上 下
8 / 102

【06】タイムリミット ① ー休暇終了のお知らせですー

しおりを挟む
 数日後、ダニエルは再び村庁舎を訪れ、通信機器を借りた。
 二度めなので、スムーズに対応は運んだ。
 ダイヤルを回すと、すぐにセレーナがでる。
 彼女からの電報には【至急折リ返セ】とあったから、電話を待っていたに違いない。

『ダニー、よかった。電報がちゃんと届いたのね』
「えぇ、連絡ありがとう。それより、何かあった?」

『え、えぇ。弟君とお母様からそれぞれ手紙が……あと、督促状もきてる』
「督促状?」

『借金の督促状だよ』
 またかと、ダニエルは頭を抱えた。


 ダニエルの生家は北西の下級貴族。
 高祖父が戦争で手柄を立て、僅かな領地と爵位を与えられただけの、わば名ばかり貴族。
 穀物の生えない山ばかりの領地で、獣を狩る木を売る織物を織るしか生計を立てられない貧しい暮らし。

 それなのに高祖父は城の建造には金に糸目をつけず、資産を湯水の如く使ったとか。
 それは祖父、父にも受け継がれ、彼等は持参金目当てに成金商家の娘を嫁にもらったが、あっという間に食い潰してしまった。

 幼い頃から家計は火の車で、母は実家から度々支援を受けていたっけ。
 食べる物に困る、冬が越せるかと不安になる。
 持参した母の装飾品を売って、当座の金銭を稼ぐ。
 貴族ながら、そんな事も度々あった。

 肩書きと見栄だけは立派で中身のない生家にダニエルはほとほと嫌気がさしていたが、それでも情があり捨てられない。

『ポーラ君、お金に困ってるみたい。借金してるって、手紙に書かれていたよ』
 高祖父から始まった浪費癖は、弟のポーラにもしっかり受け継がれている。

 ダニエルは甘えたな長男様を思い出し、溜息をついた。
 家督を継ぐからと、チヤホヤ育てられた五歳違いの弟。
 ダニエルも彼をチヤホヤして育てた一人である。

 その結果が今の現状に繋がっているが、いつまで尻拭いをすればいいだろう。
 高給取りと持て囃される軍からの給金のほとんどをダニエルは実家へ仕送りしていたが、それでも足りず、このように度々金銭トラブルを起こすのだ。


「仕方ないわね」
 とにかく、バカンスは終わりだ。
 戻って、債務整理しなくちゃ。

 明日の早朝の船に乗れば、夜には近くの都市に着く。
 そこから蒸気機関車に乗り換え、二日で首都セーラスにたどり着く。

『お母様は、こっちセーラスに滞在してるそうよ。ね、大丈夫?』
 言いにくそうに続けるセレーナに、ダニエルは気を遣わせて申し訳なく思った。

「ありがとう。うん、大丈夫よ。金の無心はいつもの事だから。明日、船に乗って帰るわ」
『……せっかくのバカンスなのに』

「少し早いけど、そろそろ戻ろうと思っていたところなの。だから丁度よかったわ」
 嘘だ、本当はあと一週間は此方に滞在する予定だった。
 でも強がって自分を発奮させなきゃ、やってられない。

『ねぇ……』
「ありがとう、セレーナ!じゃあ、三日後、そっちで会おう」
『……うん、気をつけてね』
 何かを言いかけたセレーナの言葉を、先回りして塞ぐ。

 ダニエルにだけ金銭的負担を強いる歪な親子兄弟関係、おかしな生家。
 それを指摘されたくない。
 わかっていても、気づかないふりをしていたいのだ。





しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

処理中です...