スキル【精神】の冒険者 〜出来損ないと罵倒され、公爵家を追放された俺は成り上がる〜 覚悟しろ、恐怖を与えて後悔させてやる

長谷川 心

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第1章 セントオリビアの街

第3話 セントオリビアの街

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 ラサという鮮血好きの男に襲われ、不思議な現象により難を逃れた俺は森を抜け、街道を進んでいた。

 真昼間なのに、人っ子一人見当たらない。馬車が通ってもおかしくないはずなのに。
 俺は歩きながら、現在頭に浮かんでいる言葉――ではなく文字列が何なのか考えていた。

 ――――――――――

 セノン・フローレン

 【称号】Lv.2 【精神を喰らいし者】

 スキル【精神】 《恐怖フィアー》20%
                       《安定》20%

 ――――――――――

 まず驚くべきことは、称号Lvが2に上がっていることだ。恐らく、突然浮かんだ言葉がキッカケだったんだろう。
 頭痛もあったし、間違いはないはずだ。

 称号については、【精神者】から打って変わって恐ろしい名称になっている。
 精神を喰らうというのは、どういうことなのだろうか?

 ラサが突然何かに怯え出したのも、このスキルなのかもしれない。というより、そうなのだろう。そうでなければ、納得がいかない。

 まだ予想の範疇を出ないが、【称号】Lv.1の段階ではスキルは全く使えなかった。2に上がったタイミングで使えるようになったことを考えると、1では《恐怖》の値をひたすら溜め込む期間だったのではなかろうか。

 奇しくもあの3年間が俺にとってプラスに働いたのは言うまでもない。だからといって、許すわけがない。

「追放したことを必ず、後悔させてやる……!」

 今はそれだけが生きる目的になっている。ザクトやレオンだけではない、フローレン家そのものを地に堕としてやる。

 兎にも角にも、分からない事が多過ぎる。色々と検証して一つずつ理解していくしかなさそうだ。
 そんなことを考えながら、俺は先を目指した。

 ◇

「あれが、セントオリビアか……思ってたよりも大きいな」

 周りには遮るものが何もない。鮮やかな緑がただ広がっている、大草原だ。
 地図上で確認するよりも大きい気がする。まああの地図は古かったし、領も日々発展しているのだろう。

 そして、俺は遂に人が住む街へ辿り着いた。正門前に衛兵がおり、呼び止められる。

「見ない顔だな、流れ者か? それとも冒険者か……」
「まだ冒険者じゃない。ここで冒険者になろうと思ってな。まあ、流れ者だ。……ダメだったか?」
「いや問題はない。だが、少し手続きがある。これに名前と年齢、出身地を書いてくれ」
「……分かった」

 一枚の用紙を差し出され、俺はまず名前を書き込もうとするが……。
 セノン・フローレンと書くのはな。追放された身だし、それにあの家の名は捨てる。

 ――今日からは、ゼノン。ただのゼノンだ。

 ゼノン、15歳。出身地はフローレン領と書き込んだ。衛兵は手に持つと、確認していく。

「ゼノン……家名はなし。出身はフローレンか……随分いいとこじゃないか。なんでこんな所まで?」
「色々あったんだ。あまり詮索しないでくれると助かる」
「……まあ、それもそうだな。よし身元確認も済んだ。通っていいぞ、ようこそセントオリビアへ」

 衛兵から歓迎の挨拶を受け、俺はセントオリビアへと足を踏み入れた。少し歩くと、すぐに冒険者らしい風貌の男達が数人確認できる。

 大通りの両端には、家やら店やらが隙間なく建てられており、人も中々に多い。

 どうやら、当たりの街を引いたようだな。大して活気のない街で有れば、冒険者の生命線とも言えるクエストの数が異様に少なかったりする。

 俺は冒険者ギルドの場所を人に尋ねながら、冒険者ギルド前まだやってきた。
 入口上部には大きく、剣と魔法を表す杖が交差したマークがある。

 チリンチリン、と鈴の音と共に俺はギルド内へ入る。中には、円卓が十数個置かれており、昼間から酒を飲んでいる輩がいる。

 それを無視して真っ直ぐカウンターを目指す。受付と書かれた看板が天井から吊るされているからわかりやすい。
 カウンターまで行くと、受付の女が語りかけてきた。

「この度はどういったご用件でしょうか?」
「冒険者登録がしたいんだが、ここでできるか?」
「はい、もちろんです。それではこちらに必要事項の記入をお願いします」

 またもや用紙を渡され、俺は慣れた手つきでサラサラと書き込んでいく。必要事項と言っても正門前のものとあまり変わりはない。

「これでいいか?」
「……大丈夫です。それでは冒険者証を発行いたしますので、少々お待ちください。その間に……冒険者についての説明をさせて頂きたいのですが……」
「続けてくれ」

 表情が強張っていたか……? 受付嬢が説明していいかどうか迷っていたようなので一声かけ、続けてもらう。

「冒険者にはランクがあります。一番下から鉄級・銅級・銀級・金級・白金級・神金級の6つがあります。クエスト受注は基本的には自分の級までですが、一個上の級のクエストも受注可能です。その場合、ギルドの許可が必要になります。級昇格についての明確な判断基準は公開しておりませんので、ご了承ください。クエストは、あちらにある掲示板をご確認下さい。他に気になる事はございますか?」
「いや、それはないんだが……。これについて知っているなら教えて欲しい」

 そう言って俺はローブの中からラサの冒険者証を取り出し、受付嬢に手渡す。
 首を横に傾げながら、受け取った受付嬢は一目見て顔を強張らせた。

「失礼ですが、これをどこで?」
「ここへ来る道中の森で襲ってきた奴のものだ。運が良くて倒せたが、通常の冒険者証と違ったので持ってきたんだが……」
「ここでお待ち頂けますか?」

 俺が軽く説明すると、そう言うので俺は待つことにした。この後、特に用事もないしな。
 構わない、と言うと受付嬢は慌てて二階へ上がっていった。

 受付嬢のただならぬ様子から、あのラサという男はとんでもなく危険な男だったと悟った。
 人を殺すのに躊躇がなく、殺し慣れてる感じだった。

 5分程経ち、受付嬢が戻ってきた。先程までとは違い、落ち着いている。

「ゼノン様、よろしければ詳しい話をお聞かせ願いませんでしょうか? ギルドマスターが是非、と……」
「ギルドマスターが? 別に構わないが、詳しいと言っても名前も知らないような相手だぞ」
「それでも構いません」

 なんと、ギルドマスターが直々にお呼びとあるので俺はお呼ばれすることにした。
 早期にギルドマスターとツテができるのは俺にとってもプラスになる。

 この際だ、ギルドマスターと親密な関係になっておこう。ラサの情報があれば、いけるような気がする。

 俺は受付嬢に案内され、二階のギルドマスター室へ赴いた。向かう際に、他の冒険者からの視線が痛かった。
 みんな、そんなにギルドマスターに会いたいのか? まあ、気軽に会える存在ではないだろうが……。

 俺は勘違いしていたが、冒険者達の視線は全て受付嬢(その胸)に向けられていたことに気付くのはまた先の話だ。
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