上 下
89 / 102

【60】謁見 ーまだ夢の中?ー

しおりを挟む
 中佐に導かれ、ダニエルは女王が待つ応接室の金の扉をくぐった。
 女王陛下のプライベートな空間に入れただけでも恐悦至極なのに、直接お会いできるなんて!

 その場にいるだけで、ダニエルは身体が震えた。
 不安と重圧まじりの緊張よりも、純粋な喜びが勝った。

 走ってきたわけでもないのに、心拍数が一気に上がる。
 それほど女王陛下とは尊い御方で、国民の良き母であり、偉大な王なのだ。


「おぉカイル、待っておりましたよ」

 たおやかな美声が聞こえてきた。
 声を柔らかさで表現するとしたら、陛下のお声は鳥の羽のように軽やかで美しい。
 まるで純白の白鳥のようで、まだ顔も上げてないのにその声だけでジーンときちゃう。

 中佐が片膝をつく礼法をとったので、ダニエルも追従した。

 恐れ多くて顔をあげられない。
 何を聞かれるんだろう。
 ちゃんとお返事できるかな……あぁ、ムリだよ、どうしたらいいのぉ~!

 喉がカラカラで、口の中が乾いて仕方ない。
 ダニエルは床の絨毯の模様を眺めて、なんとか正気を保った。

「で……そちらのお嬢さんがダニエル・マッキニー准尉ね」

 あぁぁぁぁぁ!おっ、嬢ぉ、さぁ、んん!!
 女王陛下にお嬢さんと呼んでもらえるなんてっ!
 ダニエルは幸せで胸がいっぱいになり、泣きそうになった。

「マッキニー准尉、頭をあげよ。その可愛い顔をお見せなさいな」
「…………は、はい!」

 夢見心地と緊張のあまり、反応が遅れてしまう。
 隣の中佐が「なにしてるんだ」という雰囲気を発したので、ダニエルは我に返って顔をあげた。


 子どもの頃から憧れ続けた、女王陛下は微笑みを浮かべダニエルを見下ろしていた。

 国民の前では金髪のカツラと輝く王冠を装着しているが、プライベートの彼女はシンプルな装いだった。
 とはいえ、首元のレースはエリマキトカゲのように盛り上がり、頭にはユニコーンの角のような髪飾りがついてる。
 その先には薄紫のレースベールが縫い付けられており、首を傾けるとレースが華やかに揺れた。

 ベールと同じ色のドレス。
 胸元の刺繍こそ精緻せいちなれど、全体的にシンプルで無駄がない。
 彼女の思想信念を表すようだ。

 目元口元に刻まれた皺は深く、栄光と闇が混在している。
 しかしとても五十代とは思えないような肌艶で、優艶ゆうえんな面立ちをしていた。

 菫色の瞳には溢れんばかりの生命力が満ち、眼差しは大空を羽ばたく鷹のように鋭い。
 それでいて慈愛に満ちた雰囲気も持ち合わせており、想像通り、それ以上に神々しさを感じさせる御方だった。


「ーーーーっ!?」

 だがその隣で負けず劣らずオーラを放つ色男を視界にとらえ、恐れ多くも陛下の前でダニエルは腰を抜かした。
 女王陛下の存在を吹き飛ばす爆弾が、そこにったのだ。

 さっ、さ、ささ、サニーーーー!?!?!?

 ダニエルは目と顎をこれでもかというほど開いた。

 昨夜、都会の遊び人風だったサニーは今や式典に参加する王子様みたいだ。
 親衛隊の紺の軍服、だが前身頃まえみごろは王族しか許されていないナポレオンジャケット仕様になっている。
 長い足を組む白いトラヴァースが、大海を進む帆船の帆のように眩しい。

 見間違いかと、ダニエルは高速で瞬きを繰り返す。

 そっくりさん!?いや、でもサニーだよね。
 顔も髪も身体もそっくり……仕草だけはいつもと違うけど。

 でもあの我儘で自信たっぷりなムカつく笑顔は、絶対彼だ!
 記憶の中のサニーと目の前の男性は、容姿に寸分の違いもない。


 頭がおかしくなったのかと、ダニエルは自分を疑った。
 だって、彼がここにいるわけない。
 女王陛下と優雅にお茶を飲んでるはずないじゃない。

 まだ夢を見ているんだろうか。
 そもそもダニエルが女王陛下に呼び出されるなんてあり得ない。
 これが全て夢なら、納得がいく。

 でも、なんて精巧な夢なの。
 背後には軍事演習で遠目に見た、帝国軍大将ダウニー・コーカス閣下が鮮明なお姿で佇んでいる。

 閣下だけでなく、視覚に入ってくる情報すべてが夢とは思えないほどリアルだ。
 室内には穏やかなハープの音色が響き、のぞむ庭園からは薔薇の香りと鳥の囀りが聞こえてくる。
 聴覚も嗅覚も……床についた手に感じる絨毯の感触も全てがおそろしいほど鮮明なのに、これが夢だなんて。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...