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第2章 冒険者クラン『真夜中の頂』始動

第37話 『仮面』vs『餓狼』

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「ハッハァ!!」

 ――『五煙の餓狼』カリフが低空で身を屈めながら高速接近してくる。
 カリフは短剣2本の二刀流だ。

 だが普通の短剣とは違い、刀身に文字が刻まれていることから、何らかの仕掛けがあると思われる。

 あっという間に縮められた距離、カリフは二本の短剣を鋭く振り抜く。
 対するエレアノールは慣れたような動作で、それを避ける。

 戦い方を見る限り、カリフは近接戦闘に特化したタイプだ。

 エレアノールは魔法を駆使して戦うため、少し相性が悪いと言えるだろう。
 しかし、彼女は【精霊憑き】だ。詠唱なしの精霊魔法を使えば、充分に渡り合えるはずだ。

「少し落ち着いたらどうですの? まるで盛った猿のようですよ」
「……口の悪ぃ女だ。だが間違ってねえ、そうだよ。俺は猿さ、戦いの中で発情するんだよ。そしてその快感が俺をまた強くする。――いくぜ」

 カリフはペロリと舌を出すと、先程よりも速く動く。
 ここでエレアノールはカリフの速さについて分析する。

(……初速が極端に速い。鎧なしの身軽さに加え、速度重視の短剣を武器としている……魔術師にとっては天敵のような相手ですの)

 エレアノールの分析通り、カリフは速度型の前衛だ。
 全身の柔軟さと身軽さで速度を落とさず、さらに『風』属性魔法でさらに速度を速めている。

 詠唱ありきの魔術師では、発動しきる前に仕留められるだろう。

 また、エレアノールにはもう一つ気になる点があった。

(確か、前情報では5人組のはず……残りの4人はどこへ……)

 まるで猿のように縦横無尽にダンジョン内を蹴り、動き回るカリフ。
 全くエレアノールに攻撃してこない様から、挑発しているようにも見える。

 ――捉えられる者なら、捉えてみろ。

 だが、エレアノールからすれば捉える必要などない。
 辺り一面を吹き飛ばしてしまえばいいのだ。

(先にエマを幻術から解き放ちますの)

 エマの復活を優先したエレアノールは、詠唱短縮をした『闇』属性を発動する。

暗黒の神よテーネブリスデウス深淵の魔に吸い込まれてアビサスディアボリスインナーランツ顕現せよマニフェスタティオ・《暗澹の人形グルーミィドール》」
「――!! (詠唱短縮か……完全発動までに叩き斬るッ)」

 詠唱に反応したカリフは、魔法が完全に完成し切る前に術者を叩こうと天井を蹴り付け、垂直からエレアノールを狙う。

 高速で飛来する矢のように身を長く尖らせたカリフが、エレアノールの頭を貫くかと思われたが――

 ――ギィィイン。

 エレアノールが自身を覆うように張ったマナの壁が、カリフの短剣を弾く。
 その間に『闇』で出来たエレアノールの分身が、カリフの背後を取る。

 シュッ、と空を切りながら闇エレアノールの手刀がカリフを襲う。
 カリフは気配で感じてはいたが、まだ防御へは移行できていない。

 そこへ、すぐ近くの岩壁からぬるりと這い出てきた男が身を盾にして間に入る。
『五煙の餓狼』のメンバーの一人、カリフの弟で三男の"スリー×スラー"と呼ばれる者だ。

 鋭く研ぎ澄まされた手刀がスリー×の横腹を切り裂く。

「!? 味方を盾に……」

 まさか、といった風にエレアノールから言葉が漏れる。

 カリフは着地と同時に怪我を負ったスリー×を抱えると、距離を取る。
 エレアノールは非道なるカリフに言葉を浴びせ、彼もそれに応える。

「どこまでも残虐ですこと」
「いいんだよ……てめぇの物差しで測るんじゃねえよ」

 カリフの横に項垂れるスリー×の赤黒い傷であったが、――シュウウと音をたてながら塞がっていく。
 その様子を見て、エレアノールにしては珍しいほどに驚き顔をする。

「……傷が、治癒されている。治癒魔法を使った感じはない……。――一体、何が」
「へっ、そんなに珍しいことかよ。今時当たり前だろ」
「冗談はやめなさい。当たり前? 何か仕掛けがあるのは丸分かりですの」
「……さすが本職の魔術師は違うな。仕掛けを見破らなけりゃ、てめぇに勝ち目はねえぞ」

 治癒魔法を行使せずに、それも自然治癒が働くことはあり得ない。
 エレアノールですらも出来ないことだ。何かタネがあるのは確かだ。

(これは……中々に骨が折れそうですの)

 カリフが再び短剣を構え、力強く地面を蹴る。
 エレアノールは闇分身を横に呼び寄せ、2体1の状況を作り上げるようだ。

 スリー×はまだ動けない。

 ――その時だった。――破壊ッ!! 破壊!! はかぁーい!!

