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堕天使の涙

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 逹也がファフナーとの戦闘に決着をつけようとゲセルの宝剣を構え急降下しようとした時、優生とアスラの決着もつこうとしていた。
 優生が羽根の形を模した神力の武器は、無数に降り注ぐ強力なレーザーと同じくアスラの体を容赦なく焼き切って行く。
「次の世界が在るなら、今度はあなた達の世界だと良いわね・・・」
 優生の攻撃をもろに受けたアスラは、体に無数の風穴を開けられその場に倒れるが、数秒待ってもアスラの体が消滅しない。
 おかしいわね?もう一撃喰らわせといた方が良いかしら?
 不審に思い優生は警戒しながらも、地上で倒れるアスラの傍らに降り立つと、そこには明らかに物言わぬ死体となったアスラの体が横たわっている。
 優生はとても息が在るとも思えないその死体を調べると、思いがけない結論に辿り着く。
「・・・人間だわ!」
 間違いなく先程まで優生と会話を交わし、攻撃を受けたアスラに間違いは無い。人間なら優生の最初の一撃で粉砕されているはずである。
 念の為優生はアスラの腹部の洋服を捲り上げ、最初の一撃の後を確認した。
「この体で私の攻撃を受けたのは間違いないようね。でもどうして?人の体で受け切れる様な蹴りでは無かったはず、例え人間の精神を乗っ取り操ったとしても、人間の体で耐えられるもんじゃ無いわ・・・」
 少しだけ悩んだが優生は気持ちの切り替えをする。今は慧の安全が何よりも最優先、ひとまず慧の元に戻らなければと光の柱の方向を仰ぎ見たその時、慧が出したあの光の柱がスーっと消えて行くのが見えた。
 まずい!急がなきゃ!
 優生は力一杯その場から飛び立ち、慧のもとに急ぎ羽ばたいた。
 早く、早く慧ちゃんの時間を固定しなくちゃ!
 
 本牧山頂公園に向かい飛び立った優生が、上空から見た光景は理解しがたく信じられない物となっていた。

 慧が逹也に倒れこみ、それを庇う形でイリスが立ちふさがり、そのイリスの胸に和人が腕を肘まで突き刺して居るのだから。
「け、慧ちゃん?逹也、イリス!え?和人!何してるの?ねぇ何してるの?」
 優生が驚きを隠せないまま、皆の脇に降り立つ。
「お姉様・・・ご無事でしたか?」
 胸に突き刺さる和人の腕を掴みながら、自分の方が大変な状態で優生を心配するイリス。
「何言ってるの!イリス、あなたの方が大丈夫じゃないわよ」
 優生は無我夢中でイリスと和人を引き剥がした!イリスはその場に倒れ、和人は軽く後ろにジャンプして距離を取った。
「カズくん!どうしちゃったの?何やってるのよあなたわ!」
 怒る優生とは裏腹に、血みどろの自分の腕を見ながら和人は冷静に口を開いた。
「フハハハハハ、何を言ってる、私だよワ・タ・シ」
 下品な笑い方に優生はイラッとした。
「まさか・・アスラ」
「そう、まさしくアスラ様だ。気付かなかっただろ?」
「いったいどうして・・・」
「今日の昼間から、此奴の体は私が使わしてもらっている」
「何ですって!」
「今日海辺で此奴が気絶した瞬間に、入らせてもらったのさ」
 そう、それは昼間に和人が優生に気絶させられた時の事を言っているのだ。
「ずっと見ていた。疑わしき奴らをずっと監視していたのさ、つまりお前達をな」
「あなたさっき迄、私と戦っていたじゃない」
「アレも私だ。私は体を分裂させ寄生することで、私自身を増やせるのさ。まぁあっちは君に攻撃された際に、私の細胞を消滅させられたがね」
「じゃあもう一度消滅させてあげるわ」
「フハハハそう簡単に行くと思うか?今私が寄生しているコヤツは使徒だぞ」
「何ふざけた事を!」
「本当さぁ~。現に先程此奴は宝剣ゲセルを創り出して見せたぞ!そこの倒れている奴が危なくなった瞬間、私の意識を奪ってまで此奴は加勢しようとしたのさ。私の意識が乱れたから、お前が相手をしていた方の私を簡単に倒せたのも解らなかったか?愚かな事だ」
 アスラはそう言って優生を馬鹿にするように笑った。
「今はもうそんな油断をする気は無いがね。人間ではない使徒の体を持った私に勝てるとでも?」
 優生は確かに先程のアスラに手応えは感じていなかった、和人の体を持ったアスラにも勿論負けるつもりは無かったが、今は慧とイリスと逹也を何とかしなければいけない、時間は掛けられない。
「おっとー。焦ってるのが見え見えだぞ。私はゆっくりでも構わないんだ、じっくり戦おうじゃないか。うん?なーにどうせ聖杯以外は助からないさ。私は弱った聖杯に寄生して、この世を自分の物に出来ればそれで良い。残りの二人には死んで貰って結構だからね、ノンビリ戦おうじゃないか」
 アスラの笑い声だけが響き渡る本牧山頂公園。
 いざとなれば慧だけを最優先に物事を運ぶ自信があった優生だが、幼なじみの達也も自分をお姉様と言ってくれたイリスもやはり見捨てられない。誰かを見捨てるなんて考えを持たない慧を見て育って来たからか、優生の中には優しさが一杯で非情にはやはりなれなかったのだ。
「さてどうするね?早く私を殺しにおいで」
 挑発するアスラに対して、優生はやっと自分らしさを取り戻しつつあった。
「良いわ、相手してあげる。カズくんには悪いけど、消滅してもらう事にします・・・良いわねカズくん?」
 聞こえているかは不明だが、優生は和人に話し掛ける様にわざと言った。
「慧ちゃん、逹也、イリス、直ぐ戻るわ。だから持ちこたえてね、お願いよ」
 そう優しく声を掛けた後、優生は神力を開放し真っ赤に燃え上がる炎の様なオーラに身を包み、アスラを睨みつけた。
 まさしくアステカ時代テスカトリポカの戦士オセロの如く、獰猛な獣の如く怒りに満ち溢れ、ギリシャ時代戦争の神と人類に崇められたアレスの精悍さを持った鎧に身を包み、瞬速をもってアスラに一撃を入れた。
 余りの速さにアスラは度肝を抜かれる。先程戦った優生とは天と地の差が在るほど、一撃の重さも速さも違ったからだ。
「小癪な!」
 吹き飛ばされながらアスラは何やら呟き始めた。
「ケルト神より賜りし我が力、血肉を啜りて堅牢なる刃とせん、怨敵殲滅せんが為!顕現せよダーインスレイブ!」
 アスラが天に手をかざし何かを掴んで振り下ろすと、そこには呪われし妖剣ダーインスレイブが顕現していた。
「フハハハハ!血を吸うまで鞘にも戻らぬ、呪われし我が妖剣の糧としてくれるわ!」
 そう言って空中で高らかに笑うアスラに、優生は神力の羽根をこれでもかと打ち込んだ。
 自信満々に笑ったアスラも一瞬怯んだが、ダーインスレイブで全ての羽根を打ち払った。
「先程とは違うのだ、この体は素晴らしいぞ。流石使徒の体、力が漲るわい!」 
 ダーインスレイブを構え直しアスラは優生目掛けて一直線に突っ込んで行く。迎え撃つ優生の羽根を軽々と打ち払いながら、剣の間合いに入った瞬間横一閃!
 優生は翼自体を神力で包み、ダーインスレイブの一撃を受け流す様にして何とか弾いた。が!間髪入れずにアスラは剣を何度も何度も鋭く打ち込む。
 次第に優生の神力が削られ、翼自体が散り始める。
「お前の攻撃は接近戦では役立たずなのだよ。ただ守っているだけで持ち堪えられると思ったか!」
 大きく振りかぶって打ち込んだダーインスレイブの威力で、優生は弾かれ地面に激突した。
 優生は少し計算を間違った事に気づく。アスラを出来るだけ慧達から離した後、使徒相手にどれだけ通用するか解らないが、アスラ自体に時間固定の力を使うつもりだったのだ。
 一分、いや三十秒稼げれば慧達の元に行き、まずは逹也の時間を戻し回復する。回復した逹也にアスラの相手をしてもらう間に、慧とイリスも救えると。
 逹也を治すのにやはり最低でも三十秒は必要だ、その間の無防備な時を狙われれば最高位の女神、デメテルの優生と言えども一撃で消滅させられてしまう。
 優生は少し焦っていた。もしかしたら今直ぐ慧の時間を止めなければ、既に間に合わないかも知れない。
 どうすれば?どうすれば良いの慧ちゃん!
 優生は心のなかで叫んだ!今は自分にしか出来ない事だと解っているから、口には出せない弱音を心のなかで叫んだ!
