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【31】働き蜂 ー愛情は平等じゃないー
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両親から愛されている……と、思う。
疎んじられているわけじゃない。
ただ、愛情は平等ではないのだ。
そう知ったのは何時の頃だっただろう。
弟よりも価値がなかっただけ。
妹よりも可愛くなかっただけ。
子どもの頃はそれを認められず、両親に望まれる自分になろうと必死だった。
我儘を言わず、良い子にしていれば、きっと両親は振り返ってくれる。
頭を撫ぜ、「愛してる」とキスを落とし、抱き締めてくれる。
幼いダニエルが望んだのは、たったそれだけだった。
だが、それを与えられる日は来なかった。
満たされず、幼い頭でもがく日々。
ある日、幼馴染と山へ行った。
連日長雨が続き、観察していた蜂の巣が心配になったのだ。
「あれ!蜂さん死んでる」
すぐに異変に気付いた。
巣の下には丸まった蜂の骸が落ち、沢山いたはずの蜂達は姿を消していた。
そして残された数匹の働き蜂が、白い眉をはった幼虫の世話をしている。
観察していると、忙しなく働いているのは羽が折れた大きな体の一匹だけで、残りの数匹は巣の上部でじっと動かないことに気付いた。
「どうして他の蜂は動かないのかしら?」
「そういう役割だからさ。働く者、世話をされる者、傅かれる者。生き物はみな、産まれながらに役割が決まっているんだ」
幼いダニエルでも、それは理解できた。
ダニエルは産まれながらに良い子を演じる役割で、弟はマッキニー家を継ぐ役割、妹は愛される役割なのだと。
「この巣はダメだ、全滅だよ。寄生虫に侵されている」
幼馴染の言葉に、ダニエルは目を丸める。
「寄生虫?!どこにいるの?」
「きっと繭の中さ。蜂の卵に寄生して内側から侵食しているんだ……あ、ほら」
小さな指が指した先で、茶色いウネウネした幼虫が白い眉を突き破って出てきた。
それをあの働き蜂が大きな顎で咥え、噛み殺している。
「戦ってるよ!」
「あぁ、でも敵が多すぎる」
「仲間達はどこへ行ったの?女王蜂は?雄蜂は?」
「たぶん新しい女王蜂を生かすため、巣を棄てて、冬を越す準備をしているんだ」
「そんな!ひどいわ。それじゃあ、この勇敢な蜂さんはどうなるの?」
「この子は羽が折れてるから蜜をとりにも行けない。何処かへ逃げることもできない。死ぬまで幼虫のために戦い続けるしかないな」
「……そんなの可哀想」
ダニエルの大きな瞳は、悲しみで潤む。
「残念だけど、これが自然さ。生きるってこういうことだろ?」
抽象的すぎて意味がわからず、ダニエルは首を傾けた。
「誰もが生きるために取捨選択を繰り返すんだ」
「しゅしゃせんたく?」
「良いものを取り、悪いもの捨てて選ぶことさ」
「うーーん」
ダニエルにはまだ理解できない。
「領主様もしているだろ。ディディよりも、弟妹を優先させてるじゃないか」
そういうことかと、ダニエルは納得した。
が、自分は悪いモノなのか。
要らない娘なのか。
その事実を突きつけられ、幼いダニエルは絶望し涙を流した。
声を上げず静かに涙するダニエルの手を、幼馴染の小さな手が握る。
ーー親であっても完璧ではない。
ーーでも、僕が君の安らげる場所になる。
そう言ってくれた人はーーー。
「…ぇさん、ねぇさん!」
ポーラの呼びかけに、ダニエルは煩虜に沈んだ思考をレストランへと戻した。
「…ぁ、ごめん、何?」
「大丈夫?」
ダニエルの方へ椅子を引き寄せ、身体を近づけ耳元で話しかけてくる弟。
彼は心配そうにダニエルの顔を覗き込んでいた。
端からみれば、恋人同士のように見えるかもしれない。
ポーラは人との距離が近いのだ。
ダニエルは彼の顔を鷲掴み、握力でぎりぎり潰しながら押しやった。
くらえ、アイアンクローだ!
