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【4】内偵調査はマッキニー家

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 それから間も置かず、説明を始めた。

「こちらの書類は、至急殿下のサインが必要なものです」

 ユージンが指差した先のトランクには、書類の束がたくさん重なってる。


「お早めに、よろしくお願いします」

「わかった」



「午後はマッキニー家内偵調査の戦略会議ですので」

「はいはい」

「…………ま、ッキニー家って、えぇぇ!?」


 二人が淡々と会話するので聞き流しそうになったが、今、マッキニー家って言った!?

 内偵調査って言った!?

 驚き目を瞠るダニエルに、サニーとユージンの視線が向く。



「………っ!」

 クライン執務官とは宮殿で会った時以来、数日ぶりだが、疲労困憊ぶりに何があったのだろうと驚く。

 目の下は紫のクマ、目玉は真っ赤に血走り、ただでさえ儚げなのに今は折れそうなほどだ。


「く、クライン執務官?顔色が悪いようですが……」

「もう四十五時間、寝てないんでね」

「大丈夫か、ユーリ。ちょっと休めよ」

 ヌケヌケとのたまう主人にユージンは噛みつきそうになったが、持ち前の我慢強さで堪え、そのフラストレーションをダニエルにぶつけることにした。



「それより貴女、近衛隊から行き先を知らされなかったんですか?」

「はい。極秘任務としか聞いてません」


「そうですか。我々は今、マッキニー家所領へ向かっているんですよ。貴女のお父上シシェック・マッキニー男爵の内偵調査をするためにね」


「な、なんで父を!?」

「今回の任務はロンド教の内情を捉え、勢力を削ぐのが目的です。そのためにまず、信者である領主から攻めます。不正を働いてないか、過剰な寄付をしていないか等ね」



「えぇ、でもなぜ我が家がターゲットに……」

 戸惑うダニエルに、ユージンは毅然とした態度で告げる。


「貴女のお父上は筋金入りのロンド教信者でしょう。それに内偵調査に理由などありませんよ。怪しいところの有無を調べるのが我々の仕事です。親衛隊とは、女王陛下の影の目となり耳となる存在ですからね。それより、調べられてはマズイ事情がおありですか?」



 逆に怪しむような目を向けられ、ダニエルは居心地が悪くなった。

「そういうわけではありません。でもウチ以外にも懇意にしている領主はいるし……」


 マッキニー家は西方の外れにある。

 首都セーラスとマッキニー家の間に、他にもロンド教にハマっている領主が居ると聞く。

 なぜ最初にメスを入れられるのが我がマッキニー家なのかと、ダニエルは訝しんだ。


「貴女は本当に馬鹿ですねぇ、殿下の優しさじゃないですか」
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