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第2章 冒険者クラン『真夜中の頂』始動

第36話 遺物争奪戦セクションB 開幕

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 ――遺物レリック争奪戦セクションAが終了した。結果としては、大荒れとまではいかなかったが、荒れた。

 確認されているだけでも、死者は5名。四人組クランが一つ全滅し、後の一人は単独だった。
 ちなみに、ボーダーラインとなる3位の遺物入手数は、7個だった。

 1位は、11個獲得していた。

 すぐに入れ替えが行われ、セクションBの参加者がダンジョン入り口にあたる神殿内の開けた場所に集まっていく。

 その中には、『真夜中の頂ミッドナイト・トップ』のメンバー、エレアノールとエマがいた。
 二人とも仮面をしており、他の参加者とな違った雰囲気を醸し出している。

 ゼン扮するゼクスの姿はない。

 ゼンはギルドからの応援要請でギルドにおり、そこを手伝っている。
 表ではダンジョン受付担当としての顔があるので、それを疎かにするわけにはいかない。

 ゼンにとっては、いい隠れ蓑になっている。

 受付の仕事は夜までかかるので、ゼクスが遺物争奪戦に参加するのはそれ以降となる。
 そして、参加者の集団の中には、さらに違った雰囲気のクランがいた。

 ――『五煙の餓狼』だ。

 団長のカリフはおもむろに仮面の二人に近付き、問いかける。

「……団長はどうした? 怖気付いて逃げたか?」
「ふっ、笑わせないでくれますの。あなたごときに逃げるような軟弱者ではないですの。また後から来ますので、首を洗って待っておくことですの」
「へー、そうかいそうかい。――だが、それまで保つかな」

 カリフは怯みなどせず、挑発的な言葉を残してその場を去った。
 カリフの姿が見えなくなってから、エマが小声でエレアノールに話しかける。

「ねぇ、そんなこと言って大丈夫なの? 多分だけどあいつら、一目散に私達を狙ってくるわよ」
「そうですけど……ランダムでの転移なら、そうやすやすと見つかる心配はいらないと思いまして」
「でも……まあ、それもそうね。彼が来てからが本番だし、それまでは大人しくしてましょう」

 エマは何か言いかけたが、特に心配する様子もなくエレアノールの考えに賛同したのだった。


 ◇◇◇


 昼の12時、一斉に全員がランダムでダンジョン内に転送された。
『国』が開発した大規模魔導機で、大人数を指定した範囲内に転送できる。

 少人数であればある程度転送地点を定められるが、大人数であるとそれは不可能となる。

 こと遺物争奪戦においては、公平性を期す意味でも非常に役立つ魔導機だ。

 ダンジョン内へ転送されたエレアノールとエマは、皮膚に纏わりつくような独特な雰囲気を感じ、ダンジョンへやってきたと悟った。

 開かれていく視界からもゴツゴツした岩肌が目に入り、本当にダンジョンへ来たことを知る。
 エレアノールは呪いを無視して、ダンジョンへ来れたことに疑問を抱く。

(もしかして、この魔導機とやらであれば……ゼンもダンジョンへ来れる? 転移砂時計はわたくしが持っていますし……ゼンがどうやってこちらまで来るか……)

「少し疑ってたけど、ほんとにダンジョンだわ。ねえこれって、ゼンの転移砂時計と効果似てない?」
「そうですの。けど、おそらくダンジョンの扉が閉まれば効果はないですし。あの魔導機、でしたか? 恐らくかなりの魔力を消費するはずです。なので、転移砂時計の劣化版というのが正しいかと」
「へ~~、エレアノールって何者なの? 歴戦の冒険者みたいじゃない」
「ふふ、そこは謎めかせておきますの」
「答える気はないってことね……はぁ、ほんとにどうなってんのよ」

 エマは呆れがちにそう言った。

 実のところ、エマにはエレアノールのことを全て話していない。
 吸血鬼ヴァンパイアということは話していない。呪いのことなんかも話していない。

 それでもエマはエレアノールと仲良くしているのだから、問題ないだろうというのがゼンの考えだ。

「さて……これからどうします? ラスト争奪戦に参戦するには、3位以内に入る必要がありますの」
「『五煙の餓狼』については気になるけど、とりあえず本来の目的を果たしましょ。見つけた遺物は貰えるんだし、売ったら資金が増えるし、クランハウス購入の夢に一歩前進よ」
「分かりましたの。そういうことなら……さっさと見つけてしまいますの」
「さっさとって……いくら人の手で隠された遺物でも、そんな簡単に見つかるとは思えないけど……」
「うーん……」

 遺物の効率良い見つけ方が分からない二人は、その場で深く考え込む。
 その最中、エマが「そう言えば……」と突然切り出した。

「遺物って色んな種類があるんだけど……稀に魔力を帯びた魔導具みたいな遺物もあるのよ。遺物は魔物みたいに自ら移動しないから、魔力を追うことができれば、見つけられるかもしれない」
「魔力、ですの……?」
「ええ、なんか方法あ、……る?」

 エマが聞こうとエレアノールの方を向いた時、彼女はとても嬉しそうに笑みを浮かべた。
 とうやらエマには、その笑みが悪いことを考えている顔だと思ってしまう。

(え、何? なんかあるのかしら……そう言えばダンジョン探索でも、ほとんど事前に魔物を探知できていた、ような……)

 ――エマはゼンとエレアノールが魔眼持ちだということも知らない。

「それでは遺物狩り、始めましょうか」

 エレアノールは妖艶でいてかつ、邪悪な笑みを浮かべるとダンジョンを進むのだった。

(何なのよ、もう――――!?)

 対してエマのストレスは溜まっていく一方であった。


 ◇◇◇


 遺物争奪戦セクションB開幕から7時間が経過した。
 この争奪戦ではダンジョン第一階層から第二十五階層までが範囲で、一時的に結界が張られ二十六階層以降には進入できないようになっている。

 自分達がどこの階層に飛ばされたのかを確認するのも重要なことだ。
 当然魔物は当たり前のように徘徊しているため、下へ行くほど厄介な魔物がいる。

 過去の遺物争奪戦を知っている者は基本的に上の階層を目指し、待ち伏せなりを行い他の参加者の遺物を乱獲するのが当たり前の認識になりつつある。

 苦労して自ら遺物を探し出す必要なんてない。それが参加者達の本音だ。

 ……なのだが、熱心に遺物を掘り出す参加者二人がいた。

 ――エレアノールとエマだ。

 あれから7時間、エレアノールの魔眼を頼りに魔力を帯びた遺物を発見→回収、さらに高威力の魔法で岩壁を削り強引に発見→回収の流れができていた。

 そのせいもあってか、『真夜中の頂』の獲得数は8個になっていた。
 セクションAに倣えば、ボーダーラインの3位に入る個数だ。

 まだ1日目の夕方なのに8個も集まった遺物を見て、エマがぽつりと呟く。

「これ、もう探す必要ないわよね……」
「ん? 何か言いましたの?」
「ん、いや……まだ安心できないけど、戦わずに身を隠していれば安全に終えられるかもと思ってね」

 始まって7時間だが、危険という危険はまだ訪れていない。
 他の参加者とも遭遇することもない、そうした時の流れがエマの警戒心をだんだんとほぐしていってしまう。

は、そうかもしれませんの。けど……この三日間、決して生温いものにはならないかと。気を引き締めなさい」

 エレアノールは真剣な表現でエマを注意する。
 ゼンがいない今、クランを任されている彼女なりに、責任を全うしようとしているのかもしれない。

 注意されたエマも内心楽観的すぎたと反省し、気合いを入れ直そうとした。

「……そうね、ごめんなさい。ちょっと甘すぎたわ、ここからは警戒し、て――」

 突然エマの語尾が弱々しくなり、目もウトウトし出す。
 そしてエレアノールも、仕掛けられていることに気付く。

(……うぅ、これは精神に……ッ。――幻術の類、ですの)

 エレアノールは即座に状況を理解し、打開に走る。

「『覚醒しなさいエキサイテンション』」

 言葉に魔力を乗せた呪言で自らにかかりかけた幻術を解除するエレアノール。
 チラリと横を向くと、エマは力無く地面に倒れていた。

(すでに幻術に落ちてしまいましたか……。私わたくしをも嵌めうる幻術……一体、誰が――)

 ――ぬるり、と泥のような不快な感覚がエレアノールを襲う。その気配は、背後から――

「……ようやく、敵ですの」

 躊躇なく進んでくる足音の主をエレアノールは視線で捉えて離さない。
 やがて、その姿が露わになる。

「……む、おいおいマジかよ。二人まとめておねんねしてると思ったのによ。団長以外もなかなかやるのか……?」
「貴方ですの、この幻術は?」
「そうだが」
「そうですの……最初に仕掛けてきたのはそちらですし、痛い目を見ても仕方ないですの」
「はは、何でどいつもこいつも威勢がいいんだよぉ……。これだがらやめられねぇ。――俺をもっと感じさせろ、そして散れ」

 現れた『五煙の餓狼』のカリフは獰猛な笑みを浮かべそういい放つ。

「――下品な言葉ですこと。その言葉の意味を、教えてさしあげますの」


 遺物争奪戦セクションB一日目にて、早速戦いが巻き起ころうとしていた。







ーーーあとがきーーー

お読みいただき、ありがとうございます!!

よろしくお願い致します!!

8月12日の投稿は、夜の18時を予定しております。


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