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プロローグ
3話 魔力
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「そうだ! アレス、君は……魔力を以てレイダースを制するんだ」
「魔力でレイダースを制する……」
アレスはジャンヌの言葉を復唱した。言っている意味が分からなかったのだ。
困惑した、アレスの頭の中では急速に魔力という概念が渦巻いている。
(あれ……魔力ってなんだっけ……? あれ……?)
プシューーーーーー、オーバーヒートだ。処理能力を超え脳がパンクした。
自分の中にも当たり前のように存在している魔力というものについて、深く考えたことがなかった。
ただ、魔法の源になるものとしての認識しかアレスにはなかった。
分かりやすく頭から煙を上げるアレスを見て、ジャンヌは苦笑いした。
「ハハハハハ。悪い悪い、突然そんなこと言われても意味が分からないな」
「そうですよ……ちゃんと教えて下さい」
「分かってるよ」
アレスは語気を強めて言う。ハハハ、と微笑を浮かべ答えるジャンヌ。
「ま、今日教えてやりたい所だが……もう遅いから明日にしよう。別室を貸してやるからそこで寝ろ」
「はい、ありがとうございます」
その日の夜、アレスは早く寝た。疲労が溜まっていたのだろう。ベッドに寝転がって数分で意識が飛んだ。
ジャンヌはと言うと、寝酒を飲みながらアランとミアとの思い出に浸っていた。
事情があり、世界依頼には同行しなかったが、それまでは【王直】の一員としてクランを支え続けた。
世界依頼に旅立つ前に、アランとミアに揃って頭を下げられた。今まで一度もそんなことなかったのに。
自分たちの我儘で息子を一人にしてしまうのを嘆いていた。だから、何かあればアレスの力になってやってくれ、と頼まれていた。
「それなら、行かなきゃいいだろうに……。本当に馬鹿だな、お前たち二人は……。早く戻ってこい」
◇◆◇◆◇◆
「さて、それじゃあ今日から始めていこうか」
「よろしくお願いします、ジャンヌ教授」
家の中ではなく、外へ出ての講義だ。ジャンヌが言うには、家の中では危ないらしい。
(何をするつもりなんだろう……)
アレスは不安だった。両親が残した手紙にも小さくだが、やばい奴だから気をつけろ、と書かれていたのだ。
アレスの気持ちなど知る由もないジャンヌは、話を続ける。
「まず、魔力というものの概念について触れておこう。アレス、魔力とは何だ?」
「え、と……魔法を使うために必要な源です。魔法器官を通して、魔法が発動されます」
アレスは、教科書に載っているようなお手本を解答する。ジャンヌはそれに、うんうんと頷く。
「そうだな、正確には魔法器官、さらにそこから魔力回路を通って全身に送られる。そして、魔法発動だ」
「けど、それがどうして魔法の代わりになるんですか?」
「うん、その質問についてだが。結論から先に言ってしまうと、魔力というのは体外つまり……空中に具現化できる」
「………は?」
魔力の具現化という、聞いたことも無い話が飛び出してきてアレスの思考は止まった。
呼吸も忘れ、瞬きだけを繰り返す。
「どうだ? 驚いたか? 」
「―――――ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか?」
「よかろう」
考えることはやめ、落ち着かせることに全神経を注ぐ。深呼吸を繰り返し、自身に理解させようとするアレス。
「だ、大丈夫です。続けてもらっていいですか」
「よし、まあ言っても良く分からんだろうから、実際に見てもらおう」
そう言って、右腕を突き出すジャンヌ。「よく、見ておけ」と一言呟く。
そして、左腕で右手首を押さえながら、ぐぬぬぬぬ、とうめき声をあげる。
その様子を黙って見つめるアレス。
「ふ―――」
一息吐いて………
「ふんっ」
すると、ジャンヌの手の平からズズズズと音を立て、濃い紫色のモヤのようなものが出現する。
やがて、拳大の大きさになるとそのまま固まった。まだ、煙のようにモヤも出続けている。
「ど、どうだ! これが魔力だ……」
「………すごい」
「触ってみろ、長くは保たないから早くしてくれ……」
魔力を見せつけるジャンヌの顔は苦しそうだ。それを見たアレスは、恐れることなく魔力に触れた。
「!! 硬い……」
魔力に触れてみるアレスだが、以外にも硬かった。モヤが出ているので、煙のように掴むことなど出来ないと思っていた。
――――――シュゥゥゥ、と魔力は消えた。
「大丈夫ですか?」
「……問題ない。それよりも、どうだった?」
「はい硬かったですし、ちゃんと掴むことが出来ました」
「そうだな、私も驚いたが。魔力には質量がある。もう少し大きければ足場としても使えるだろう」
おそらく、この世で初めて魔力の具現化に成功したのはジャンヌだ。
アレスの両親から魔法器官がなく、魔法が使えないと言われた時からずっと研究を続けてきた。
アレスのためでもあるし、自身の好奇心ゆえの結果だろう。腐ってもジャンヌは魔法研究の学者だ。
魔力の研究は苦ではなかったのだろう。
「さて、魔力の具現化については分かったな。少し話を戻すが、魔法の代わりとして魔力と私は言ったが、別に完全な代替となるとも思っていない」
「じゃあ、どういう意味で……」
「私は魔力を魔法を相殺――止める術として考えている。魔法を相殺又は止める方法として、一番有用なのは何か?
体術、これは論外だ。拳や蹴りで魔法を止められる訳がない。次に剣術、これについては一考の余地はある。だが、現実的じゃない。ならば、魔法は魔法で止めるのが一番ということになる。
例えば、火魔法は同じく火魔法で相殺可能だ。ここで、だ……発動された火魔法の元を辿れば魔力になる。つまり、発動しているのは魔力とも言える。
こう考えると、火魔法は魔力で相殺――止められるはずだ。さっき確かめた通り魔力には質量があるので、火も止められる」
長々と自らの理論を語ったジャンヌはとても満足そうにしている。が、それとは逆に雷が落ちたような衝撃に包まれている者がいた。アレスだ。
固定観念を吹き飛ばされながらも、自身の可能性をひしひしと感じていた。
(すごい……魔力で魔法を相殺できるなら………!)
アドレナリンの分泌で興奮状態が冷めやらないアレスたが、ふと思い付いた事をジャンヌに質問した。
「ジャンヌ教授、一つだけ。それって俺が魔力の具現化と魔力の維持を出来なければ……」
それは、最も恐れていた事だ。これまでのジャンヌの話はあくまで仮説だ。
根拠もなければ、保証もない。
「ん、そうだな。根拠がある訳じゃないから、一か八かの賭けでもある。失敗すればそれまでだ」
ジャンヌは残酷にもそう告げた。一瞬にして絶望へ急転直下していくアレス。
顔には、焦りの表情が見て取れる。
「ただ、大丈夫だろう。考えてもみろ、私達は魔法器官があるから、維持が出来ない。逆に君は魔法器官がない。つまり、直接魔力を送り届けられる。というより、恐らく君の中には常に魔力が巡っているだろうな。受け皿としての魔法器官がないからな」
通常の人の魔力というのは、常に体全体を巡っているわけではない。魔法を行使する時に、必要な分の魔力が魔法器官に送られ、そこから魔法発動だ。
「ま、ものは試しだ。やってみろ、すぐに分かる」
「……はい」
アレスは立ち上がり、ジャンヌのやっていたように真似をする。
時間をかけて、丁寧に丁寧に段階を踏んでいく。
そして――――――
「はぁあっ」
………ズズズズ、と黒色のモヤが出始めた。
「!! ……で、出た」
初具現化ということで、これ以上の魔力は出ないだろうと考えたアレスは、力を抜く。
真剣そのものの顔で、ゆっくりと手を伸ばす。
手の平に浮かぶ魔力に触れると………
しっかりと硬く、質量があるのが分かる。そして、一番大事な事。
維持ができるかどうか?
ジャンヌの場合、一分も経たずして魔力は消えた。アレスは……
「……消えない」
腹の底から絞り出すように、呟かれた一言。声は僅かに震えている。
それを聞いたジャンヌは、優しい笑みを浮かべた。
「おめでとう、アレス。これで魔力は君のものだ。………それじゃあ、地獄の特訓を始めるか」
「魔力でレイダースを制する……」
アレスはジャンヌの言葉を復唱した。言っている意味が分からなかったのだ。
困惑した、アレスの頭の中では急速に魔力という概念が渦巻いている。
(あれ……魔力ってなんだっけ……? あれ……?)
プシューーーーーー、オーバーヒートだ。処理能力を超え脳がパンクした。
自分の中にも当たり前のように存在している魔力というものについて、深く考えたことがなかった。
ただ、魔法の源になるものとしての認識しかアレスにはなかった。
分かりやすく頭から煙を上げるアレスを見て、ジャンヌは苦笑いした。
「ハハハハハ。悪い悪い、突然そんなこと言われても意味が分からないな」
「そうですよ……ちゃんと教えて下さい」
「分かってるよ」
アレスは語気を強めて言う。ハハハ、と微笑を浮かべ答えるジャンヌ。
「ま、今日教えてやりたい所だが……もう遅いから明日にしよう。別室を貸してやるからそこで寝ろ」
「はい、ありがとうございます」
その日の夜、アレスは早く寝た。疲労が溜まっていたのだろう。ベッドに寝転がって数分で意識が飛んだ。
ジャンヌはと言うと、寝酒を飲みながらアランとミアとの思い出に浸っていた。
事情があり、世界依頼には同行しなかったが、それまでは【王直】の一員としてクランを支え続けた。
世界依頼に旅立つ前に、アランとミアに揃って頭を下げられた。今まで一度もそんなことなかったのに。
自分たちの我儘で息子を一人にしてしまうのを嘆いていた。だから、何かあればアレスの力になってやってくれ、と頼まれていた。
「それなら、行かなきゃいいだろうに……。本当に馬鹿だな、お前たち二人は……。早く戻ってこい」
◇◆◇◆◇◆
「さて、それじゃあ今日から始めていこうか」
「よろしくお願いします、ジャンヌ教授」
家の中ではなく、外へ出ての講義だ。ジャンヌが言うには、家の中では危ないらしい。
(何をするつもりなんだろう……)
アレスは不安だった。両親が残した手紙にも小さくだが、やばい奴だから気をつけろ、と書かれていたのだ。
アレスの気持ちなど知る由もないジャンヌは、話を続ける。
「まず、魔力というものの概念について触れておこう。アレス、魔力とは何だ?」
「え、と……魔法を使うために必要な源です。魔法器官を通して、魔法が発動されます」
アレスは、教科書に載っているようなお手本を解答する。ジャンヌはそれに、うんうんと頷く。
「そうだな、正確には魔法器官、さらにそこから魔力回路を通って全身に送られる。そして、魔法発動だ」
「けど、それがどうして魔法の代わりになるんですか?」
「うん、その質問についてだが。結論から先に言ってしまうと、魔力というのは体外つまり……空中に具現化できる」
「………は?」
魔力の具現化という、聞いたことも無い話が飛び出してきてアレスの思考は止まった。
呼吸も忘れ、瞬きだけを繰り返す。
「どうだ? 驚いたか? 」
「―――――ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか?」
「よかろう」
考えることはやめ、落ち着かせることに全神経を注ぐ。深呼吸を繰り返し、自身に理解させようとするアレス。
「だ、大丈夫です。続けてもらっていいですか」
「よし、まあ言っても良く分からんだろうから、実際に見てもらおう」
そう言って、右腕を突き出すジャンヌ。「よく、見ておけ」と一言呟く。
そして、左腕で右手首を押さえながら、ぐぬぬぬぬ、とうめき声をあげる。
その様子を黙って見つめるアレス。
「ふ―――」
一息吐いて………
「ふんっ」
すると、ジャンヌの手の平からズズズズと音を立て、濃い紫色のモヤのようなものが出現する。
やがて、拳大の大きさになるとそのまま固まった。まだ、煙のようにモヤも出続けている。
「ど、どうだ! これが魔力だ……」
「………すごい」
「触ってみろ、長くは保たないから早くしてくれ……」
魔力を見せつけるジャンヌの顔は苦しそうだ。それを見たアレスは、恐れることなく魔力に触れた。
「!! 硬い……」
魔力に触れてみるアレスだが、以外にも硬かった。モヤが出ているので、煙のように掴むことなど出来ないと思っていた。
――――――シュゥゥゥ、と魔力は消えた。
「大丈夫ですか?」
「……問題ない。それよりも、どうだった?」
「はい硬かったですし、ちゃんと掴むことが出来ました」
「そうだな、私も驚いたが。魔力には質量がある。もう少し大きければ足場としても使えるだろう」
おそらく、この世で初めて魔力の具現化に成功したのはジャンヌだ。
アレスの両親から魔法器官がなく、魔法が使えないと言われた時からずっと研究を続けてきた。
アレスのためでもあるし、自身の好奇心ゆえの結果だろう。腐ってもジャンヌは魔法研究の学者だ。
魔力の研究は苦ではなかったのだろう。
「さて、魔力の具現化については分かったな。少し話を戻すが、魔法の代わりとして魔力と私は言ったが、別に完全な代替となるとも思っていない」
「じゃあ、どういう意味で……」
「私は魔力を魔法を相殺――止める術として考えている。魔法を相殺又は止める方法として、一番有用なのは何か?
体術、これは論外だ。拳や蹴りで魔法を止められる訳がない。次に剣術、これについては一考の余地はある。だが、現実的じゃない。ならば、魔法は魔法で止めるのが一番ということになる。
例えば、火魔法は同じく火魔法で相殺可能だ。ここで、だ……発動された火魔法の元を辿れば魔力になる。つまり、発動しているのは魔力とも言える。
こう考えると、火魔法は魔力で相殺――止められるはずだ。さっき確かめた通り魔力には質量があるので、火も止められる」
長々と自らの理論を語ったジャンヌはとても満足そうにしている。が、それとは逆に雷が落ちたような衝撃に包まれている者がいた。アレスだ。
固定観念を吹き飛ばされながらも、自身の可能性をひしひしと感じていた。
(すごい……魔力で魔法を相殺できるなら………!)
アドレナリンの分泌で興奮状態が冷めやらないアレスたが、ふと思い付いた事をジャンヌに質問した。
「ジャンヌ教授、一つだけ。それって俺が魔力の具現化と魔力の維持を出来なければ……」
それは、最も恐れていた事だ。これまでのジャンヌの話はあくまで仮説だ。
根拠もなければ、保証もない。
「ん、そうだな。根拠がある訳じゃないから、一か八かの賭けでもある。失敗すればそれまでだ」
ジャンヌは残酷にもそう告げた。一瞬にして絶望へ急転直下していくアレス。
顔には、焦りの表情が見て取れる。
「ただ、大丈夫だろう。考えてもみろ、私達は魔法器官があるから、維持が出来ない。逆に君は魔法器官がない。つまり、直接魔力を送り届けられる。というより、恐らく君の中には常に魔力が巡っているだろうな。受け皿としての魔法器官がないからな」
通常の人の魔力というのは、常に体全体を巡っているわけではない。魔法を行使する時に、必要な分の魔力が魔法器官に送られ、そこから魔法発動だ。
「ま、ものは試しだ。やってみろ、すぐに分かる」
「……はい」
アレスは立ち上がり、ジャンヌのやっていたように真似をする。
時間をかけて、丁寧に丁寧に段階を踏んでいく。
そして――――――
「はぁあっ」
………ズズズズ、と黒色のモヤが出始めた。
「!! ……で、出た」
初具現化ということで、これ以上の魔力は出ないだろうと考えたアレスは、力を抜く。
真剣そのものの顔で、ゆっくりと手を伸ばす。
手の平に浮かぶ魔力に触れると………
しっかりと硬く、質量があるのが分かる。そして、一番大事な事。
維持ができるかどうか?
ジャンヌの場合、一分も経たずして魔力は消えた。アレスは……
「……消えない」
腹の底から絞り出すように、呟かれた一言。声は僅かに震えている。
それを聞いたジャンヌは、優しい笑みを浮かべた。
「おめでとう、アレス。これで魔力は君のものだ。………それじゃあ、地獄の特訓を始めるか」
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