88 / 102
【59】アドバイス ー出世するためにはー
しおりを挟む
寮に着くと、先に戻ったセレーナが軍服を整えて待っていてくれた。
急いで袖を通し、セレーナとアリに礼を言い、宮殿へと向かう。
途中ダニエルは、支えてくれる周りの人々に感謝した。
セレーナが隊服を準備してくれなかったら、もっともたついていただろう。
アリが馬車を用意して待ち構えてなければ、所定の参内時間に間に合わなかった。
お風呂やマッサージを用意してくれたサニーも、今では救世主のように感じる。
見窄らしい姿で女王陛下に謁見せずに済んだのは、本当に助かった。
なんだか上手く話が進みすぎている気がして、ちょっと不安になる。
しかし宮殿内に足を踏み入れれば、緊張でそんなこと感じる余裕はなくなった。
アーチ形の入り口をくぐると、白亜の大理石に囲まれた長い回廊が続く。
等間隔に置かれた騎士像が立ち入る者を選別するように見下ろしている。
続く長い階段にも同じように左右に彫刻像が置かれ、真っ白な目で此方を睨んでいた。
一つ目のセキュリティゲートに到着する前に、ダニエルは萎縮してしまった。
何処もかしこもあまりにも豪華絢爛、眩すぎて……富と権力に圧倒されるばかりだ。
女王陛下に謁見するためには、いくつもの警備を通過しなければならない。
それは軍人であるダニエルでも、同じである。
セキュリティゲートでは近衛隊の仲間達に、「嘘だろ!?何したんだよ!」と興奮気味に訊ねられ、その度に胸の重圧は増した。
確かに、変な話だ。
一介の、しかも軍人としての階級も低いダニエルに、女王陛下は一体どんな用があるのだろう。
宮殿内のセキュリティゲートを進めば進むほど、ダニエルをチェックする軍人の階級が上がっていく。
先輩達にも「なにをやらかしたの?」という顔をされ、ダニエルの緊張はピークに達した。
通された待合室で、居ても立っても居られず腹を空かせたライオンみたいにウロウロする。
あぁぁぁ!やばい、ヤバイ、ヤバい。
緊張で吐きそう!何を聞かれるんだろう!?
事前に教えてもらえれば心の準備もできるが、案内人は全員「うかがっておりません」と頭を下げるばかり。
逆にアレコレ考えてしまう。
コンコンとノック音がし、間髪入れずに扉が開いた。
緊張で飛び上がったダニエルだが、見知った顔に膝の力が抜けそうなほど安堵する。
「ハルボーン中佐!」
「ダニエル・マッキニー准尉。ついて来い」
「……は、はい!」
ハルボーン中佐は弱音を吐く間も与えず、踵を返して歩き出す。
いつもよりツンケンした雰囲気に、ダニエルはひるんだ。
中佐を怒らせるようなことを、したのかな……。
さっきは中佐が口添えしてくれたのかと思って、喜んだのに。
何がどうなっているのか、話す隙も与えてくれないなんて。
味方をみつけて弾んだ心が、急速に萎んでいく。
同時に、嵐に飲み込まれる小舟に乗ってるような、心許ない気持ちになった。
幾つかの広間を抜け、女王のプライベートな空間に入る直前、突然ハルボーン中佐が立ち止まった。
振り返り、あの死んだような目で見下ろしてくる。
先ほど見た、彫刻像の真っ白な目に似ていて、ダニエルはゴクリと唾を飲んだ。
「ダニエル・マッキニー准尉」
「はい」
「軍人としての最終希望は、近衛隊第一分隊への着任だな?」
「はい、そうであります」
「帝国軍に入って何年だ?」
「十年です」
「それだけ軍にいれば、同期で第一分隊に着いた者もいるだろう」
「はい」
悔しいことに、後ろ盾のある貴族嫡子には勝てない。
だが、それで諦めたり腐ったりするダニエルではなかった。
あの人と誓った夢をいつか叶えてみせる。
いつまでも……諦めずに追い求めてみせる。
「どうすれば出世できるか知っているか」
「職務を忠実にこなし、功績をあげれば……」
馬鹿でも答えられそうな捻りのない回答だが、ダニエルにはこれしか浮かんでこなかった。
「違う。上にあがりたければ、後ろ盾を得ることだ」
「……はい」
後ろ盾になってくれる生家を持たない者はどうすればいいんだと、ダニエルは唇を噛んだ。
「後ろ盾になってくれる御方を見つけたら、迷わず喰らいつけ。喰い殺してやるくらいの気概がなければ、この場所では生き延びれないぞ」
「……はい?」
語尾があがり、疑問系になってしまった。
中佐が何を言わんとしてるか、ダニエルには理解できない。
これから、後ろ盾になってくれる御方に会う……とか?
まさかね、そんな上手い話があるわけないか。
「覚えておけ。出世するには狡猾さが必要だということを」
「……はい!」
今はわからなくても、いつかわかる時がくるかもしれない。
その時に備えて、中佐からのアドバイスを心に留めていようと思った。
急いで袖を通し、セレーナとアリに礼を言い、宮殿へと向かう。
途中ダニエルは、支えてくれる周りの人々に感謝した。
セレーナが隊服を準備してくれなかったら、もっともたついていただろう。
アリが馬車を用意して待ち構えてなければ、所定の参内時間に間に合わなかった。
お風呂やマッサージを用意してくれたサニーも、今では救世主のように感じる。
見窄らしい姿で女王陛下に謁見せずに済んだのは、本当に助かった。
なんだか上手く話が進みすぎている気がして、ちょっと不安になる。
しかし宮殿内に足を踏み入れれば、緊張でそんなこと感じる余裕はなくなった。
アーチ形の入り口をくぐると、白亜の大理石に囲まれた長い回廊が続く。
等間隔に置かれた騎士像が立ち入る者を選別するように見下ろしている。
続く長い階段にも同じように左右に彫刻像が置かれ、真っ白な目で此方を睨んでいた。
一つ目のセキュリティゲートに到着する前に、ダニエルは萎縮してしまった。
何処もかしこもあまりにも豪華絢爛、眩すぎて……富と権力に圧倒されるばかりだ。
女王陛下に謁見するためには、いくつもの警備を通過しなければならない。
それは軍人であるダニエルでも、同じである。
セキュリティゲートでは近衛隊の仲間達に、「嘘だろ!?何したんだよ!」と興奮気味に訊ねられ、その度に胸の重圧は増した。
確かに、変な話だ。
一介の、しかも軍人としての階級も低いダニエルに、女王陛下は一体どんな用があるのだろう。
宮殿内のセキュリティゲートを進めば進むほど、ダニエルをチェックする軍人の階級が上がっていく。
先輩達にも「なにをやらかしたの?」という顔をされ、ダニエルの緊張はピークに達した。
通された待合室で、居ても立っても居られず腹を空かせたライオンみたいにウロウロする。
あぁぁぁ!やばい、ヤバイ、ヤバい。
緊張で吐きそう!何を聞かれるんだろう!?
事前に教えてもらえれば心の準備もできるが、案内人は全員「うかがっておりません」と頭を下げるばかり。
逆にアレコレ考えてしまう。
コンコンとノック音がし、間髪入れずに扉が開いた。
緊張で飛び上がったダニエルだが、見知った顔に膝の力が抜けそうなほど安堵する。
「ハルボーン中佐!」
「ダニエル・マッキニー准尉。ついて来い」
「……は、はい!」
ハルボーン中佐は弱音を吐く間も与えず、踵を返して歩き出す。
いつもよりツンケンした雰囲気に、ダニエルはひるんだ。
中佐を怒らせるようなことを、したのかな……。
さっきは中佐が口添えしてくれたのかと思って、喜んだのに。
何がどうなっているのか、話す隙も与えてくれないなんて。
味方をみつけて弾んだ心が、急速に萎んでいく。
同時に、嵐に飲み込まれる小舟に乗ってるような、心許ない気持ちになった。
幾つかの広間を抜け、女王のプライベートな空間に入る直前、突然ハルボーン中佐が立ち止まった。
振り返り、あの死んだような目で見下ろしてくる。
先ほど見た、彫刻像の真っ白な目に似ていて、ダニエルはゴクリと唾を飲んだ。
「ダニエル・マッキニー准尉」
「はい」
「軍人としての最終希望は、近衛隊第一分隊への着任だな?」
「はい、そうであります」
「帝国軍に入って何年だ?」
「十年です」
「それだけ軍にいれば、同期で第一分隊に着いた者もいるだろう」
「はい」
悔しいことに、後ろ盾のある貴族嫡子には勝てない。
だが、それで諦めたり腐ったりするダニエルではなかった。
あの人と誓った夢をいつか叶えてみせる。
いつまでも……諦めずに追い求めてみせる。
「どうすれば出世できるか知っているか」
「職務を忠実にこなし、功績をあげれば……」
馬鹿でも答えられそうな捻りのない回答だが、ダニエルにはこれしか浮かんでこなかった。
「違う。上にあがりたければ、後ろ盾を得ることだ」
「……はい」
後ろ盾になってくれる生家を持たない者はどうすればいいんだと、ダニエルは唇を噛んだ。
「後ろ盾になってくれる御方を見つけたら、迷わず喰らいつけ。喰い殺してやるくらいの気概がなければ、この場所では生き延びれないぞ」
「……はい?」
語尾があがり、疑問系になってしまった。
中佐が何を言わんとしてるか、ダニエルには理解できない。
これから、後ろ盾になってくれる御方に会う……とか?
まさかね、そんな上手い話があるわけないか。
「覚えておけ。出世するには狡猾さが必要だということを」
「……はい!」
今はわからなくても、いつかわかる時がくるかもしれない。
その時に備えて、中佐からのアドバイスを心に留めていようと思った。
0
お気に入りに追加
224
あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる