニー家を取り潰してもらおうよ。そうすれば僕もねぇさんも自由だ!」
ダニエルは心臓を弓矢で射られたかのような衝撃を受けた。
ダニエルがお金を渡し続けていた理由をポーラも知っていて、それを盾に交換条件を迫ってくるなんて。
野生動物は兄妹同士で殺し合い、より強い方が生き残る弱肉強食の天秤にかけられるというが、自分もその篩にかけられている気分だ。
目的のためなら姉すらも脅すのかと、ダニエルは物悲しくなり押し黙った。
「僕が説得するよ」
いつになく強気な弟に、ダニエルは目を瞠る。
「それに内偵調査で”何か”見つかれば、爵位取消になるかも」
意味あり気な視線、まるで”ねぇさんから爵位取消してもらえるよう頼んでよ”と言っているようだ。
ダニエルは途端に興醒めし懐疑的になった。
そんな画策をして、もしも両親の耳に入れば、ダニエルは罵倒されるけでは済まないだろう。
「何を期待してるか知らなけど……」
「心配しないで、ねぇさん!何があっても僕がねぇさんを守るから」
ポーラはダニエルの両手を強く握り、真剣な眼差しで訴えてくる。
男爵家のしがらみから逃れられるチャンス、彼なりに必死だ。
とはいえ今まで母とダニエルのイザコザをのらりくらりとやり過ごしてきたくせに、こんな時だけ都合が良すぎる。
「ドルパ山が手に入るよう、僕も手伝うからさ」
「…………っ!」
なぜポーラの口から”マイトナー家の山”が出てくるのか。
ダニエルは驚き息をつめながらも、マッキニー男爵領にある岩ばかりの山岳地へ思いを馳せた。
標高が高く、切り立った岩山が並ぶ山脈。
あまりの険しさから足を踏み入れるが憚れる秘境。
その中でも街に一番近い場所にあるのがドルパ山で、そこに代々暮らし、マッキニー家に仕えてきたのがマイトナー家である。
高地に強い家畜ヤクの放牧で生計を立てているが、暮らしは自然に左右されるため、いつも貧しく厳しい。
父シシェックと母ミランダは”穀潰しの遊牧民”と彼等を嫌っていたが、昔ながらの風習や生活様式を維持し慎ましく暮らすマイトナー家の人々がダニエルは大好きだった。
ポーラの瞳が、獲物を追う狩人のようにギラギラ光る。
「ねぇさんの目的は、あの山だよね?知ってるんだ。ねぇさんが母上にお金を渡すのは、あの土地とマイトナー家を守るためだって。父上や母上は、翡翠の指輪を無くした負い目からだろうって言ってたけど。本当はラスのためなんでしょ。ねぇさん、僕と組んでマッキニー家を取り潰してもらおうよ。そうすれば僕もねぇさんも自由だ!」
ダニエルは心臓を弓矢で射られたかのような衝撃を受けた。
ダニエルがお金を渡し続けていた理由をポーラも知っていて、それを盾に交換条件を迫ってくるなんて。
野生動物は兄妹同士で殺し合い、より強い方が生き残る弱肉強食の天秤にかけられるというが、自分もその篩にかけられている気分だ。
目的のためなら姉すらも脅すのかと、ダニエルは物悲しくなり押し黙った。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。
そんな彼に見事に捕まる主人公。
そんなお話です。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる