スキル【精神】の冒険者 〜出来損ないと罵倒され、公爵家を追放された俺は成り上がる〜 覚悟しろ、恐怖を与えて後悔させてやる

長谷川 心

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第1章 セントオリビアの街

第6話 《安定》の使い道と生活拠点

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 土下座して頭を上げようとしない爺さんを立ち上がらせ、真っ直ぐ目を見て言う。

「とりあえず話は聞く。だから落ち着くんだ、大丈夫か?」
「すまん……取り乱しておった。ついて来てくれんか?」
「ああ、案内してくれ」

 落ち着きを取り戻した爺さんは、やや駆け足で複雑に入り組んだ道を迷いなく進んでいく。
 セントオリビア歴がかなり長い人なのだろう。

 5分ほど行ったところで、爺さんは3階建の家の前で立ち止まった。外観はかなり古く見える。手を膝につき、息を整えている。

「ここがわしの家じゃ。入ってくれ」
「家って、いやいや。一人で住むには大き過ぎるだろ。何者なんだ?」
「そんな大層なやつじゃないわい。孫と細々と宿屋をやっておるんじゃ」
「ああ、それでか……」

 宿屋を経営しているなら納得だ。俺は爺さんに続き、お邪魔する。カウンターの脇を通り過ぎ、奥へと進む。そこには、住居スペースがあった。

「こっちじゃ」

 三つほどある部屋の一つへ入ると、ベッドに横たわる子供がいいた。
 爺さんが子供の頭を優しく撫で、俺に話しかけてきた。

「まずは礼を言わせてくれ。わしはコルクという、こっちの子供は孫のフランじゃ。見ての通り、苦しんでおる」

 ベッドで眠るフランは、苦しそうに呻き声をあげている。俺は出来るだけトーンを抑えて話す。

「病気なのか?」
「分からん。治癒師に見せても、原因が分からんからポーションを飲ませておけと言われたが、効きゃせん」

 爺さんは愚痴るようにそう言った。治癒師の名が泣くな、と思いながら本題に入る。

「治癒師に見せても分からないって、やばすぎだろ。それで、何で金を貸してくれとなるんだ?」
「超級ポーションが欲しいんじゃ。上級まで試して無駄じゃった。後はそれしかない」
「超級って、そんな簡単に手に入るもんなのか?」
「それなら大丈夫じゃ、薬屋に置いてあるのは確認済みじゃ」

 爺さんが涙ながらに頼んでいたのは、孫のために超級ポーションが欲しかったかららしい。
 超級ポーションは部位欠損すら治すことができる。

 上級とは一線を画すほどの効能を持ったポーションだ。その分、値段は高い。ただの冒険者が持ち歩いているなんて有り得ない代物だ。

「いくらなんだ?」
「金貨6枚じゃ……。頼む、持っているなら貸して欲しい! 何ヶ月、何年かかっても必ず返す。じゃから、頼む……!」
「………」

 金貨6枚か……。結構高いな。ラサの報奨金があるので、出せなくはないが……。宿屋だけでなく、その他にも冒険者として揃えておくべきものがある。

 それに使おうと思っていたが。そういえば、ここは宿屋だよな。なら、ここに格安で泊めてもらうことは可能だろうか?

 良い宿屋に泊まりたいという、希望はあるが今はそんな贅沢する時期じゃない。
 冒険者としての地盤をしっかりと固める時期だ。

 俺は爺さんに交渉を試みた。

「分かった。金貨6枚、爺さんにあげてもいい」
「――!! ほ、本当か……」
「ああ、ただし条件がある。この宿に格安で泊まらせて欲しい。ちなみにこの宿屋の一泊の代金は?」
「全室一律で、銀貨4枚じゃが……」
「それなら、半額じゃダメか? 銀貨2枚で泊まらせて欲しい」

 少し難しい提案だったかな、と思った。が、爺さんは速攻で答えを出した。

「そんなことでいいのなら、分かった。銀貨2枚で宿泊して構わん、期間も無期限でいい。今は孫を一刻も早く救いたい」
「よし、交渉成立だな。爺さんの代わりに俺が買ってこようか?」
「いや、わしが行く。お主じゃ、道に迷うじゃろう。面倒をかけるが、孫を見ていて欲しい」
「分かった」

 俺はついさっき貰った金貨10枚のうち、6枚を爺さんに差し出した。
 爺さんは力強く握ると、出ていった。

 さて、どうするか。見ていると言ったが、特に俺が出来ることはないだろうし……。それにしても苦しそうだな。
 可哀想に、と思いながら見守っていて、俺はあることを思いついた。

 スキルの《安定》って、精神を安定させるものだよな……? 現に、恐怖は打ち消せたわけだし。
 なら、この子の精神を安定――つまり楽にさせてやることが出来るのはないか?

 この子の病気そのものを治すことは出来ないだろうが、苦痛を和らげることはできるかもしれない。
 そう考えた俺は、勝手ではあるがこの子に《安定》を与えてみた。

「スキル発動《安定セキュア》」

 すると、結果はすぐに表れた。表情が楽になり、呻き声も小さくなった。少なくとも、耳を近づけない限りは聞こえなくなった。

「成功した……。《安定》って結構使い道があるのか?」

 まだ見ぬ可能性を感じた俺は、自分にも《安定》を与えてみた。手当てはしたが、怪我をした片腕がズキズキと痛むのだ。

「……ん? これは、痛みが引いた」

 勘違いかもしれないが、痛みが引いた。包帯の上から軽く押してみるが、痛くない。

「《安定》って痛みも消せるのか……」

 あまり大きな声で喜べないが、俺の心は打ち震えていた。痛みを引かせる効果は非常に有用だ。
 怪我をした状態で戦闘になれば、痛みが邪魔して上手く戦えなくなる。

 痛みを引かせれば、気にせず戦える。だが、怪我そのものを治す効果はないので、出血はする。なので、あくまでも延長して戦えるだけだ。それでも大きな力にはなる。

「これで、俺はまだまだ強くなれる」

 思わぬところで、意外な発見ができた。爺さんに出逢えたことに感謝しないとな。
 俺は、スゥスゥと寝息をたてるフランを見つめながら爺さんの帰りを待った。

 ◇

 その後、爺さんが戻ってきてフランに超級ポーションを飲ませていた。
 すると、一時間も経たずにフランは嘘のように元気を取り戻した。今は部屋を走り回っている。

「なあ、本当に未知の病気だったのか? いくら何でも早すぎる気がするんだが……」
「そ、そうだの……わしにも良く分からん」
「本当か? 何か隠しているんじゃ」
「な、何を言うか! 恩人に隠し事なぞせん。わしは何も知らんぞ」

 怪しい、怪しすぎる。フランは確かに苦しんでいたので、病気だったのは違いないだろう。
 だが、回復速度が異常だ。超級ポーションがそれだけ凄いのかもしれないが、何とも違和感が拭えない。

「お兄ちゃん! フーを助けてくれてありがとう! これからフーがたくさんお世話してあげるからね」

 フランは満面の笑みを浮かべ、お礼を述べる。俺は久しぶり癒された。助けた甲斐があったな。

「世話はいいよ、それよりも本当に平気なのか?」
「うん! じいじがフー達は普通と違うって言ってたの。だから平気!」
「普通じゃない?」

 俺は半目で爺さんに視線を送るが、当の本人はこちらに目を向けることなく物品の整理をしている。
 強引に話させるのも悪いので、俺は宿泊の話題に変える。

「宿泊のことなんだが、部屋はどこが空いてるんだ?」
「おお、それなら良い部屋があるぞ。唯一のスイートルームじゃ。お主は事故部屋は平気かの?」
「別に俺は、霊とかを信じたりしないから構わない」
「よしきた! フラン、案内してやりなさい。場所は分かるかの?」
「うん! あの血が飛び散ってた部屋だよね」

 フランが笑顔でそう答えるので、すでに取り替えられているのだろう。
 俺は先頭を行くフランにスイートルームに案内された。

 中はかなり広かった。4人が同時に生活できる広さだ。ここを一人で使えるなんて贅沢の極みだな。
 血痕なども見られないので、かなりお得だ。

「ふわああ……眠いな」

 俺は、綺麗にシーツが敷かれたダブルベッドに飛び込んだ。そのまま寝転ぶと睡魔が襲ってきた。
 なので睡魔に身を任せ、俺はまぶたを閉じたのだった。
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