【完結】女王陛下、クビだけはご勘弁を 〜「できちゃった。責任とって」って、ソイツはヤリチン王子。できるはずがありません!!〜

アムロナオ

文字の大きさ
上 下
73 / 102

【48】独り舞台 ② ー他の者を霞ませるー

しおりを挟む
「ヘイ!」
 店を出ると直ぐに、アリは流しの馬車を止める。

「行きましょう、ザック」
「え、で、でも二人は」

「あたしらの事は気にしないでー」
「おぉ、楽しんでこいよ、ザック」

「いや、それなら皆んなで……」
「いいから乗りなさいよ!」

 アリはしどろもどろになるザックを馬車に押し込んだ。
 そして「あたし達、先に行くわね。ダニー、楽しんでね!」と投げキスとウィンクをくれる。

 ダニエルは笑いをこらえた。
 だって後ろで、いい年した青年が連行される仔牛みたいに震えてるんだもの。
 馬車を見送ってから、ダニエルは堪えきれずに吹き出してしまった。


「あー、それで……僕らはどうする?」

 一緒にいた男が下心満載で、ダニエルの腰をだいた。
 彼の手が触れた瞬間、腕にゾワッと鳥肌がたつ。

「……!、そうね、少し歩きましょう」

 ダニエルは自身の変化に動揺した。
 最初からそんな気はなかったけれど、鳥肌をたてるほどに男性に嫌悪感を抱くなんて。
 こんなに潔癖だったっけ?

 ……それよりどうやってこのひとから逃れようか。
 穏便に済ますにはどうしたらいいだろう。

 次の店に行って、キリよく切り上げるのがベストかな。
 それでも絡んできたら、トイレに逃げてトンズラしよう。


 のらりくらりと会話しながら、彼を知ってる店へと誘う。
 その通り道、街灯の下に佇む身形の良い紳士に目が止まった。

 長身で、薄いサマージャケットが盛り上がるほどパンパンになった肩周りの筋肉がセクシー。
 背中も広くて、男性として立派な体格だ。
 横からみてお尻がプリっとしてて、足が長くて……。

 ダニエルだけでなく、すれ違う誰もが彼の存在感に興味をそそられ、視線を投げかけていた。
 周囲には馬車が止まり、酒場が開き、遠くからバグパイプの音が響いているのに、彼の周りだけ空気が違っている。

 それはスポットライトを浴びた独り舞台のよう。
 男の放つ危険でミステリアスなオーラがこの場を支配し、他の者の存在を霞ませていた。

 厚い下唇が、弧を描く。
 キスが上手そうな唇だ。
 あの唇にまれたら、どんな女性も蕩けるだろう。

 そうそう、肩にかかるくらいの長さの小麦色の髪で。
 黒とか茶色も混ざった、ちょっと変わった髪色してるのよね。
 帽子で影になっているけれど、すっと伸びた鼻のシルエットとかよく似てる。

 ダニエルはまた無意識に、すれ違う異性の中にサニーの面影を探していた。


 その時、男はタバコに火をつけるためマッチをすった。
 その仕草にデジャブを覚える。

 タバコの咥え方、マッチ棒をするときの手の動き、マッチからタバコに火を移すときの首の屈め方。
 何処かで見たような……。

 小さなマッチの火が男の削げた頬を暗闇から照らす。
 その瞬間、ダニエルはデジャブではないと確信した。

「……に、サニー!」

 馬車道を二本挟んだ下町の路上でーー。
 ダニエルは今までで一番ハッキリとサニーの幻を見た。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

処理中です...