「大丈夫だよ優生・・・・・・」
「えっ!」
 慧の声が聞こえた気がして、優生は驚いて慧達の方を振り返る。勿論慧達はピクリとも動かない。
「どうした!観念したか?」
 アスラは一瞬動かなくなった優生の隙を見逃さずに、最後の一撃と言わんばかりの攻撃を仕掛けた。
 優生もしまったと言わんばかりに急いで羽根に神力を込め直すも、到底間に合うはずもなく思わず目をつむりそうになったその時だった。
「・・・魔を滅し穿け!ゲイボルグ!」
 その掛け声と同時に光の矢がアスラ目掛けて飛んで来るが、アスラは動じずに剣を構え直して打ち払おうとした刹那。光の矢は無数の矢に増えアスラを直撃した。
「え?何?誰が?」
 優生は少しキョトンとしながら、吹き飛ばされたアスラを見ていた。
「優生様ご無事ですか!」
 そう言いながら走り寄って来たのは佐久間悠海だった。
「え、えっと~・・・誰かな?」
 優生はもしも会ったことがあるのに忘れていたら失礼だと思ったのか、少し遠慮がちに聞いてみた。
「逹也さんのチームに入りました佐久間悠海と申します」
「えっと・・そっちじゃなくて、あなたも使徒なの?」
「あっハイ、慧様に先程天啓を頂きました。ギリシャ神に属しますニケと申します」
「ニケ!・・・あなた勝利の女神じゃなかったかしら?」
「は、ハイ、精一杯頑張ります」
 何処か頼りなさげだが、元気の良いニケに力を貰った優生は力強く立ち上がった。
「助かるわニケ、三十秒で良いから時間を稼ぎたいの。アスラをこの場から引き離したいのだけど、力を貸して貰えるかしら?」
「ハイ。でも・・・・」
「でも?」
「優生様は慧様と逹也さんとイリスさんの所へ行って下さい。ここは私達で何とかします」
 行っちゃって良いの?と言いそうになる優生、だが本当に今は時間が惜しい。
「解ったわ、お願い!持ち堪えて」
 そう言って踵を返す優生は、アレ?と言う疑問を悠海に聞いて見た。
「ニケ?私達って・・・言った?」
 立ち止まりニケの方に向き直るや否や、視線の先にアスラが再び突進して来るのが見て取れ、身構える優生の後方で今度は南波龍史の声が聞こえた。
「八岐が蛇に畏み申す。我凄ノ王(スサノオ)が命ず、天に仇なす悪虐怨鬼、三種の神器にて斬滅したき候、神具借りてこれを討ち祓わん、天之叢雲(あめのむらくも)顕現せよ!」
 まるで腰の鞘から抜くように顕現したそれは、日本神話の三種の神器に数えられる名刀天之叢雲、又の名を草薙剣とも言う。
「次から次へと!邪魔をするで無いわー!」
 優生目掛けて振り下ろされたダーインスレイブは、神速で移動した凄ノ王の天之叢雲に軽く受け止められた。
「遅れて申し訳ありません優生様。慧様の時間が御座いません、お早く」
 「ありがとう」とだけ言い残し、優生は慧達の元にやっと帰って来れた事に胸を撫で下ろす気分だった。
「慧ちゃん待っててね、逹也とイリスを直ぐに戻すから」
 優生の羽根は暖かな光を放ち始め、まるで逹也とイリスを包み込む様に羽ばたいた。
 時間にして四十秒余り、逹也とイリスは時を遡り体の修復が完了した。
 ホッと一息付いてから優生は慧を抱きしめ、神力全開で慧に時間干渉を試みる。
 夜だと言うのに雲が割れ降り注ぐ月光は、そこにだけ柔らかな光の柱を地面に落とす。
 達也もイリスも目を覚まし、戦いの最中の悠海と龍史もまたその光景を目を奪われた。そこには八年前にテレビで見たあの光景が、神々しく目の前に広がって居たのだから。
 龍史はふと我に返った。
「さて我らが神の復活の邪魔を、いつまでもさせて置くわけには行かないな」
 そう言って龍史は天之叢雲を構え直した。
「そうですね。早く慧様とお喋りがしたいです私」
 悠海もゲイボルグを、アスラに向けて構えた。
「小童どもめ!腹立たしいったらありゃしねー。二人まとめてぶっ殺す!」
「あら?何かこの人、さっき迄の余裕が無いように思えません!龍史さん」
「油断はするなよ」
「ハイ」
 まるで相手にしていませんよ、と言わんばかりに目の前で会話する悠海と龍史に、更に怒りを露わにしながらアスラは叫んだ。
「私が何年この時を待ったと思っている!使徒になりたての貴様らになど、負けるかボケー」
「完全にモブの死亡フラグ頂きました」
 龍史はそう言って、御愁傷様ですと手を合わせアスラにお辞儀した。
 その所作をみたアスラは怒りの限界を迎える。
「バカどもめ、思い知れ!」
 そう言い放ったと同時に悠海と龍史を取り囲む複数の人影達。
「お前たちは思い違いをしているぞ。私はいつでもお前達を殺せたんだ」
 アスラは自分のダーインスレイブを、取り囲んだ内の一人に投げ渡した後に呟き始めた。
「我が娘の婿にしてゾロアスターの最高神よ、願い在りて畏み畏み申す。天帝の力を我が身に我が力に宿りて刃と成さん。インドラが宝剣ゲセルを持って宿敵激殺、顕現せよ!」
 アスラの眼前に空間の歪みが出来たと思えば、そこから剣の切っ先が顕現し始めゆっくりと伸びていく。長さにして五メートル以上。そうこれは先程逹也がファフナーを滅殺した剣、ゲセルである。
「そんな!あり得ない!」
 龍史も流石にビックリしていた。まさか寄生したとはいえ和人の意志無く、神具をアスラが顕現出来るとは思ってもいなかったからだ。
 これは寄生出来る特殊な力故に、アスラだけが知る神の秘め事でも在る。
 過去世界にてゲセルの持ち主であるインドラと親族関係にあったアスラは、寄生した者の使徒としての力を、家系図を辿り神具の顕現願いとして使用出来るのだ。アスラはその特殊な力を使えば、過去世代の殆どの神具を使用出来る「脅威」とも言える存在だと、龍史は感じていた。
 人類には余り広く知られてはいないが、神と呼ばれた者達の世界では近親相姦が当たり前で、自分の娘が兄弟に嫁ぐなどは当たり前と言って良い行為なのである。その為アスラの親族の家系図を辿れば、殆どの神と血縁関係に在ると言う事になる。
 神は近親相姦による子孫繁栄を神だけの神聖な行為とした、それ故に人類にはその行為を認めなかったとも言われている。

 悠海と龍史を取り囲んだ人数は全部で八人、その内二人が神具持ちと来たもんだから流石に分が悪い。
 だがアスラに寄生された者達を見て、悠海と龍史の闘争心に火が点いてしまったのをアスラは知らなかった。
「お前ら・・・・」
「何て酷い事を・・・」
 和人の体を除いて他の者達はついさっき、そう夕方までは一緒に過ごしていた仲間たちの死体だったのだ。
 アスラは逢魔が刻にウツボの化物に無残に殺された仲間たちの死体から、比較的五体満足な体を選び寄生して置いたのだ。こんな事もあろうかと。
 死して尚、自由になれない仲間たちを目の当たりにされて、悠海と龍史の感情の沸点が一気に限界を突破した。
「許さねぇーーー」
 天之叢雲を構えながらアスラ本体と思われる和人目掛けて渾身の一撃を喰らわすも、ゲセルで難無く受け流されるとダーインスレイブを持ったアスラ分身に斬りつけられた。龍史がそれを受け止め反撃しようとしたが、そこには仲間の顔を持つアスラ分身が!
 剣戟が鈍る龍史、それを見た悠海はゲイボルグをアスラ本体に投擲。一本の槍が三十本に増え、一本一本意志を持つかの如くアスラ本体に襲いかかるもゲセルを携えたアスラはそれをも軽くいなした。
「弱い弱い弱いよわーい!お前達は本当に未熟だ、使徒を名乗る資格も無いぞ!」
 ゲセルの長さを活かし一振りで悠海と龍史を引き離すアスラ。
 戦い慣れしている世代こその余裕が出てきている様だった。
 おそらく慧に直接覚醒を促された悠海と龍史ならば、アスラと一対一で戦えば圧勝出来るはずである。なのに仲間の死体を上手く使われただけで心乱した二人では、今現在勝ち目が無いと言っていい程に戦況をアスラに持って行かれている。
 龍史はアスラ分身のダーインスレイブで、傷を負ってしまっていた。
「ふんっ、つまらん」
 そう言ってアスラは取り囲んだ全員で一斉に飛びかかった。
 その時だ!
