上 下
3 / 13

【3】内偵調査はマッキニー家

しおりを挟む
 ユージンが座席を蹴る、数十分前。


「ん……、っ、ふぅん…、ちょ、ちょと!!」

 ダニエルはサニーの手の甲を抓った。

 脇からおっぱいを集める手つきが、スケベ心で溢れてる。



 汽車が出発してからも、サニーはダニエルを放さない。

 長い膝の上に横抱きにし、キスを交わし、身体中を撫で回す。


 最初はペットを撫でるような慈愛に満ちていた手つきだったのに、時と共に隠微さを増した。

 彼にはつい先日、酒場街の路地裏で盛られたばかり。

 ダニエルに嫌な予感がよぎった。



「ん~、ダイジョブ、ダイジョブ」

「良くないっ!あたしが白い目で見られるんだからね」


「シーッ、静かにヤレば、ばれないから」

「ナニする気よ!」



 軍服のシャツに手をかけたサニーに、ダニエルは本格的に慌て、その手を押さえた。

 けれど彼の大きな手はダニエルが抑えたくらいでは止まらない。

 警護対象者を制圧できないなんて、これではどちらが護衛かわからい。


 ダニエルは意地になって彼の手を捕まえたが、サニーは片手でいなし、クルッと体勢を入れ替えた。

 レスリングでひっくり返された時のような、実に鮮やかな動きだった。

 驚き静止するダニエルに、彼の手がピアノの鍵盤を叩くように軽やかさで胸の先端に触れる。



「なっ!なに…………ダメだって、に……っ、ぁぁ!」

 ふいの愛撫で、ダニエルは甘い声を出してしまった。


 と次の瞬間、ダン!!と座席の裏から振動が響く。

 そしてユージン・クライン執務官の怒声が届いたのだ。


「公務中に乳繰り合うなんて、いい度胸してるじゃないですか。殿下っ!早く仕事をしてください!!」



 彼の滑舌が良く少し高い声は、遠くまで届く。

 ダニエルとサニーは、二人して顔を見合わせた。

 隣の車両で、クライン執務官が青筋をたてて怒ってる姿が容易に想像できる。


 ダニエルは飛び起き、「申し訳ありません!!」と顔を真っ赤にして叫んだ。

 さっきの恥ずかしい声を聞かれてしまった。


 もぉ!サニーのばかっ、何が大丈夫よ。

 テキトーなことばかり言って!!


 ジロリと睨めつけると、サニーは全く悪びれなく、むしろ泰然とした様子で「仕方ないなぁ」とぼやく。

 この余裕綽々よゆうしゃくしゃくの態度。

 クライン執務官の苦心が手に取るように伝わってくる。



「ユーリ、仕事を持ってきてくれ」

 サニーの呼びかけに、クライン執務官が大きなトランク二つ手に駆けつけた。


 そして壁際で敬礼するダニエルを無視して、テキパキと王子の仕事をする環境を整えた。

 机の上には羽根ペンとインク壺の入った文具箱、小豆色の下敷き。

 その横には精緻な細工が美しい書類箱が三つ並び、文具箱とお揃いの高級な品である。

しおりを挟む

処理中です...