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【03】駆け引き ② ー気になるアイツー
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翌日、ダニエルはアリャーリャ村唯一の村庁舎を訪れた。
村の運営に関わる公的設備は全てこの庁舎に集められている。
その中の軍務課を訪れ、通信機を貸してもらえないか頼んでみた。
電話は庁舎や軍などの公共施設にしかない。
庶民の通信手段は専ら手紙だが、アリャーリャ村のように辺鄙な場所だと、手紙が届くまでに時間がかかってしまう。
だから軍人の特権で通信機を使わせてもらおうと思ったのだ。
「所属をお願いします」
「ダニエル・マッキニー。帝国陸軍近衛団近衛隊第二分隊所属であります」
「ダニエル・マッキニー准尉、ドッグタグの提示をお願いします」
ダニエルは首に下げたネックレスを差し出した。
帝国軍に志願し、十五歳で入団してから早十年。
つらい訓練を乗り越え、ようやく今年からヴァリヤレー宮殿に配属された。
陸軍近衛兵団は女王陛下の盾と言われ、君主の警護、取り締まり、監査などの”花形”任務と、他の陸軍兵と同じく実践任務がある。
ダニエルは実践任務を行う下級士官から始まり、努力して昇進を重ね、春から希望していた近衛隊に配属された。
近衛隊だけに支給される紅蓮の騎士服に袖を通した時は、柄でもなく苦労が報われたと涙したものだ。
「ダニエル・マッキニー准尉、お待たせしました。通信機の使用許可が下りましたので、どうぞお使いください」
対応してくれた若い下級兵と敬礼を交わし、ダニエルは受話器を取った。
ダイヤルを回し、同室のセレーナに電話をかける。
職務中だったらどうしよう…とタイミングを気にしたが、『もしもし?』と聞き慣れた声がした。
「ハァイ!セレーナ」
『ダニー?わぁお、あたしのソウルメイト。久しぶりね!』
「久しぶりって……まだ二週間しか経ってないでしょ」
『二週間も経ってるじゃない!あなたっていう目覚まし時計がなくて、あたしは散々よ。今朝も遅刻ギリギリだったし』
寝汚いセレーナに、ダニエルはプッと吹き出した。
「それはご愁傷様」
『今どこにいるの?』
「アリャーリャ村ってとこ」
『海が綺麗で有名な場所じゃない!あぁ、羨ましいわぁ!!……それよりなに?仕事中なんだけど』
セレーナの声が、急に刺々しくなる。
自慢しに電話してきたと思われたのかも。
「家族から手紙が来てない?もし来てたら、受け取って開封してほしいの」
『開封してもいいの?』
「えぇ、急ぎの手紙かもしれないから、中身を読んでヤバそうなら電話してほしいんだけど。お願いできる?」
『後で奢ってもらうからね』
情に熱いが、ちゃっかりしてるセレーナである。
「もちろん、そっちに帰ったらバーで一杯奢るわ」
ダニエルの申し出にセレーナは二つ返事で了承してくれた。
『そこの軍務課に電報を打てば、あんたに連絡がいく?』
「えぇ、電報が来たら宿へ届けるようお願いしておく」
『オーケー!じゃあね、バカンス楽しんで』
「はいよー、ありがとね」
ダニエルは受話器を置いた。
持つべき者は友である。
快く引き受けてくれたセレーナに心から感謝した。
村の運営に関わる公的設備は全てこの庁舎に集められている。
その中の軍務課を訪れ、通信機を貸してもらえないか頼んでみた。
電話は庁舎や軍などの公共施設にしかない。
庶民の通信手段は専ら手紙だが、アリャーリャ村のように辺鄙な場所だと、手紙が届くまでに時間がかかってしまう。
だから軍人の特権で通信機を使わせてもらおうと思ったのだ。
「所属をお願いします」
「ダニエル・マッキニー。帝国陸軍近衛団近衛隊第二分隊所属であります」
「ダニエル・マッキニー准尉、ドッグタグの提示をお願いします」
ダニエルは首に下げたネックレスを差し出した。
帝国軍に志願し、十五歳で入団してから早十年。
つらい訓練を乗り越え、ようやく今年からヴァリヤレー宮殿に配属された。
陸軍近衛兵団は女王陛下の盾と言われ、君主の警護、取り締まり、監査などの”花形”任務と、他の陸軍兵と同じく実践任務がある。
ダニエルは実践任務を行う下級士官から始まり、努力して昇進を重ね、春から希望していた近衛隊に配属された。
近衛隊だけに支給される紅蓮の騎士服に袖を通した時は、柄でもなく苦労が報われたと涙したものだ。
「ダニエル・マッキニー准尉、お待たせしました。通信機の使用許可が下りましたので、どうぞお使いください」
対応してくれた若い下級兵と敬礼を交わし、ダニエルは受話器を取った。
ダイヤルを回し、同室のセレーナに電話をかける。
職務中だったらどうしよう…とタイミングを気にしたが、『もしもし?』と聞き慣れた声がした。
「ハァイ!セレーナ」
『ダニー?わぁお、あたしのソウルメイト。久しぶりね!』
「久しぶりって……まだ二週間しか経ってないでしょ」
『二週間も経ってるじゃない!あなたっていう目覚まし時計がなくて、あたしは散々よ。今朝も遅刻ギリギリだったし』
寝汚いセレーナに、ダニエルはプッと吹き出した。
「それはご愁傷様」
『今どこにいるの?』
「アリャーリャ村ってとこ」
『海が綺麗で有名な場所じゃない!あぁ、羨ましいわぁ!!……それよりなに?仕事中なんだけど』
セレーナの声が、急に刺々しくなる。
自慢しに電話してきたと思われたのかも。
「家族から手紙が来てない?もし来てたら、受け取って開封してほしいの」
『開封してもいいの?』
「えぇ、急ぎの手紙かもしれないから、中身を読んでヤバそうなら電話してほしいんだけど。お願いできる?」
『後で奢ってもらうからね』
情に熱いが、ちゃっかりしてるセレーナである。
「もちろん、そっちに帰ったらバーで一杯奢るわ」
ダニエルの申し出にセレーナは二つ返事で了承してくれた。
『そこの軍務課に電報を打てば、あんたに連絡がいく?』
「えぇ、電報が来たら宿へ届けるようお願いしておく」
『オーケー!じゃあね、バカンス楽しんで』
「はいよー、ありがとね」
ダニエルは受話器を置いた。
持つべき者は友である。
快く引き受けてくれたセレーナに心から感謝した。
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