爆弾魔の日記

藤白 圭次郎

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焦る爆弾魔

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甲がスタジアムに立っていたのは、下見から二週間が経った日曜日だ。リーグも最終節となり、スタジアムは異様な熱気に包まれている。
恐らく試合はできない。
この熱気に、水を挿すことに罪の意識を覚える。
脅迫状は、昨日警察に送った。
キックオフと同時刻頃に届くはずだ。
甲乙共に、可能な限り一般人を巻き込まないと決めていた。脅迫状は、警察を動かすのに最も効率的だ。
しかし、初めから知らせてしまうと、仕事にならない。
よって、この時間が最善と判断した。
犠牲が出ないとは言えない。
すまない
甲は、静かに謝罪した。
これも仕事なのだ。
謝罪の言葉が次々流れてくるのに甲は驚く。少し間を置いて成程と頷く。
甲は乙と異なり、いくつもの人格によって形成されている。それが表に出たのだろう。
甲の意識を外に向かせたのは、乙の声だった。
どうした、と僅な間が空き、答える。
「もうすぐだ、行くぞ」乙が落ち着かない様子で言った。
「どうした。いつになく焦ってるぞ?」
「仕方ないだろ。あいつがきてるかもしれないんだ。さっさと確認しないとまずい」
「そういうものか?」
「お前に足りないのは、深刻さと丁寧さと頭の中にいる同僚への気遣いだ」
「俺がいつお前への気遣いを欠いたんだ」
甲はすかさず抗議する。
「その発言がまず気遣いを欠いている」
「じゃあどう答えたら!」
と、甲が叫ぶ。どう答えたら正解なのか!と。
「無駄話してないで、行くぞ」
「あ、おい待て、質問に答えろ」
悪意はない。
これは間違いない。
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