14 / 38
第1章 仮面の冒険者誕生
第13話 第十階層の探索
しおりを挟む「――あなた方が贔屓にしている鍛治職人を紹介してもらいたい」
ゼクスの回答に対しクレセリアは少し拍子抜けしている様子だ。もっと過激な要求をされると思っていたのだろうか。
ポカンとしている団長クレセリアは、コホンとわざとらしく声を出し空気を変えた。
「ほんとにそれでいいのかしら?」
「……? そう言われても、それしか思い浮かばないな。それに、俺は渋られると思っていたぞ」
「まあ、渋るも何も紹介するだけならねえ……。鍛治職人も私たちの専属ってわけじゃないし。もちろん、お抱えの鍛治職人を持つクランもあるわよ」
(そういうものなのか……。それなりのクランなら、専属がいると思ってたんだけど……)
ゼクスの想像とは違った回答だったため、少し戸惑ってしまった。
だが、そういうことならゼクスの望む結果へ導きやすいだろう。
「――なら、紹介してくれるということでいいのか?」
「ええ、構わないわ。あの人も客が増えれば嬉しいでしょうし」
そんな会話が行われ、話は纏まった。その後クレセリアは『戦乙女』が贔屓にしている鍛冶職人の詳細をゼクスへ伝えた。
話によると、その鍛冶職人は山を一つ越えた職人区画にいるらしく、様々な職人の大抵がその区画に店を構えている。
「とりあえず紹介状を書くから、時間がある時にでも行ってみて」
「分かった。紹介感謝する」
「いえいえ、どういたしまして」
何てことない風に首を振るクレセリアの姿を見て、ゼクスはふとこんなことを思っていた。
(いつか、この人みたいな冒険者になりたいな)
まだ出会ってから数時間だが、ゼンはクレセリアに惹かれていた。惹かれていた、と言っても恋愛的な感情ではなく、憧れという言葉が最も近いだろう。
団員という仲間に慕われ、『帝』の称号に見合った強さも併せ持つ。その美貌も相まって、さらに輝いているように見える。
ゼンは思った。――クレセリアのようなカリスマ性の持ち主が、ダンジョン最下層の景色を見るに相応しいのだろう、と。
クレセリアから見てボーッとしているようなゼクスを気にかけ、彼女は声をかけた。
「――ねえ、大丈夫かしら? 疲れちゃった?」
「……い、いやすまない。大丈夫だ。俺はそろそろお暇させていただこう」
「あら、残念……。ま、そうね。今生の別れってわけでもないし」
「それでは、世話になった」
互いに挨拶を済ませたゼクスは『戦乙女』の三人に見送られ、帰路に着いたのだった。
◇◇◇
『戦乙女』団長クレセリアとの対談から一週間、ゼンは以前よりも生き生きとした様子でダンジョン階層踏破を進めていた。
結果的に、一週間で第八階層、第九階層を踏破し第十階層にまで足を踏み入れていた。
工業区画にいる鍛冶職人――名をヴァルフという、は礼節を重んじる人格者らしく、手土産を持っていかなければ、会ってもくれない。
また、工業区画までの馬車は週に一回しか出ず、完全予約制であるため時間がかかる事は珍しくない。
すぐに予約をしたゼンであったが、取れたのは2週間後の馬車であったため、少々時間がある。その間に第十階層までは踏破しておきたいとゼンは思った。
今日も今日とて、ゼンは受付の仕事を終えると夜のダンジョンへ転移した。本日は、エレアノールも同行している。何でも。
「月に一度は魔物の血を摂取しておきたいのです」
「それって、人間の血じゃダメなのか?」
「別に、そんなことはないですの。何なら、人間の血液の方が栄養豊富で身体にいいですの」
吸血鬼ヴァンパイアは基本、食事を必要としない。高位の吸血鬼であれば、月に一回の摂取で十分なほどだ。
それでも、美味しい食べ物には目がないようで、エレアノールは血液よりも食事を楽しみとしている節がある。
「ふ~ん、そんなもんなのか」
「あら、貴方の血を吸わせてくれますの?」
「……別にいいけど。魔法の件では助かったし、お小遣いだけってのもどうかと思ってたし」
ゼンの答えが意外だったのか、エレアノールは一瞬動きを止めたがすぐに歩き出した。
そして、早歩きでゼンを追い抜くと言った。
「――なら、お言葉に甘えて毎月の楽しみにさせていただきますの」
「……おう」
頷いたゼンは歩く速度を早め、先を行くエレアノールに追いついた。
それから少し足場の悪い岩場に突入したので、速度を落としながら進む。
さらに、段差のある岩場から跳躍し着地したところで、ゼンがピタリと動くのをやめた。左眼の魔眼に魔力反応があったのだ。
ゼンは小声でエレアノールに言う。
