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【67】自覚 ー切なさの正体ー
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客室に二人きりになると、重い沈黙が流れた。
顔を見ただけで怒りがこみあげてくる。
ダニエルは目を据わらせ、ワナワナと拳を震わせた。
騙し討ちみたいに素性を打ち明けられて。
無理やり近衛隊を辞めさせられそうになったし。
傲慢なのよ!王子様でもやって良い事と悪い事ある。
そもそもダニエルが喜んで愛人になると思ってるフシがあるのよね。
他の愛人達と一緒にしないでほしい。
ダニエルには夢があるのだ。
勘当されても叶えたい夢が。
それを「できちゃった。責任とって」の一言で踏み躙るなんて。
必死でやってきたダニエルの人生を軽んじられたようで、悔しくてたまらない。
「ディディ、俺のお姫様……ご機嫌は如何デスか」
サニーはバツが悪いのか、顔色を伺いながらポリポリと顎をかく。
本当にイライラする。
最も腹立たしいのは、”ディディ”と呼ばれるだけで、胸が切なくなること。
”俺のお姫様”と言われるだけで、泣きたくなることだ。
ダニエルは下唇を突き出し、プイとそっぽを向いた。
「……ご機嫌ななめデスか」
サニーは「ふぅ」と小さくため息をつく。
聞き分けない面倒な彼女にするような反応に、カチンとくる。
まるでダニエルが我儘言ってるみたい。
遊びの領域を超えて、踏み込んできたのはサニーのほうじゃん。
もう絶対、絶対、許してやらない!
謝ったって、許さないんだから!!
渾身のストレートパンチをお見舞いしてやりたい。
しかし王子を殴るのは流石にマズイ。
不敬罪確定、一発アウトだ。
我慢、我慢!と自分に言い聞かせ、全てをシャットアウトするようにダニエルは瞼をギュッと瞑った。
小さく座席が軋む音がして、鳩尾から噎せ返るような、重い甘い香りがただよってくる。
重たいのに、クセになる匂い。
気がついたら、魅せられている。
まるで彼自身みたいな香りが、ダニエルを侵食する。
こわごわ瞼を開くと、足元に影が落ちていた。
男の指先がそっとダニエルの肩に触れ、輪郭をなぞるようにゆっくりと下りてくる。
くすぐったさが、今は苦い。
しかしダニエルは彼を拒絶する事ができなかった。
心は怒りでトゲトゲだというのに。
サニーはダニエルを刺激しないようにゆっくりと、背中を引き寄る。
イランイランの香りに全身が包まれた。
ダニエルはなされるがままサニーの喉元に頬を添わせる。
その場所はパズルのピースのように、ぴったり、しっくりきた。
トゲトゲのダニエルの心の真ん中にぽっかり空いた穴。
欠けたその隙間が埋まったみたい。
満たされたその場所から切なさが広がり、胸がいっぱいになった。
その正体が愛しさだと自覚した瞬間、なんとか保っていたギリギリの心から感情の雫が溢れる。
同時に目から涙も溢れ落ちた。
「……ディディ、泣かないで。俺のお姫様」
震えるダニエルの背中を、サニーの大きな掌が摩る。
ダニエルは怒りのままに、彼の背中をグーパンチで打った。
「誰のせいだと思ってるのよっ!」
「……俺のせいデス。正体隠してて、ごめんなサイ?お、こってる?…………怒ってるよね」
頭を撫でられらので、ダニエルは再度その大きな背中を両手でボカボカ叩いた。
「サニーのバカ、バカ!勝手だよ。この変態!ストーカー野郎!!」
「……ごめんなサイ」
サニーは「王族を殴るなんて、失礼な!」とは言わない。
「痛い」とも、「殴るな」とも言わない。
一つも言い訳せず、ただ「泣かないで」と「ごめん」をだけを繰り返した。
「宮殿で何度も見かけたのに、追いかけたら消えちゃうしっ!……あたし、本当に頭がおかしくなったかと……っ、っゔ、ゔぁぁぁーーん!!」
本格的に泣き出したダニエルに、サニーはこれまでの行いを深く反省した。
怯える姿が可愛くて、追いかけられるのが楽しくて、やりすぎてしまった。
サニーはダニエルを再び強く優しく抱き締め、触れる場所全てにキスした。
髪やおでこ瞼に口付けていると、目が合う。
泣き顔もたまらなく可愛い。
サニーは速まる自身の鼓動を感じつつ、その涙の雫を舐めた。
サニーを魅了してやまない碧の瞳は、深山幽谷にあるという幻の湖のようだ。
その目に見つめられると、魔法にかけられたように胸が高鳴り身体が熱くなる。
キスをしたい、抱き合いたい。
不埒な欲求ばかりに囚われる。
しかも自分ではコントロールできない。
