84 / 102
【56】一人の朝 ー記憶の中の痼ー
しおりを挟む
いつもなら目覚める時、誰かしらの気配を感じる。
同室のセレーナだったり、隣室の同僚や階下の先輩なんかの。
しかし今朝はいやに静かな朝だ。
寝ぼけ眼で、シーツの波に手を滑らせる。
心地よいリネンの手触りが極上すぎて、うっとりした。
……ってここ何処だ!!
ダニエルは勢いよく身体を起こす。
恐ろしいことに服を着ていない、素っ裸だ。
昨夜何があったんだけ?
ダニエルはおぼろげな記憶をたどった。
えーっと、アリとセレーナと飲みに行って。
セレーナは先に帰って、アリと別の酒場にハシゴしたのよね。
そこでアリはタイプの男をみつけて。
連れの男と三軒目に行こうとしたら、サニーの幻を見て。
でも幻じゃなくて、本物で。
それから路地裏で…………。
息もできなほど熱く交わしたキス、抱かれた時の筋肉のうねり、濡れた蜜壺を穿つ熱い肉棒。
「ディディ、俺のお姫様」と呼ぶ、低く甘い声。
それらを鮮明に思い出し、ダニエルは猛烈な羞恥に身悶えた。
わぁぁ!いやぁぁ!ぬぁぁぁぁ!
穴があったら入りたい。
同じ男性と二回もいたしてしまうなんて!
しかも外はイヤだと言いつつ、結局悦んでいた気がする。
ダニエルは馬鹿な自分の頭を、ポカポカと小突いた。
その後は……檸檬キャンディーをもらって、眠くなったのよね。
「あれ?」
眠ってる間に無体を働かれたのではと少しばかり心配になったが、身体に不調はない。
恐る恐るベッドから降りたが、腰が痛むことはなかった。
強いていえば股関節の内側がすこし引き攣ったが、筋肉痛ってレベルでもない。
お股も無事、なんなら体力は有り余っており、アリャーリャ村での時のようにネチネチと責められた痕跡はなかった。
絶倫な彼のことだから、あれだけじゃ済まないと思っていたのに。
肩透かしをくらい、ダニエルはなぜか侘しくなった。
気を取り直し、室内を見渡す。
ベッド近くのカウチソファーにサテンのガウンが置かれており、それを着ろってことだと把握した。
ご丁寧にスリッパも添えられているし。
ゴシック調で統一されたベッドルームには、ダマスク柄の壁紙、豪奢な絨毯、壁には湖に蓮が浮いた大きな絵が。
家具寝具の一つ一つは豪華だが、無駄な物は一切置いてない。
ホテル?それともサニーの自宅だろうか。
アリャーリャ村では、特別お金持ちだとは思わなかった。
品はあったけど、それよりも野性味のほうが強かったし。
身につけていた物は粗悪ではなかったので、地主のボンボンくらいかなって。
しかし昨夜の彼は、アリャーリャ村での彼とは全然違う。
優雅な所作で、貴族と言われても納得する気品を漂わせ、遊び慣れた都会男のようだった。
「…………どっちが本当の彼なんだろう」
ダニエルの独り言が、静まり返った室内に落ちる。
「……っ!!」
隣室から人の気配を感じ、ダニエルは扉のほうへと目を向けた。
そして寝入る前に聞いた彼の言葉を思い出す。
”おやすみ、ダニエル。また明日……”、って。
「…………ん?」
ふいに記憶の中で何かが転がった。
まただ、最近よく感じるこの違和感。
道端を転がる石ころのように、些細なものなんだけど。
痼のようにダニエルの中でひっかかっている。
何かが繋がりそうで、繋がらない。
そもそもどうして彼は昨夜あの場所に居たんだろう。
たまたま、だろうか。
何万人と民が暮らす首都セーラスで、偶然出会うなんて。
でも……宮殿でみた彼は幻よね?
だって人が消えるなんて、ありえないし。
どこから現実で、何処までが幻なのかがわからない。
なんだか狐に化かされた気分だ。
きっと彼は隣の部屋にいる。
心臓がドキドキと期待で高鳴った。
何をいまさら緊張しているんだと自分でも不思議に思うが、なんだかくすぐったくて恥ずかしい。
それに男性と朝まで過ごしたことがないから、どういう顔をしたらいいのかわからない。
ドアノブにかけた掌に、じんわりと手汗が滲んだ。
ーーサニー、貴方はいったい何者なの?