こめかみのツボを押され、ポーラは痛みで肩をすくめる。
「いでででで!ヒドイよ、ねぇさん」
「近いのよ」
「そんな!ねぇさんのことが心配で心配で……」
「あんたが心配してるのは、借金のことだけでしょ」
「そんなぁ。僕がそんなに悪い男に見える!?」
ダニエルは大きく頷いた。
ポーラはえっ!?って顔で目を丸める。
学生の時は授業をサボって人妻との享楽に耽り、卒業後もふらふらしてばかりの男を”悪い男”と言わず、なんと言うのだ。
ってか、自分を悪い男だと認識してないなんて。
認知機能どうなってるのよ。
ねぇちゃん、悲しいよ。
疎んじられているわけじゃない。
ただ、愛情は平等ではないのだ。
そう知ったのは何時の頃だっただろう。
弟よりも価値がなかっただけ。
妹よりも可愛くなかっただけ。
子どもの頃はそれを認められず、両親に望まれる自分になろうと必死だった。
我儘を言わず、良い子にしていれば、きっと両親は振り返ってくれる。
頭を撫ぜ、「愛してる」とキスを落とし、抱き締めてくれる。
幼いダニエルが望んだのは、たったそれだけだった。
だが、それを与えられる日は来なかった。
満たされず、幼い頭でもがく日々。
ある日、幼馴染と山へ行った。
連日長雨が続き、観察していた蜂の巣が心配になったのだ。
「あれ!蜂さん死んでる」
すぐに異変に気付いた。
巣の下には丸まった蜂の骸が落ち、沢山いたはずの蜂達は姿を消していた。
そして残された数匹の働き蜂が、白い眉をはった幼虫の世話をしている。
観察していると、忙しなく働いているのは羽が折れた大きな体の一匹だけで、残りの数匹は巣の上部でじっと動かないことに気付いた。
「どうして他の蜂は動かないのかしら?」
「そういう役割だからさ。働く者、世話をされる者、傅かれる者。生き物はみな、産まれながらに役割が決まっているんだ」
幼いダニエルでも、それは理解できた。
ダニエルは産まれながらに良い子を演じる役割で、弟はマッキニー家を継ぐ役割、妹は愛される役割なのだと。
「この巣はダメだ、全滅だよ。寄生虫に侵されている」
幼馴染の言葉に、ダニエルは目を丸める。
「寄生虫?!どこにいるの?」
「きっと繭の中さ。蜂の卵に寄生して内側から侵食しているんだ……あ、ほら」
小さな指が指した先で、茶色いウネウネした幼虫が白い眉を突き破って出てきた。
それをあの働き蜂が大きな顎で咥え、噛み殺している。
「戦ってるよ!」
「あぁ、でも敵が多すぎる」
「仲間達はどこへ行ったの?女王蜂は?雄蜂は?」
「たぶん新しい女王蜂を生かすため、巣を棄てて、冬を越す準備をしているんだ」
「そんな!ひどいわ。それじゃあ、この勇敢な蜂さんはどうなるの?」
「この子は羽が折れてるから蜜をとりにも行けない。何処かへ逃げることもできない。死ぬまで幼虫のために戦い続けるしかないな」
「……そんなの可哀想」
ダニエルの大きな瞳は、悲しみで潤む。
「残念だけど、これが自然さ。生きるってこういうことだろ?」
抽象的すぎて意味がわからず、ダニエルは首を傾けた。
「誰もが生きるために取捨選択を繰り返すんだ」
「しゅしゃせんたく?」
「良いものを取り、悪いもの捨てて選ぶことさ」
「うーーん」
ダニエルにはまだ理解できない。
「領主様もしているだろ。ディディよりも、弟妹を優先させてるじゃないか」
そういうことかと、ダニエルは納得した。
が、自分は悪いモノなのか。
要らない娘なのか。
その事実を突きつけられ、幼いダニエルは絶望し涙を流した。
声を上げず静かに涙するダニエルの手を、幼馴染の小さな手が握る。
ーー親であっても完璧ではない。
ーーでも、僕が君の安らげる場所になる。
そう言ってくれた人はーーー。
「…ぇさん、ねぇさん!」
ポーラの呼びかけに、ダニエルは煩虜に沈んだ思考をレストランへと戻した。
「…ぁ、ごめん、何?」
「大丈夫?」
ダニエルの方へ椅子を引き寄せ、身体を近づけ耳元で話しかけてくる弟。
彼は心配そうにダニエルの顔を覗き込んでいた。
端からみれば、恋人同士のように見えるかもしれない。
ポーラは人との距離が近いのだ。
ダニエルは彼の顔を鷲掴み、握力でぎりぎり潰しながら押しやった。
くらえ、アイアンクローだ!
こめかみのツボを押され、ポーラは痛みで肩をすくめる。
「いでででで!ヒドイよ、ねぇさん」
「近いのよ」
「そんな!ねぇさんのことが心配で心配で……」
「あんたが心配してるのは、借金のことだけでしょ」
「そんなぁ。僕がそんなに悪い男に見える!?」
ダニエルは大きく頷いた。
ポーラはえっ!?って顔で目を丸める。
学生の時は授業をサボって人妻との享楽に耽り、卒業後もふらふらしてばかりの男を”悪い男”と言わず、なんと言うのだ。
ってか、自分を悪い男だと認識してないなんて。
認知機能どうなってるのよ。
ねぇちゃん、悲しいよ。
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