上 下
59 / 102

【40】親衛隊 ② ーオティムポ・デ・アララーター

しおりを挟む
 サニーはイライラしながら二本の指を差し出し、ユージンはそこに煙草をのせ、マッチに火をつけた。


 アリャーリャ村での朝。
 寝たふりしてダニエルを見送ったのは、無理に引き止めても良い結果にならないのが目に見えていたからだ。

 彼女はサニーに”次”なんて求めてなかった。
 予想通り、彼女は後ろ髪ひかれる素振りなど一切なく、サニーを置いて村を去ってしまった。

 やろうと思えば、無理矢理軍を辞めさせ、彼女を監禁することもできる。
 快楽で調教すれば、いずれサニーから離れられなくなるだろう。

 だが、人形がほしいわけじゃない。
 心まで欲しい場合は、どうすればいい?
 煙草の煙を吸い込み、サニーははやる心を静めた。


「男は見つかったか?」
「付き合っている男の影はありませんでした。軍に入ってからも特定の男はいないそうです」

「おかしいな、心に決めた男がいるって感じだったのに……」
「マッキニー准尉は男爵令嬢ですよね。婚約者がいるのでは」

「カイルの言う通りだな。故郷に男を残してきているかもしれない。ユージン、そっちを探ってくれ」
「承知しました」


「身持ちが固いのか、緩いのか。わからない女性ですね、マッキニー准尉は」
 カイルの言葉にサニーはうんうん頷き、ユージンは持論を展開する。

「身持ちが固ければ、殿下について行ったりしませんよ」
「しかし殿下だぞ……殿下ほどのいい男なら、クラッとくるのは仕方ないんじゃないか?」

「カイル!おまえは良くわかっているネ。昇進させてやろう」
 サニーは可愛い後輩の肩を叩く。
 ユージンとは別の意味でサニーに心酔している彼は、褒められて嬉しそうだ……表情は全く変わらない鉄仮面だが。

「いいえ!彼女は以前から定期的に男遊びを繰り返しているんです。娼婦とまではいきませんが、中々のプレイガールですよ」

 男を誘うような目つき。
 どうすれば男を墜とせるか、彼女は知っていた。
 口説かれて嬉しそうに微笑む様子。

 それらから遊び慣れているのは知っていたが、いざ事実をつきつけられると肩を落としたくなる。
 しょんぼりしたサニーに、ユージンは追撃を緩めない。

「殿下も適度に遊び慣れた、あと腐れない女性が好みだったではありませんか!」
 その通りだから、ぐうの音もでない。

 が、主人をここまで落ち込ませるなんて。
 オトコゴコロは硝子のハートなのヨ。
 もっといたわってくれてもいいじゃないか。


「でも安心してください、殿下。此方に戻ってからは、男遊びはしてませんよ」

 ユージンの報告に、サニーはわずかに元気になった
 ドキドキと期待が募る。

「きっと俺の事が忘れられないんだな……」
 ディディとの熱烈なキスの感触が蘇ってきて、サニーは唇を摩った。

「いえ、殿下がヤリ殺したせいで、オィムポが要らないだけかと」
 カイルが「ぐふッ!」とせる。
 サニーもずっこけそうになった。

「おい、なんだよそのヌルッとした言い方。はっきり言えよ、チンポって!」
「この方が、優雅かと思いまして。料理名にありそうでしょう。オティムポ・デ・アララータみたいな……」
「そんな料理、いらねーー!」

 サニーのつっこみに、カイルは口元を隠して忍び笑う。
 ユージンは彼を笑わせたことに満足して、唇で弧をえがいた。
 これではなんの話をしていたんだか……脱線しまくりで、先に進まない。

 仕方なくサニーは、「とにかく穏便にコトを運びたい。無理強いはなしの方向で」と締めくくった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...