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【64】女王陛下 ① ークビだけはご勘弁をっー

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「うーん、困ったわねぇ。貴方にはもう少し頑張ってほしのだけれど」

 女王陛下はため息混じりに、難色を示す。
 さすが女王陛下だわ!もっと反対して。
 ダニエルは期待の眼差しで救世主を見つめた。


「母上!私にはもう無理です。なぜなら、私達はできてしまったから」
「あらあら、まぁまぁ。できちゃうなんてねぇ」

 女王陛下はオホホと軽やかに笑う、まるで初孫に歓喜する祖母のよう。

「そうです!できてるんです!!ですからダニエルには責任を取ってもらわねばなりません」

 これ見よがしに自身の腹を撫でるサニーに、ダニエルはこめかみにピクピク青筋をたてた。

 ぬぅぁにが、”責任とらなければならない”よ。
 そこに入ってるのはご自慢の六つに割れた腹筋でしょうが!

 それに「責任とって」は女オンナ側のセリフだっつーの。
 こっちが妊娠する事はあっても、そっちができるわけがないんだよぉぉっぉぉぉぉ!

 茶番もいい加減にしろ、してください、お願いします。
 女王陛下はこんなわざとらしい芝居にひっかからない……よね?


 気が動転していたダニエルにはわからなかったが、交わされた母子の視線は剣呑で、静かなバトルが勃発していた。

 女王といえど、息子は可愛い。
 腹を痛めて産んだ、三人の息子は宝物だ。

 だが王としての責務は時として、その宝よりも重い。
 力を持つ者は、民に慈悲深く寛容でなければならない。
 それが女王の譲れない信念だった。

 権力者が私情で哀れな民を好き勝手してはならない。
 本人(ダニエル)が望むならまだしも……様子を見る限り、嫌がっている。

 王子(サニー)はその考えをよく知っているはずなのに、一歩も引く気はないようだ。
 断れば拐って監禁も辞さないだろうと、ユージンは報告してきたし。

 どうしたものかしら……と、アレクサンドラ・ケイト・デヴォンシャーは頭を悩ませた。



 天真爛漫な三男坊として放置されて育ったサニーは、子どもの頃から平和を愛し、誰にでも優しく、また誰からも愛される子だった。

 年頃になるとその美貌は開花し、早くから浮名を流し始める。
 そこに目をつけ、閨での性技を叩き込んだ。
 そして目標ターゲットから情報を仕入れてくるよう、そそのかした。

 我ながら酷い母親だと思う。
 その時、息子はわずか十二歳だった。
 だが彼の特性を最大限に活かせると思ったのだ。

 本人は嫌がってなかった。
 むしろ積極的に母の手先となり、毎夜、嬉々として貴族の奥方を抱き、享楽に耽けってくれた。


 彼は女性を虜にするのが、本当に上手だった。
 天性の才能と言ってもいいだろう。

 だが所詮は一時の快楽だ。
 特定の女性にのめり込むことはなく、夜を渡るように数多の女性達の間を渡り歩く。

 ーーー父親を処刑した、非情な母のせいかしら
 アレクサンドラは、罪悪感で胸をざわめかせる。
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