「我、神に歯向かい堕天するも翼を失わず、悪も慈悲も全てを以って汝を愛さん」
 地上にいたはずの逹也が、無感情に無表情でそう呟きながらアスラ達と、悠海、龍史の間に浮かんで来た。
「世界が我を憎もうとも、我は最愛を以ってこれに応えよう」
 言い終えた瞬間逹也の背中に生えていた翼は、二枚の対から六枚の対になる翼へと変化を遂げた。下から上に行くに連れ大きく立派な羽根を持つ翼となり、一番大きな翼は広げると十メートルを超えていた。
「なっ!お前っ」
 アスラがピタリと攻撃を止めた。
「ま、まさか、貴方様は・・・」
 アスラがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
「・・る・・ルシフェル様!」
「消えろ」
 感情もなく逹也は翼を大きく一羽ばたきすると、アスラ分身達は砂浜で砂の城が波に攫われ溶けるように、形を無くして消えて行く。
 余りにも強大な力を目にした悠海と龍史も、その光景を只々息を飲んで傍観してしまった。
「良くも愛する仲間の死を侮辱してくれたものだな、お前は」
 逹也の低く重い声にアスラはブルブルと震えているようだ。
 先程までの威勢は微塵も感じられない、そこにはか弱い小動物でも居るように見えたのは目の錯覚だろう。
 逹也がアスラを睨んだその時、蒼く深い瞳の中心が薄っすらと金色に光るのが、悠海からは見て取れた。
「ひぃ~許して、許して下さいお願いします」
 逹也はゆっくりとアスラの頭を掴み、和人の体から幽体を抜く様にアスラを引き剥がした。
「後生ですルシフェ・・」
 逹也は掴んだそれをギュッと潰すように、呆気無く消滅させてしまった。
 力が抜け落ちそうになる和人を抱きかかえた逹也は、優生の光の柱に照らし出されている。
 六枚の翼でそこに浮かぶ逹也は、荘厳かつ静寂が似合う堕天使ルシフェル、又の名を悪魔王ルシファーの姿その物だった。
 
 逹也はファフナーによって只死を待つばかりだったあの時、悠海と龍史の治癒を終えた慧の手によりほんの僅かであるが延命を与えられていたのである。
 勿論慧が悠海と龍史の治癒後で無ければ、絶対領域を創り出し逹也を全快まで回復させる事が出来たはずである、だがこの時の慧は自身に移した悠海と龍史の怪我で意識があった事さえ奇跡と言える状態だった。
 逹也は最後の力を振り絞った慧の、今までとは違う力によって延命と共に完全なる覚醒を果たし、堕天使ルシフェルの記憶と力を蘇らせたのだった。
「龍史、悠海・・・」
「は、ハイ」
 逹也は振り返り龍史と悠海の名を呼んだ。
 不思議な色をした青い瞳に魅入ってしまいそうになったが、名を呼ばれて我に返った二人は少しビクッとしながら返事をする。
「良かった、生きててくれて本当に良かった」
 そう言って涙を流す逹也を見て、二人は心底惚れてしまいそうになった。
「うわ~ん、たつやさ~ん」
 悠海は逹也に飛びついて泣きじゃくる。
「二人共怖かっただろ・・・ゴメンな、俺・・・・・間に合わなくて」
 そう言いながら悠海の頭を撫でる逹也。
「逹也さんは何も悪く無いですって!逹也さんが来てくれなかったら慧様に治して頂く事も叶わなかった訳ですし、俺と悠海は逹也さんに助けて頂いたのと同じじゃないですか!」
「ぞうでずよ~~」
 悠海は泣きながら一生懸命頷いて同意した。
「そうか・・・それなら良いんだ。有難う二人共」
 逹也はやっと緊張が取れたのか?二人に見せた笑顔はとても悪魔王ルシファーと言われ恐れられた者とは思えない、優しさと慈愛に満ちた笑顔だった。
 
「それよりもその者は本当にもう大丈夫なのですか?」
 龍史は逹也が抱える和人を見ながら聞いた。
「あぁ和人か?もう大丈夫、俺の古い仲間だ。それよりも慧ちゃんだ」
 逹也達は優生と慧の元に降り立ち、和人を地面に寝かせてから優生と慧を見守る事にした。
「念の為、警戒は怠るなよ」
 優生の気をそらさぬように、小声で静かに悠海と龍史に促した。二人もそれを察して声に出さずに頷いた。
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