無意識に求めて止まない。
ーーーキミは本当に俺のお姫様であり、悪魔だよ
サニーは愛と平和のため、ひたすらダニエルを慰めご機嫌を取ることにした。
顔を見ただけで怒りがこみあげてくる。
ダニエルは目を据わらせ、ワナワナと拳を震わせた。
騙し討ちみたいに素性を打ち明けられて。
無理やり近衛隊を辞めさせられそうになったし。
傲慢なのよ!王子様でもやって良い事と悪い事ある。
そもそもダニエルが喜んで愛人になると思ってるフシがあるのよね。
他の愛人達と一緒にしないでほしい。
ダニエルには夢があるのだ。
勘当されても叶えたい夢が。
それを「できちゃった。責任とって」の一言で踏み躙るなんて。
必死でやってきたダニエルの人生を軽んじられたようで、悔しくてたまらない。
「ディディ、俺のお姫様……ご機嫌は如何デスか」
サニーはバツが悪いのか、顔色を伺いながらポリポリと顎をかく。
本当にイライラする。
最も腹立たしいのは、”ディディ”と呼ばれるだけで、胸が切なくなること。
”俺のお姫様”と言われるだけで、泣きたくなることだ。
ダニエルは下唇を突き出し、プイとそっぽを向いた。
「……ご機嫌ななめデスか」
サニーは「ふぅ」と小さくため息をつく。
聞き分けない面倒な彼女にするような反応に、カチンとくる。
まるでダニエルが我儘言ってるみたい。
遊びの領域を超えて、踏み込んできたのはサニーのほうじゃん。
もう絶対、絶対、許してやらない!
謝ったって、許さないんだから!!
渾身のストレートパンチをお見舞いしてやりたい。
しかし王子を殴るのは流石にマズイ。
不敬罪確定、一発アウトだ。
我慢、我慢!と自分に言い聞かせ、全てをシャットアウトするようにダニエルは瞼をギュッと瞑った。
小さく座席が軋む音がして、鳩尾から噎せ返るような、重い甘い香りがただよってくる。
重たいのに、クセになる匂い。
気がついたら、魅せられている。
まるで彼自身みたいな香りが、ダニエルを侵食する。
こわごわ瞼を開くと、足元に影が落ちていた。
男の指先がそっとダニエルの肩に触れ、輪郭をなぞるようにゆっくりと下りてくる。
くすぐったさが、今は苦い。
しかしダニエルは彼を拒絶する事ができなかった。
心は怒りでトゲトゲだというのに。
サニーはダニエルを刺激しないようにゆっくりと、背中を引き寄る。
イランイランの香りに全身が包まれた。
ダニエルはなされるがままサニーの喉元に頬を添わせる。
その場所はパズルのピースのように、ぴったり、しっくりきた。
トゲトゲのダニエルの心の真ん中にぽっかり空いた穴。
欠けたその隙間が埋まったみたい。
満たされたその場所から切なさが広がり、胸がいっぱいになった。
その正体が愛しさだと自覚した瞬間、なんとか保っていたギリギリの心から感情の雫が溢れる。
同時に目から涙も溢れ落ちた。
「……ディディ、泣かないで。俺のお姫様」
震えるダニエルの背中を、サニーの大きな掌が摩る。
ダニエルは怒りのままに、彼の背中をグーパンチで打った。
「誰のせいだと思ってるのよっ!」
「……俺のせいデス。正体隠してて、ごめんなサイ?お、こってる?…………怒ってるよね」
頭を撫でられらので、ダニエルは再度その大きな背中を両手でボカボカ叩いた。
「サニーのバカ、バカ!勝手だよ。この変態!ストーカー野郎!!」
「……ごめんなサイ」
サニーは「王族を殴るなんて、失礼な!」とは言わない。
「痛い」とも、「殴るな」とも言わない。
一つも言い訳せず、ただ「泣かないで」と「ごめん」をだけを繰り返した。
「宮殿で何度も見かけたのに、追いかけたら消えちゃうしっ!……あたし、本当に頭がおかしくなったかと……っ、っゔ、ゔぁぁぁーーん!!」
本格的に泣き出したダニエルに、サニーはこれまでの行いを深く反省した。
怯える姿が可愛くて、追いかけられるのが楽しくて、やりすぎてしまった。
サニーはダニエルを再び強く優しく抱き締め、触れる場所全てにキスした。
髪やおでこ瞼に口付けていると、目が合う。
泣き顔もたまらなく可愛い。
サニーは速まる自身の鼓動を感じつつ、その涙の雫を舐めた。
サニーを魅了してやまない碧の瞳は、深山幽谷にあるという幻の湖のようだ。
その目に見つめられると、魔法にかけられたように胸が高鳴り身体が熱くなる。
キスをしたい、抱き合いたい。
不埒な欲求ばかりに囚われる。
しかも自分ではコントロールできない。
無意識に求めて止まない。
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