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第1章 仮面の冒険者誕生
第27話 ダンジョン・バトルロワイヤル
しおりを挟む――冒険者クラン『戦乙女』団長のクレセリアは、当然の如く『精霊憑き』である。
『精霊憑き』の中では稀有な存在で、光と闇以外の属性の精霊が取り憑いている。
英雄カエサル以降、史上最も精霊に愛された女。それがクレセリアだ。
精霊魔法の技量だけで見れば、ノアやエレアノールをも上回る。
しかし、こと戦闘に置いては剣術や体術、相手の隙を突く観察眼などなど、様々な要素が絡み合ってくる。そのため、総合力という点においてはノアの方が上だ。
精霊魔法に特化したクレセリアか、総合力に優れたノアか――今、戦いの幕が上がる。
「……ここでは少し狭いな。場所を移すか」
ノアは三団体が入り混じるフィールドを狭いと見て、クレセリアに提案する。
彼は、確実に一人ずつ倒していく算段でいるようだ。戦力であれば、『異狩騎士団』が不利になる。
ノアと互角のエレアノールがいるからだ。レオナルドとルードの二人を以ってしても、足止めくらいは出来るだろうが、打ち倒すまでは無理と見ている。
(戦乙女が入ってきたことで、我々が一気に窮地に立たされた。あの仮面の女もいる……あまり時間をかけていると、俺以外全滅もあり得るな)
ノアの提案にクレセリアが頷き、二人は一斉に走り出す。お互い視線はそらさず、距離も離すこともなく縮ませもしない。数百メートル離れたところで、戦闘は突然起こる。
ノアが《瞬光》でクレセリアの背後を――と思いきや、頭の上へ移動する。眼下にクレセリアを見据え、踵落としで攻撃を仕掛ける。
対するクレセリアは一歩横にずれることで回避するが、続けてノアの体術で攻め立てられる。
彼女は全てを見切り、唐突に掌をノアへ向ける。
「――《大気よ、圧縮して弾け》」
「!! (自然に干渉する精霊魔法か……っ)」
ノアの目の前の大気が圧縮され、そのまま弾け飛ぶ。生まれた衝撃を間一髪、両腕でガードすることで顔面への直撃は避けた。
《身体強化》を施しマナを腕に纏って強化していたが、それ以上の衝撃だった。ジンジンと腕に痛みが走る。
クレセリアが行ったのは、呪言に分類されるものだ。己の言葉にマナを乗せることで、対象に影響を与える。
エレアノールが一階層で探知結界を無効化したのも、この呪言の効果である。だが、エレアノールの場合はあくまで結界などにのみ作用するもので、普通大気に影響を与えることはできない。
『風』属性の精霊に憑かれた者は、今回のように大気に影響を与えることが可能になる。『水』属性なら微量の水分にも影響可能なように、各属性に関係する自然に呪言を適用できる。
残念ながら、ノアに『風』属性の精霊は憑いていない。彼は、『火』と『雷』、そして『光』の精霊が憑いている。
未だジンジンと痛む腕を見ながら、ノアは面白おかしく言う。
「なかなか卑怯だな……。少しは手加減してくれないのか?」
「笑わせないでくれる。あなたこそ、意味もなく体術で攻撃してきたわけじゃないでしょう?」
「……ふっ、勘の鋭さは相変わらずだな」
そう言ったノアは、指先で星型をなぞり書く。それに呼応して、クレセリアのいる所から星型の立体魔法陣が浮かび上がる。
先程の体術は、この星型を描くためのものだった。『妖精女王』相手に体術など、何の意味もない。
「――《光星の瞬き》ッ」
星型の立体魔法陣の中で、キラキラした光が引き鉄となり爆発が起こる。
ノアは眺めながら、こんなことを思う。
(……こんなもので終わり、なわけはないだろうな。――不意を突いたつもりだったが……)
――シュウウウ、と爆発後の音がする中、煙が晴れる。
「やはりか……」
「ケホ、ケホ……ちょっと、服に匂いがついちゃうじゃない」
当のクレセリアには傷一つなく、平気な顔でそんなことを言う。
ノアの口ぶりからも、こうなることが大方分かっていたようだ。
「分かっていて誘ったな?」
「んー、まあ何かあると思っていたけどね。マナの鎧のおかげで助かったわ」
クレセリアの言葉にもあるように、マナというのは精霊魔法の素となるだけでなく、様々な場面で応用ができる。
マナを収束させて武器や壁を作ることもできれば、鎧の生成も可能だ。
ただし、マナを集める過程において憑いている精霊の数は大きく関わってくる。
クレセリアは五属性、つまり5体の精霊がいるため、マナの収拾量は多い。
(……やはり『精霊憑き』の格では、ヤツの方が上か。このままでは勝ち目はない、か……)
そう悟ったノアは剣を抜く、《断魔》の存在はまだクレセリアに知られていない。そのアドバンテージを最大限活かすため、通常の剣として見せる。
「――《瞬光纏い》」
通常の《瞬光》は常時発動タイプではない、一定時間《瞬光》を発動するための、《瞬光纏い》だ。
ノアはクレセリアを囲むように光速移動し、的を絞らせない。
クレセリアは動かず、防御に徹するようだ。
「《自然風盾》」
彼女の周囲に無数の風の盾が出現し、一片の隙もなく覆う。マナを惜しみなく注がれた盾は分厚く、硬い。
さらに、クレセリアは精霊による多重詠唱も展開する。クレセリアの基本的な戦い方は、退いて守りに徹しながら、高威力の魔法で仕留める。
多重詠唱が始まったところで、ノアが動く。剣に雷を纏わせ、斬れ味を増させると風の盾に構わず、斬りつける。
――ギィン、ギィン、ギィン……ギィン、ギィン
《瞬光纏い》で常に光速移動しながら、全方位に剣で攻撃する。クレセリアが知るノアがそんな攻撃を仕掛けるはずもなく、何を考えているのか深く疑う。
(……一体何を考えているの、確かに速度なら私は追い切れないけど……)
その間にも詠唱は続き、半分を終えたところに差し掛かった時――ノアが片手で生み出した光球がふよふよと浮きながらクレセリアに接近する。
(……《光よ、目を眩ませ》)
ノアが光に干渉する呪言を呟くと、反応した光球がさらに激しく発光し、視界が白の世界に染まり出す。術者のノアは、クレセリアの位置を把握している。
「くっ……目眩し……」
クレセリアが呻き声を上げる最中、ノアは《瞬光纏い》で彼女の背後に位置を取る。
――そして、隠し通してきた《断魔》を起動……分厚い風の盾を一瞬にして消し去る。
背後で己の魔法が崩れた気配を察したクレセリアは、咄嗟にマナを収束させ、刃を通させないようにする。
……が、そこにノアの姿はなかった。
(!! いない……ッ、)
クレセリアはハッとした。直感で気付いてしまう。
(フェイントにかかって、しまった……)
精霊魔法を消し去るほどの攻撃を仕掛けられれば、そこに意識と守りを集中させるのは当たり前だ。
だからこそ、ノアは《断魔》一回分を陽動として使った。
《瞬光纏い》で背後からクレセリアの真ん前に移動していたノアは、再び《断魔》を起動する。
――残弾数は、残り五発だ。
またもや破られる風の精霊魔法……一度傾けた意識をすぐに戻すことは出来ず、クレセリアは無惨にも雷を纏った剣に、……貫かれた。
「――うっ、ごふッ……ハァァ、ハァァ」
「……お前の負けだ」
「ハァ、ハァ……な、何をしたの……?」
「……魔導剣だ、精霊魔法をも打ち消せる効果がある」
「ふ、ふざけた能力ね……製作者を、呪ってやりたいわ……」
――スゥ、と抜き去られる剣。
クレセリアは刺された部位を手で押さえながら、膝をつき地面に倒れる。
ノアは負傷したクレセリアにとどめを刺さなかった。あくまで今回の任務は、異端者のエマを捕らえることにある。
そのまま黙って立ち去ろうとするノアの背中を虚な目で眺めながらも、クレセリアは半ば気合いで立ち上がる。
足は小刻みに震えており、立っているのがやっとの状態だろう。
振り返らないまま、ノアは彼女に向け言葉を放つ。
「……何のつもりだ?」
「ぅ、ハァハァ……『妖精女王』と『絶対者』の戦いは、あなたの勝ちよ……。けど、ね……『戦乙女』と『異狩騎士団』の戦いに、負けるわけには、いかないッ」
「強がりはそれくらいにしておけ」
「……ふ、ふ。そうね、私は強がりだから……こうするの」
クレセリアの意味深な言い方に不安を覚えたノアは、さっと振り返る。
その目の先には、天高く手を突き上げるクレセリア。その口から――
「――『マナ集まりて、召喚せよ』五神精霊・顕現」
そう、発せられた。
一気に顔を青ざめさせるノア。
「き、貴様……ここらの階層丸ごと吹き飛ばすつもりかッ!?」
「だから……あなたがそうさせないように、相手をするのよ。頑張ってね……」
「このっ――」
――ズズウウウウン!!
ダンジョンの階層を透過して、天から降り注ぐ光の柱が5本。大気中のマナが大量に吸い寄せられていき、柱によって残さず吸収される。
そして、顕現するのは――五体の精霊。
――『火』を司る精霊・イフリート
――『水』を司る精霊・ウンディーネ
――『土』を司る精霊・ガイアノーム
――『風』を司る精霊・シルフ
――『雷』を司る精霊・ゼウス
それぞれの精霊が、ノアの前に悠然と立ち塞がった。
◇◇◇
そして、もう一方の戦いはというと――
――ゼクス対レオナルド、エレアノール対ルードの構図が出来上がっていた。
ダンジョン・バトルロワイヤルが更なる混戦へ突入する時は、すぐそこまで迫っていた。
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