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【55】余韻 ② ー走り出したら止まらないー
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「下町の人間は教養がなくて困りますね……でも殿下もいけないのですよ。フェロモンを撒き散らして。男女問わず魅入られてしまいます」
「小言はいいから、手配しているホテルに行け」
「かしこまりました」
「あ、さっきの場所に靴を落としてきたから……それも拾ってきて」
ユージンはダニエルの片足が素足なのを確認し、「かしこまりました」と返事した。
そして窓から身を乗り出し、従者に靴を取りにいくよう命じる。
従者が裏路地に消えるのを見届け、馬車の床を杖で二回叩くと、静かに馬車は酒場街を走り出した。
下町の石畳は凹凸が多い。
馬車がガタゴトと揺れるので、サニーはダニエルを大切に胸に抱きしめた。
「寝かせたんですね……」
ユージンはダニエルをチラと見下ろし、やれやれといった風につぶやいた。
「てっきり、あの場で抱き潰してしまうかと思いましたよ。殿下にも慎みがあったのですね」
主人にも毒舌なユージンである。
「これでも慎みばかりの人生だからな」
サニーも寛大な主らしく、ブラックジョークで受け流した。
「それに見られて興奮する性格じゃないんだわ」
「ご冗談を。見られるの大好きではありませんか」
性欲の強い主人が、両手に花を抱えて寝室にこもることも珍しくない。
むしろ見られて延々と興奮できる好色魔のくせにと、ユージンややや呆れた。
「おい、それディディにバラすんじゃねーぞ」
「勿論でございます。主人の秘密をばらすなんて……家令にあるまじき行為を私がするとでも?」
なんでもかんでも母に報告してるじゃないかと、サニーは苦々しく思った。
「はぁ、あっちぃ」
それよりも、熱くてたまらない。
不完全燃焼で終わった欲望が未だ疼いて、トラバースの股間を膨らませている。
ダニエルのドレスで隠しているものの、これは早々にどうにかしなければ。
首に巻いたクラバットをほどくと、ユージンが馬車の窓を僅かに開き風通しをよくしてくれる。
夏の終わりの涼しい夜風が吹き込み、サニーは前髪を揺らした。
「通路は封鎖していたな?」
「勿論でございます。住人にも暫し部屋を開けるように手配しました」
ダニエルの可愛い声を聞かれたくないと思っていることを察し、それとなく住人を外へ連れ出してくれるユージンは流石である。
だが羞恥に顔を赤くし、必死に声をこらえるダニエルの姿はとても艶めかしかった。
サニーは腕の中で穏やかに寝息をたてるダニエルを見下ろし、また堪らない気持ちになった。
そんな情欲を滾らす主人に、ユージンは「これでは朝まで目覚めないのでは」と、余計な世話を焼く。
特定の女性を作ることを良しとしない彼は、すかさず「娼婦を呼びますか?」と気を回す。
「いや、いい。これから色々やらなきゃいけないからな」
「では…………」
ユージンはアイスグレーの瞳をギラッと光らせた。
サニーは前髪をかき分け艶やかに微笑み、「走り出したら、止まらない……」と呟く。
サニーはダニエルを捕らえることに、もう一切の迷いも罪悪感も抱いてない。
決意したら、テコでも譲らない。
そんなサニーの性格を知っているだけに、ユージンは心の中で溜息をつくのだった。
そして眠るダニエルの顔へと視線を向ける。
間の悪い女だと思う……主人の気をこうも逆撫でするなんて。
彼女の運命はもう主人の手の中。
ダニエル・マッキニーは気にくわないが、上手くいくよう願わずにはいられない。
もしも……もしも彼女が主人を拒絶すれば、待っているのは悲惨な未来だ。
想像して、ユージンは服の下でプツプツと鳥肌をたたせた。
いい具合に壊れている主人は、愛されないならば憎まれたいと望むだろうから。
「小言はいいから、手配しているホテルに行け」
「かしこまりました」
「あ、さっきの場所に靴を落としてきたから……それも拾ってきて」
ユージンはダニエルの片足が素足なのを確認し、「かしこまりました」と返事した。
そして窓から身を乗り出し、従者に靴を取りにいくよう命じる。
従者が裏路地に消えるのを見届け、馬車の床を杖で二回叩くと、静かに馬車は酒場街を走り出した。
下町の石畳は凹凸が多い。
馬車がガタゴトと揺れるので、サニーはダニエルを大切に胸に抱きしめた。
「寝かせたんですね……」
ユージンはダニエルをチラと見下ろし、やれやれといった風につぶやいた。
「てっきり、あの場で抱き潰してしまうかと思いましたよ。殿下にも慎みがあったのですね」
主人にも毒舌なユージンである。
「これでも慎みばかりの人生だからな」
サニーも寛大な主らしく、ブラックジョークで受け流した。
「それに見られて興奮する性格じゃないんだわ」
「ご冗談を。見られるの大好きではありませんか」
性欲の強い主人が、両手に花を抱えて寝室にこもることも珍しくない。
むしろ見られて延々と興奮できる好色魔のくせにと、ユージンややや呆れた。
「おい、それディディにバラすんじゃねーぞ」
「勿論でございます。主人の秘密をばらすなんて……家令にあるまじき行為を私がするとでも?」
なんでもかんでも母に報告してるじゃないかと、サニーは苦々しく思った。
「はぁ、あっちぃ」
それよりも、熱くてたまらない。
不完全燃焼で終わった欲望が未だ疼いて、トラバースの股間を膨らませている。
ダニエルのドレスで隠しているものの、これは早々にどうにかしなければ。
首に巻いたクラバットをほどくと、ユージンが馬車の窓を僅かに開き風通しをよくしてくれる。
夏の終わりの涼しい夜風が吹き込み、サニーは前髪を揺らした。
「通路は封鎖していたな?」
「勿論でございます。住人にも暫し部屋を開けるように手配しました」
ダニエルの可愛い声を聞かれたくないと思っていることを察し、それとなく住人を外へ連れ出してくれるユージンは流石である。
だが羞恥に顔を赤くし、必死に声をこらえるダニエルの姿はとても艶めかしかった。
サニーは腕の中で穏やかに寝息をたてるダニエルを見下ろし、また堪らない気持ちになった。
そんな情欲を滾らす主人に、ユージンは「これでは朝まで目覚めないのでは」と、余計な世話を焼く。
特定の女性を作ることを良しとしない彼は、すかさず「娼婦を呼びますか?」と気を回す。
「いや、いい。これから色々やらなきゃいけないからな」
「では…………」
ユージンはアイスグレーの瞳をギラッと光らせた。
サニーは前髪をかき分け艶やかに微笑み、「走り出したら、止まらない……」と呟く。
サニーはダニエルを捕らえることに、もう一切の迷いも罪悪感も抱いてない。
決意したら、テコでも譲らない。
そんなサニーの性格を知っているだけに、ユージンは心の中で溜息をつくのだった。
そして眠るダニエルの顔へと視線を向ける。
間の悪い女だと思う……主人の気をこうも逆撫でするなんて。
彼女の運命はもう主人の手の中。
ダニエル・マッキニーは気にくわないが、上手くいくよう願わずにはいられない。
もしも……もしも彼女が主人を拒絶すれば、待っているのは悲惨な未来だ。
想像して、ユージンは服の下でプツプツと鳥肌をたたせた。
いい具合に壊れている主人は、愛されないならば憎まれたいと望むだろうから。
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