直接聞けば、このモヤモヤした疑問も晴れるだろう。
初めての体験尽くしにダニエルは期待と不安で胸を膨らませながら、意を決して扉を開いた。
同室のセレーナだったり、隣室の同僚や階下の先輩なんかの。
しかし今朝はいやに静かな朝だ。
寝ぼけ眼で、シーツの波に手を滑らせる。
心地よいリネンの手触りが極上すぎて、うっとりした。
……ってここ何処だ!!
ダニエルは勢いよく身体を起こす。
恐ろしいことに服を着ていない、素っ裸だ。
昨夜何があったんだけ?
ダニエルはおぼろげな記憶をたどった。
えーっと、アリとセレーナと飲みに行って。
セレーナは先に帰って、アリと別の酒場にハシゴしたのよね。
そこでアリはタイプの男をみつけて。
連れの男と三軒目に行こうとしたら、サニーの幻を見て。
でも幻じゃなくて、本物で。
それから路地裏で…………。
息もできなほど熱く交わしたキス、抱かれた時の筋肉のうねり、濡れた蜜壺を穿つ熱い肉棒。
「ディディ、俺のお姫様」と呼ぶ、低く甘い声。
それらを鮮明に思い出し、ダニエルは猛烈な羞恥に身悶えた。
わぁぁ!いやぁぁ!ぬぁぁぁぁ!
穴があったら入りたい。
同じ男性と二回もいたしてしまうなんて!
しかも外はイヤだと言いつつ、結局悦んでいた気がする。
ダニエルは馬鹿な自分の頭を、ポカポカと小突いた。
その後は……檸檬キャンディーをもらって、眠くなったのよね。
「あれ?」
眠ってる間に無体を働かれたのではと少しばかり心配になったが、身体に不調はない。
恐る恐るベッドから降りたが、腰が痛むことはなかった。
強いていえば股関節の内側がすこし引き攣ったが、筋肉痛ってレベルでもない。
お股も無事、なんなら体力は有り余っており、アリャーリャ村での時のようにネチネチと責められた痕跡はなかった。
絶倫な彼のことだから、あれだけじゃ済まないと思っていたのに。
肩透かしをくらい、ダニエルはなぜか侘しくなった。
気を取り直し、室内を見渡す。
ベッド近くのカウチソファーにサテンのガウンが置かれており、それを着ろってことだと把握した。
ご丁寧にスリッパも添えられているし。
ゴシック調で統一されたベッドルームには、ダマスク柄の壁紙、豪奢な絨毯、壁には湖に蓮が浮いた大きな絵が。
家具寝具の一つ一つは豪華だが、無駄な物は一切置いてない。
ホテル?それともサニーの自宅だろうか。
アリャーリャ村では、特別お金持ちだとは思わなかった。
品はあったけど、それよりも野性味のほうが強かったし。
身につけていた物は粗悪ではなかったので、地主のボンボンくらいかなって。
しかし昨夜の彼は、アリャーリャ村での彼とは全然違う。
優雅な所作で、貴族と言われても納得する気品を漂わせ、遊び慣れた都会男のようだった。
「…………どっちが本当の彼なんだろう」
ダニエルの独り言が、静まり返った室内に落ちる。
「……っ!!」
隣室から人の気配を感じ、ダニエルは扉のほうへと目を向けた。
そして寝入る前に聞いた彼の言葉を思い出す。
”おやすみ、ダニエル。また明日……”、って。
「…………ん?」
ふいに記憶の中で何かが転がった。
まただ、最近よく感じるこの違和感。
道端を転がる石ころのように、些細なものなんだけど。
痼のようにダニエルの中でひっかかっている。
何かが繋がりそうで、繋がらない。
そもそもどうして彼は昨夜あの場所に居たんだろう。
たまたま、だろうか。
何万人と民が暮らす首都セーラスで、偶然出会うなんて。
でも……宮殿でみた彼は幻よね?
だって人が消えるなんて、ありえないし。
どこから現実で、何処までが幻なのかがわからない。
なんだか狐に化かされた気分だ。
きっと彼は隣の部屋にいる。
心臓がドキドキと期待で高鳴った。
何をいまさら緊張しているんだと自分でも不思議に思うが、なんだかくすぐったくて恥ずかしい。
それに男性と朝まで過ごしたことがないから、どういう顔をしたらいいのかわからない。
ドアノブにかけた掌に、じんわりと手汗が滲んだ。
ーーサニー、貴方はいったい何者なの?
直接聞けば、このモヤモヤした疑問も晴れるだろう。
初めての体験尽くしにダニエルは期待と不安で胸を膨らませながら、意を決して扉を開いた。
0
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる