黎明が紡ぐ夜の物語

のどか

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届かなくても願う

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この選択が間違いだったなんて思わない。
絶対にそんなこと思いたくないから、この地獄のような場所であたしは絶対に生き残る。
だから、そんな顔しないでくれないか。
あたしはアンタにそんな顔をさせたくてがむしゃらに走ってきた訳じゃないんだから。





「後悔、してねぇのか」

いつの間にか元の長さまで伸びた髪を指で弄りながら零された声に笑いそうになる。
そんなことをまだ気にしていただなんて本当にらしくない。
あれから何年たってると思ってるんだ。
そりゃ、たまになんでこんなとこで剣なんて振り回してるんだろう?とか、あたしがやってることは意味あるのか?とか思う。
戦う理由を見つけては見失って自己嫌悪に陥ったり、無力感に絶望しそうになったりもする。
だけど、顔を上げればアンタの背中が見えた。アンタはいつだって揺らがずに真っ直ぐ前だけ見ていてくれたから、あたしは余計なことを考えずにアンタの背中だけを追いかけてここまで走ってこれたんだ。
あたしの原点はアンタで、あたしの世界の中心もアンタで、あたしはきっとアンタが一緒ならどんなところでも生きていける。
そう思うくらいにいつも近くにいてくれる。後悔や虚無感なんかより、充実感や幸福感の方がずっとずっと大きい。

「どう思う?」
「……」
「冗談だ。後悔なんかしてないよ。あたしは、望んでここにきた。好きでアンタの側にいる。
 ……あんたは後悔してんのか?」

自分で聞いといてなんだけど、ここで後悔してるだなんて言われたら立ち直れないかもしれない。というか荒れる。間違いなく大荒れになる。せっかくの作戦をブチ壊しかねないくらいに暴れまくる気がする。
あぁどうしよう。取り消せないかな。さっきの。
ひとりで慌てて百面相するあたしのすぐそばでフッと笑う気配がする。

「……どうだろうな」

自嘲するように歪められた唇から零れ落ちる音はひどく頼りなかった。
だから、離れられない。
あたしより6つも年上の癖に、普段は強くて弱点なんて見当たらない癖に、たまに本当にたまに触れるだけで壊れそうなくらいに脆くなる。
それを知ってるから、知ってしまったから、怖くなった。

「お前がもっと弱かったら俺はお前をこんなとこに連れてきたことを死にたくなるくらいに後悔して、さっさと送り返してやったのに」
「それは残念だったな。生憎あたしは弱くねぇし、強制送還されてやるつもりもねぇよ」
「だろうな」

困ってる。だけど、喜んでもいる。
あたしはずるい。
本当はアンタが今でもあたしを安全な場所に置いておきたいと思ってることを知ってるのに、従わない。アンタがそう思えば思うだけあたしは功績をあげて、アンタに必要な存在になる。アンタが手放せない存在になる。
アンタが自分の中の矛盾に苦しむことを知ってて、あたしは自分の願いを優先させる。

「ごめん、な」

アンタが馬鹿みたいに優しいことを知ってるのに、あたしに甘くて弱いことをしってるのに。
あたしは、それでも――――いや、それだから怖いんだ。
アンタと離れることが、あたしの知らないところでアンタが手の届かないところにいってしまうことが、アンタの側にいられなくなることがあたしは堪らなく怖いんだ。
だけど。

無骨な指が優しく髪を梳く。火が爆ぜる。影が寄り添う。

そんな時間が刹那であろうとあるのなら、あたしはどんな場所だって生きていける。
アンタの心を踏みつけて伸ばした手だ。
届くまでずっと求め続けてやる。だから、もしも、この指が届いたら、その時は抱きしめさせてくれないか。
今までの分までたくさん。



届かなくても願う
(強くて脆いアンタだから)
(すぐ側にいて支えたいと思うんだ)
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