 バカの一つ覚えのように"破壊"としか叫ばない謎のクランが乱入してきた。
 カリフの背後から聞こえる"破壊"の言葉はだんだんと大きくなっていき、鼓膜を震わせる。

「……今度は何ですの」
「チッ、あのクソ坊主共め……どこまでも追ってきやがる」

 エレアノールとカリフが揃って忌々しげに言う。

 ――冒険者クラン『破戒僧クラブ』

 全員が上半身裸で坊主で構成され、『破壊神』を崇拝する破壊集団。
 何もかもを破壊することが至上命題の彼らは、教えのままに破壊を繰り返す。

 ある意味、『五煙の餓狼』より厄介でイカれた者達だ。

 カリフは転送早々、彼らと相見え戦うことなく避けてきた。
 一時は蒔いたが、再びこうして会うことになった。

「「「破壊ッ、破壊ッ……破壊の限りを尽くすべし!!」」」

「あれも貴方のお仲間ですの……?」
「んな訳ねぇだろッ、あんなので発情するほどイカれてねえよ」

 エレアノールは混沌と化した状況を見て、一時撤退することを決める。
 時刻は7時を過ぎているので、ゼンはすでにクランハウス(仮)に戻ってきているかもしれない。

 エレアノールはエマの傍へ寄る。

『破戒僧クラブ』の面々は全員目を瞑り、平坦な声で詠唱していた。
 ここへ来る前に詠唱を始めていたようで、すぐに詠唱は終わった。

 ――そして、辺り一面を覆うほどの巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣の大きさというのは単純な範囲を表し、魔法陣に刻まれる紋様の数がその威力を指し示す。
 巨大な魔法陣には、びっしりと紋様が刻まれている。

 エレアノールとカリフは瞬時に判断を下す。

(……この階層を吹き飛ばすつもりですの)
(おいおい、冗談じゃねえ。無差別にも程があるだろ)

 去り際、エレアノールとカリフの視線が一瞬ぶつかった。

(ここを乗り切っても、また遭遇しそうですの)

 ――ゴゴゴゴ、と地鳴りが鳴り響き始める。

 エレアノールは闇分身で自分とエマを覆わせると、懐に忍ばせた転移砂時計を使う。
 回数制限はあるものの、無条件で危機から脱出できるのだから、便利なことこの上ない。

 エレアノールとエマがダンジョンから転移して12秒後、凄まじい爆音と共に、四方に大穴ができ崩壊した。


 ◇◇◇


「ふぅ……危なかったですの」

 エレアノールは危機を脱し、ホッと息を吐く。
 そんな時だった。

「たっだいま――って、誰もいないよなぁ……ッ!?」

 ゼンが受付の仕事から帰ってきて、いるはずのないエレアノールがいて腰を仰け反らせる。

「な、なんでいるの……?」
「――かくかくしかじかでして」
「……何それ? よく生きてたな」
「転移砂時計のおかげですの。遺物争奪戦、その中でもセクションBはかなりの乱戦模様ですし、そろそろ貴方を呼ぼうと思っていましたので」
「そうか。何か悪かったな、一休みしたら行くか」
「はいですの」


 ◇◇◇


 ――場面は変わり、ダンジョンのとある階層にて。

「な、何なんだよぉ……こんなんがいるなんて聞いてな――」

 ブシュウウ、頭が潰され言葉が途中で途切れる。
 頭を腕力だけで潰した主は、強酸性のよだれを垂らしながら、のしのしと進む。

「フルルルル……ブモオオオ――ッ!!」

 ――ダンジョンが稀に産み落とす怪物を越えた真の怪物、突然変異型の四本角ミノタウロスが、獲物求めて彷徨っているのだった。






ーーーあとがきーーー

第38話は、月曜日に投稿予定です。

よろしくお願いします!!
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感想 4

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みんなの感想(4件)

タイアッド
2023.08.04 タイアッド

野朗ってなんやねん!この野郎

長谷川 心
2023.08.11 長谷川 心

大変、申し訳ございません。

解除
タイアッド
2023.08.04 タイアッド

読み始めて2,3行目から『約十数年』と変な文字が出て来て萎えた。

長谷川 心
2023.08.11 長谷川 心

お読みいただき、ありがとうございます。
大変、申し訳ございません。

解除
ペンギン
2023.07.30 ペンギン

はじめまして。とても面白くて、一気に読んでしまいました。更新が待ち遠しいです。

後半、ゆっくり読み進めたら気になった点がいくつか有りましたので記載させていただきます。

31話、「エレアノールのエルと名乗っている」→「エレアノールとエルと名乗っている」ではないでしょうか。
32話以降、「国立剣術大会」ですが大会に国立(こくりつと読むなら)では間違っているのではないでしょうか。「国営剣術大会」とする方が良いと思います。
33話、「エマの控えている」→「エマが控えている」ではないでしょうか。
34話、「参加権を永久に破棄する」→「参加権を永久に剥奪する」と
「5つは変えるわね」→「5つは買えるわね」ではないでしょうか。

今後も楽しみにしていますので、無理の無いように書き続けて下さい。

長谷川 心
2023.07.30 長谷川 心

ご感想、ありがとうございます。

ご指摘の件について、早急に対応させていただきます。

これからも拙作をよろしくお願いします!!

解除

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