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【48】独り舞台 ② ー他の者を霞ませるー

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「ヘイ!」
 店を出ると直ぐに、アリは流しの馬車を止める。

「行きましょう、ザック」
「え、で、でも二人は」

「あたしらの事は気にしないでー」
「おぉ、楽しんでこいよ、ザック」

「いや、それなら皆んなで……」
「いいから乗りなさいよ!」

 アリはしどろもどろになるザックを馬車に押し込んだ。
 そして「あたし達、先に行くわね。ダニー、楽しんでね!」と投げキスとウィンクをくれる。

 ダニエルは笑いをこらえた。
 だって後ろで、いい年した青年が連行される仔牛みたいに震えてるんだもの。
 馬車を見送ってから、ダニエルは堪えきれずに吹き出してしまった。


「あー、それで……僕らはどうする?」

 一緒にいた男が下心満載で、ダニエルの腰をだいた。
 彼の手が触れた瞬間、腕にゾワッと鳥肌がたつ。

「……!、そうね、少し歩きましょう」

 ダニエルは自身の変化に動揺した。
 最初からそんな気はなかったけれど、鳥肌をたてるほどに男性に嫌悪感を抱くなんて。
 こんなに潔癖だったっけ?

 ……それよりどうやってこのひとから逃れようか。
 穏便に済ますにはどうしたらいいだろう。

 次の店に行って、キリよく切り上げるのがベストかな。
 それでも絡んできたら、トイレに逃げてトンズラしよう。


 のらりくらりと会話しながら、彼を知ってる店へと誘う。
 その通り道、街灯の下に佇む身形の良い紳士に目が止まった。

 長身で、薄いサマージャケットが盛り上がるほどパンパンになった肩周りの筋肉がセクシー。
 背中も広くて、男性として立派な体格だ。
 横からみてお尻がプリっとしてて、足が長くて……。

 ダニエルだけでなく、すれ違う誰もが彼の存在感に興味をそそられ、視線を投げかけていた。
 周囲には馬車が止まり、酒場が開き、遠くからバグパイプの音が響いているのに、彼の周りだけ空気が違っている。

 それはスポットライトを浴びた独り舞台のよう。
 男の放つ危険でミステリアスなオーラがこの場を支配し、他の者の存在を霞ませていた。

 厚い下唇が、弧を描く。
 キスが上手そうな唇だ。
 あの唇にまれたら、どんな女性も蕩けるだろう。

 そうそう、肩にかかるくらいの長さの小麦色の髪で。
 黒とか茶色も混ざった、ちょっと変わった髪色してるのよね。
 帽子で影になっているけれど、すっと伸びた鼻のシルエットとかよく似てる。

 ダニエルはまた無意識に、すれ違う異性の中にサニーの面影を探していた。


 その時、男はタバコに火をつけるためマッチをすった。
 その仕草にデジャブを覚える。

 タバコの咥え方、マッチ棒をするときの手の動き、マッチからタバコに火を移すときの首の屈め方。
 何処かで見たような……。

 小さなマッチの火が男の削げた頬を暗闇から照らす。
 その瞬間、ダニエルはデジャブではないと確信した。

「……に、サニー!」

 馬車道を二本挟んだ下町の路上でーー。
 ダニエルは今までで一番ハッキリとサニーの幻を見た。
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