「……少し行ったところに、ヴァンプバットがいた。音に反応して、急速に接近して吸血攻撃を仕掛けてくる魔物だ」
「ふふ、どうやらだいぶ魔眼の使い方が上達したようですね」
「まあな。魔物大全の魔物は全て暗記してるから、姿形がある程度分かれば判別できる」
「頼りになりますの、それでどうしますの?」
「……光属性の魔法が使えるなら、弱点をついて簡単に倒せるんだけど……。あいにく俺に『光』の適正はないからな。あんまり推奨されないだろうけど、こっちは居場所を把握してるからな。――強行突破する」
強行突破する、と宣言した通りゼンは刀の柄に手を置きながら《火射ファイアショット》の構えを取り動き出した。
魔眼の反応を頼りに腰を低く接近し、《火射》の射程距離限界の位置から狙い撃つ。
放たれた炎の弾に撃ち落とされたヴァンプバットは力無く落下し地面に激突する。
発生した音に反応して、バサバサと翼をはためかせながら飛び掛かってきたヴァンプバットはゼンの刀の前に斬られ伏した。
全5匹のヴァンプバットを難なく討伐したゼンは、優雅に歩いてくるエレアノールに先を急ぐことを伝える。
「おい、そんなにのそのそ歩いてたら陽が昇っちゃうよ。少し急ぐぞ」
「ふん、人を亀みたいに言わないの」
遠回しに亀みたいと言われたように感じたエレアノールは途端に不機嫌になる。
(こういうところは、まだまだ子供っぽいんだよな……。まあ、時間はまだあるしアイツに合わせるか)
今日中に第十階層を踏破する必要などないため、ゼンはエレアノールに歩幅を合わせることにした。
途中、ゴブリンやリザードマンなどとの戦闘はあったが、ゼンの刀の前に倒れていった。
そして、ゼンとエレアノールは分かれ道にやってきていた。
ダンジョンは一本道が多いが、下は行けば行くほどこうした分かれ道に遭遇することは多々ある。ゼンにとっては初めての選択だ。
「さて、どっちに行くか……」
ゼンは頭をかきながら呟く。
エレアノールは分かれた道を交互に見ながら、興奮した様子で言う。
「左の道へ行きますのっ」
「えっと……ちなみにその根拠は?」
「そんなの、私わたくしの勘に決まってますの」
何となく分かりきっていたのもあり、ゼンは分かりやすく肩を落とす。
「そんなことだろうと思ったよ。――よし」
切り替えたゼンは、魔眼にさらなる魔力を集中させた。覗き見ることで、最適な道を見つけようという魂胆だ。
今までよりも多くの魔力をどんどん魔眼に注ぎ込んでいく。
――途端、ズキリと痛みが左眼に走る。
「ぐっ……」
痛みを堪えながら、ゼンは魔眼でさらに先へと迫る。
(もう少し、もう少しだけ……ぐぅッ、流石にもう……)
そう思った時、右の道で極大の魔力反応があった。未だかつてないほどの大きさ、禍々しい魔力はそれだけでゼンにプレッシャーをかける。
「――ッ」
息を呑んだゼンは左眼を閉じ、視界を遮断した。心臓を鷲掴みされているような感覚がゼンを襲った。
冷や汗をかき、顔が真っ青なゼンを心配したエレアノールが腰に手を当て支える。
「大丈夫ですの? あれは貴方にはまだ早いですの。大人しく左の道へ行きましょう」
「……あ、あれは何なんだ?」
「おそらく、二本角のミノタウロスですの」
「ミノタウロス……」
ミノタウロスは強力な魔物だ。群れで行動することはなく、単独で彷徨い弱者を狩る。角の数によって単純な強さが測れる。
ダンジョン踏破を進めていくにあたって、出来れば遭遇したくない魔物だ。
ようやく落ち着きを取り戻したゼンはエレアノールに一言お礼を言うと、左の道へと歩みを進めた。
0
お気に入りに追加
869
あなたにおすすめの小説
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
【完結】戦場カメラマンの異世界転生記
戸部家尊
ファンタジー
中村文人はカメラマンである。
二十歳の頃から五十年間、多くの戦場や紛争地域を渡り歩いていた。
ある日、紛争地域で撮影中、謎の光に包まれ、異世界に転移してしまう。
そこで出会ったファーリという、森に住まう異種族と出会う。
誤解を受けつつもひとまずファーリたちのところに
二十歳の若者として暮らし始める。
だが、その集落はチェロクスという獣人たちに狙われていた。
ファーリたちを救い、元の世界に戻るべく、文人は戦いの渦に飛び込んでいく。
【タイトル詐欺です】
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる