らぶ☆ダイエット

久石ケイ

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2巻

2-2

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「んんっ!」

 感じる部分を強く刺激され、あっというまに昇りつめてしまった。

「千夜子……我慢できない」

 余韻よいんで震えるわたしをうしろから抱きしめ、熱くて硬いものを押し付け、欲しいと訴えてくる。

「おまえは、我慢できるのか?」
ひどい……わかっててシタくせに」
「我慢して震える千夜子が可愛すぎて……抑えがきかないんだ」

 ささやきと共に耳元へかかる熱い吐息に震えてしまう。どうすればいいの? 自分の実家の客用布団でえっちなんて恥ずかしすぎる! そんなわたしの気持ちなどお構いなしに彼は準備を済ませ、わたしのジャージのズボンと下着をひざまでずらす。そして、うしろから熱いくさびあてがい濡れた秘裂にこすり付けてきた。

「んんっ」

 ひだき分け押し込まれても、いつものように最奥までは届かない。手前でゆっくりとこすられ、思わず声が上がりそうになるのをジャージのすそを噛んでこらえた。

「ああ、いい……千夜子のナカだ。今日はできないとあきらめていたんだ」
「やっ……そこ、ダメ」

 そうされながら胸と濡れた秘所の前にある敏感びんかんつぼみを指の腹でこすられると、ひとたまりもなかった。

「くっ、締めるな……我慢できなくなるだろ?」

 自分でもわかるほど強く彼自身を締め付けていた。いつもは散々らされた後は激しく攻められるのに、今日はこのままなの? それこそこっちがおかしくなってしまう。ゆっくりとしたリズムで突き上げられているけれど、ソコじゃないとカラダが訴える。もっと……奥に欲しい。こんなにいやらしいカラダにされてしまった。もう彼としか生きていけない。彼だけなのだ、わたしのカラダをこんなにも愛してくれるのは……
 彼のおかげでようやく少しずつ自分のカラダを好きになりはじめた。だからこうして感じることにも貪欲どんよくになれるのだ。彼がめてくれるから、彼が求めてくれるから――このカラダまでもが、愛しい。
 胸が締め付けられるほどの切ない想いを感じた瞬間、一層彼を締め付けてしまった。

「くそっ、おまえがその気ならこっちだって……」
「んぐ、イっ……ちゃう!」

 彼が身体を反らせ、ズンと最奥まで押し込んだ途端とたん、またイく。

「くそっ!」
「んぐっ、んんっーー!」

 イキ続けている間も激しくこすり突かれ、わたしは声を殺すのに精一杯で……そしてそのまま酸欠になり、意識を飛ばした。

「おい、ダメだ……まだ寝るな」

 揺り起こそうとする声が聞こえたけれど、わたしはそのまま眠ってしまった。
 翌朝、目覚めてから慌てて確認したけれど、わたしにも布団にも昨夜の行為の跡は残っていなかった。恭一郎さんがきちんと片付けてくれたみたい。

「ごめんなさい、わたし寝てました」
「いや、仕方ない。……ただし、帰ったら覚悟してもらうぞ」

 と、にっこり笑って言われる。あれ……なにかした? 心配してオロオロするわたしに彼は昨夜の顛末てんまつを聞かせてくれた。かなりお酒を呑んでた彼はあの時一緒にイケなくて、寝ているわたしに続きをすることもできずに朝まで悶々もんもんと過ごしたそうだ。

「ご、ごめんなさい」
「いや、おまえが寝落ちすることを想定しておくべきだった……俺もまだまだだな」

 そう言って、わたしを引き寄せて苦笑いする。

「俺も昨晩はおまえの両親に結婚を認めてもらえて、ほっとして酔いが回っていたからな」

 昨日、彼は結婚だけでなく式を済ませる前に一緒に暮らすことも、わたしの両親に認めさせた。

『それで結婚式はどうするつもりかね? 私どもとしてはデキたから結婚したという事態を避けてもらえれば、あとは君達の好きにしてもらっていいと思っているんだ。最近は式を挙げない若い人達も増えてきているようだしね。ただ、親としては娘の花嫁衣装はぜひ見たいと思うが……君は再婚だし、晴れがましいことは避けたいのじゃないかね?』

 父がいつもより慇懃いんぎんな態度なのには驚いた。あとでお母さんから聞いた話では、いい男過ぎて隙がなくて身構えていたせいらしい。

『そんなことはありません。私も千夜子さんの花嫁姿が見たいですし、もちろん結婚式も披露宴ひろうえんもさせていただきたいです。実はすでに式場を仮押さえしてあって……来月イトコが結婚するのですが、四ヶ月後の大安たいあんに同じ会場でキャンセルが出たと聞いたもので』
『ほう。それは気が早いんじゃないか? 反対されることを考えなかったのかね?』

 少しだけ父の声音こわねが厳しくなったのに周りの誰もが気付いていた。

『もちろん考えました……しかし、それであきらめるつもりは毛頭もうとうありませんでしたから』

 恭一郎さんも負けずに強い口調で言い返す。母もわたしもオロオロしてしまう。

『お義父さんの許可さえいただけたら、すぐにでも招待状の発送にかかりたいと思っています』
『なるほどね……千夜子、彼はずいぶん手回しがいいな。仕事もできるのか?』
『うん、営業部長補佐で、成績もいつも上位だよ』

 父はただただ納得しているようだった。だけど彼はさらにたたみ掛けた。

『ただ、式までの期間が短いので……離れていては準備がとどこおってしまうのです。週末だけでは追いつかないと思うので、彼女にはすぐにでも私のマンションに越してきてもらえればと考えています』

 いやいや、すでにほぼ引っ越させているくせに……

『うちは3LDKで部屋も余っていますし、セキュリティも万全です。彼女のアパートは正直言って防犯設備が整っていないので、それも心配ですから』

 確かにわたしのアパートは、会社に近いだけでセキュリティなんてものはろくにない。だって、太った女など誰が襲うかと気にしてなかったんだもの。それは両親からしてもかなり心配だったらしく、すぐさま引っ越してしまえと言われた。

『それと挙式の費用もこちらで持たせてください。再婚なのに大事なお嬢さんをいただくのですから、そのぐらいさせていただかないと心苦しいです』
『いや、それじゃ負担が大きすぎやしないかね? これからの生活もあるだろうし』
『実は……学生時代から株や投資をやっていまして。今住んでいるところは賃貸ですが、ローンなしで家を建てられるぐらいは貯蓄ちょちくもあります。子供ができたら千夜子さんと相談して家を建てることも考えていますので、どうかご安心ください』

 その話にはわたしも目を丸くするしかなかった。株? 投資? 初めて聞くんだけど……
 だって、普通のサラリーマンだよね? そういえば彼のクレジットカードってブラックだった。それを見た時は『チーフだからお給料をたくさんもらってるんだ』と思ったぐらいだけど、ローンなしで家を建てるって……そんなに持ってるの?
 日曜の朝、わたしの実家から彼のマンションに戻るとすぐに、通帳や証書をいくつか見せてくれた。
 わたしにはよくわからなかったけれど、通帳の残高が予想以上でものすごくびっくりした!

「だから引っ越しとか、必要なものを買う費用は気にしなくていいから」

 そう言って、翌週にはわたしのアパートを引き払う準備をはじめてしまった。

「これでもう、おまえが帰る場所はなくなったからな。逃げるなよ?」
「に、逃げたりなんかしません!」

 だけど、恭一郎さんが他の女性と結婚すると勘違かんちがいして連絡を一切って、逃げ回ったという前科があるため、なかなか信用してもらえなかった。わたしだって……ずっと一緒にいたい。アパートに帰る時は寂しくてたまらなかったのだ。ひとりで眠る夜がどれほど寂しいか、身に染みていたから。


「それじゃ、そろそろ出かけようか」

 日曜は、午後から彼の実家へ向かった。

「まあまあ、可愛らしい方だこと。本当によかったわ、恭ちゃんが再婚する気になってくれて」

 お義母さまにはすごく喜んでもらえたけれど、少しだけ心配なことがあった……前の奥さんと比べられたりしないかなってこと。かなりきれいな人だったというし、お見合いもお義母さまのほうが乗り気だったと聞いていた。

「わたしね、お料理を作るのも食べるのも大好きだから、ついつい作り過ぎちゃうのよね。今日は張り切ってこしらえたの。だから、たくさん食べていただけると嬉しいわ」
「あ、ありがとうございます」

 これを全部食べるのはちょっと……とひるんでしまうほど、テーブルの上は美味おいしそうな料理のオンパレードだった。そういえば恭一郎さんが子供の頃太ってた原因のひとつに母親に甘やかされて育てられたことがあるって聞いてたけど。それには、こういう食事も入っていたのかな?

「母さん、気持ちは嬉しいが、もう少し量とバランスってものを考えて作れないかな。昔アキに散々注意されただろ?」

 アキさん、というのは恭一郎さんのイトコでモデルをしている朱希那あきなさんのことだ。わたしも一度会ったことがあるけれど、すごくきれいな人だ。

「あらいいじゃない、久しぶりなんだから。あなたがこの家にいる間は、ちゃんとアキちゃんの言いつけ通り身体にいいメニューを作ってたでしょう? だけどあなたが家を出てからは、やっぱり自分が食べたいものを作りたくなったのよね」

 おかげでまた太っちゃったわ、というお義母さまは少々ぽっちゃりしている。

美味おいしいです、これ。じゃがいものグラタンですよね?」

 チーズとホワイトソースたっぷりのそれは、ホクホクしてとても美味おいしかった。

「そうなの! それでこっちは牛肉をじっくり煮込んだのよ。どうかしら?」

 ビーフシチューっぽく見えるけれど、具は肉だけのようだ。

「すっごくコクがありますね。赤ワインが入ってるんですか?」
「あら、よくわかるのね。お料理はお好き?」
「はい、食べるのも作るのも大好きです! ここのところダイエットしていたので、作るのはそういうメニューばかりですけど」
「ダイエットメニューも工夫すれば美味おいしくできるわよ。よかったらメニューを教えてあげる」
「うわぁ、嬉しいです!」
「でも、あなたも我が家に来た時ぐらいは、そんなのを気にせず美味おいしいものを食べて帰ってね」
「あ、ありがとうございます」

 嬉しいけど、あまり食べ過ぎると体重が戻ってしまいそうで怖い。そういえば昨日も実家で結構食べたけど、体重量るの忘れた……

「よかったわ、ちゃんと食べてくれる子で。前の嫁はわたしの作ったものに一切はしをつけなかったのよ? 料理もしてるって聞いたことなかったし……なんであんな女と結婚したんだか」
「おい、おまえやめないか」

 お義父さまが止めても、お義母さまのおしゃべりは止まらなかった。

「千夜子さんはぜんぜん違うからいいじゃない。ちゃんとそれを言っておいてあげないとねえ」

 ずいぶんと独善的な考え方だけど、たしかに聞きたかったことではある。悪く思われていないようだから、それでよしとしなきゃ。

「すまない、母さんに悪気はないんだが……小さい頃の俺は身体が弱くて食が細かったものだから、食事に対する思い入れが強くてな」
「母親だから当たり前でしょ? 自分ひとりで大きくなったみたいな顔してるけど、あなた達にも子供ができたらわかるわ。身体が弱くてヒョロヒョロであまり食べないあなたに少しでも食べてもらおうと、色々と工夫して美味おいしいものを作ったものよ。喘息ぜんそくの発作が出て止まらない夜は一晩中椅子いすに座って抱っこして眠ったし、もっとひどくなった時は夜中に病院へけ込んで明け方まで点滴を受けさせたり。入院した時も、ぐずるあなたに一晩中付き添ったり……苦労して育てたのに、ちっともわかっちゃくれないんだわ」
「わかってるから、母さん。おかげで今の俺はすっかり元気だよ」

 元気すぎるぐらいだと言いたかったけど、ここではそんなこと口に出せない。

「ああ、おまえはよく頑張ったよ。私も仕事がある日は母さんに任せっぱなしだったからな」

 お義父さまもなだめにかかる。

「感謝してるよ、母さん。ただ、元気になってからも食事を多めに作りすぎていたし、少しせきをしただけで学校や体育を休まされて……少々過保護すぎた時期もあったよな」

 おかげで俺は肥満児だったという話になると、お義母さまは『あなたのためだったのよ』と笑って誤魔化していた。悪気はないんだ……にくめないけど、あまり深く考えずに話す方のようだ。

「アキが口出ししてくれなかったら、あのまま俺は変われずにいたかもな」
「そうそう、千夜子さん。デザートも用意してるのよ。わたしが作ったティラミス、食べてくださらない? 息子も主人も甘いものはまったく食べてくれないから寂しくて」

 恭一郎さんの前の奥さんが全然食べなかったという話を聞いた後では、食べざるを得なくて、すでにかなりの料理を平らげていたけど、デザートを断ることができなかった。すっかりご馳走ちそうになって……後で体重計に乗るのが怖い。
 ティラミスを食べ終わる頃には、スカートのウエストが苦しくなってしまった。お化粧を直すついでにホックを外したほうがいいかなと思い、お手洗いに立った。けれど部屋を出てすぐに化粧ポーチを忘れたことに気付き戻ろうとしたら……ドア越しに、お義母さまの声が聞こえた。

「よかったわ、いい子で。また可南子かなこさんみたいな人だったらどうしようかと思ってたのよ」

 その時わたしは初めて、彼の元奥さんの名前を知った。カナコさんって言うんだ。

「おいおい、母さん。前の嫁の名前なんて出すもんじゃない。千夜子さんに聞かれたらどうする」
「だってホッとしたのよ。もう恭ちゃんは結婚しないんじゃないかって。アキちゃんと再婚してくれるかと思ってたのに、あの子はモデルのリュウキって人と結婚するんでしょ?」
「あれは違うって何度も言っただろ」
「アキちゃんならお嫁に来てもらっても申し分なかったのに……気心も知れてるし、あんたも子供の頃からアキちゃんアキちゃんって、べったりだったじゃない」
「やめろよ、昔の話は」

 そんなに朱希那さんと仲がよかったんだ……同じイトコ同士でも、わたしとコータなんて、いくら仲がよくてもそんなふうに言われたことはなかった。

「そういえば可南子さんはアキちゃんにだけはなついてたわね? 離婚したらいきなりモデルはじめたりして。あなた、利用されたんじゃない?」
「さあな、そうかもしれないな」

 前の奥さんって今はモデルをやってるの? 知らなかった……

「でも本当に可愛げがなかったのよね。なんでも勝手に決めてしまうし。結婚式のドレス選びも一緒にしたかったのに、全部自分で決めちゃって。そうだ! 千夜子さんに、ドレス選びを一緒にさせてもらえないか聞いてちょうだいよ」

 ええっ? わたしはせたと言っても身長があるから、一般的な九号サイズは入らない。だから種類も少ないだろうし、どんなドレスにすればいいのか見当もつかないのに……どうしよう。優柔不断なところを見せてしまいそう。

「母さんがいたら千夜子が気を遣うだろ? 向こうのお義母さんも来たがってたし……かち合ったらどうするんだよ」

 その言葉にホッとした。恭一郎さんはわたしの気持ちをわかってくれているんだ。

「口出ししたいわけじゃないのよ。うちは娘がいないから、ドレス選びしてるところを見ていたいだけなの! アキちゃんのドレス選びが見たいと思って姉さんに聞いたら、あの子は懇意こんいにしてるデザイナーさんが一点物のドレスを用意してくれたからそういうのないんだって。写真見せてもらったんだけど、ほんとに素敵なドレスよ! アキちゃんはスタイルいいし、なんでも似合うのよねぇ」
「頼むからアキと千夜子を比べたりするなよ。あいつはモデルだから、なに着ても似合って当然だ。千夜子は、前に太ってたことを気にしてるし、人と比較されるのが一番ダメなんだ。とにかく衣装合わせの件は俺が聞いてみるから、母さんからは言わないでくれ。彼女は母さんに言われたら断れないんだからな」

 やっぱり比べられてしまうの? 朱希那さんのドレス姿は、きっとすごくきれいだと思う。あんまり比べられたくないな……

「そうそう、来月のアキちゃんの結婚式の日はうちまで迎えに来てくれるの?」
「いや、千夜子も俺の婚約者として招待されてるから、俺達は別で行くよ」
「まあ千夜子さんも? 気が早いのね……でもいいわ。あなたがまた結婚したいって言ってくれたんだものね。このまま一生孫の顔が見られないかもって心配してたけど、大丈夫そうよね。あの子は健康そうで安産型の体型じゃない? もう、今から楽しみだわ」

 安産そうに見えるのね……こればっかりは、産んでみないとわからないけど。
 いつか、お義母さまに孫を抱かせてあげたいと思う。だってうちは兄のところに子供ができるかもしれないけど、恭一郎さんはひとりっ子なんだもの。


「ええっ? ふ、増えてる……」

 両家の実家巡りから帰ってきたその日、恐る恐る体重計に乗ったところ、予想してた以上に体重が増えてしまっていた。二キロ……美味おいしいものって高カロリーで困る。
 ここのところ引っ越し準備だなんだと忙しくて、トレーニングもサボってるし。心なしかここ一週間、会社の制服のウエストもきつく感じていた。
 これって幸せ太りって言っていいの? それとも……リバウンド?


 ――結局わたしは増えてしまった体重のおかげで、衣装合わせの時に苦労することになった。
 恭一郎さんと一緒に衣装合わせに行った時に一着だけ着てみたところ、ファスナーが上がらなくてすっごく恥ずかしい思いをしたのだ。
 こういう時は女同士ゆっくり見て候補を選ぶしかないと、休日の今日はイッコを誘ってふたりで式場にやって来た。だけど……気に入ったドレスは胸のサイズが合わず、わたしが着るとムチムチした感じになってしまう。そして反対に胸に合わせるとウエストあたりがだぶつく。

「難なく入るドレスって、やたら太って見えるのね」

 イッコの言うとおり、ウエストがすとんとしたエンパイアタイプだと、まるで妊婦に見える。プリンセスタイプでもサイズに余裕のあるものはフリルがやたら多くて、胸のボリュームがあり過ぎるわたしが着ると、横太りして見えてしまう。
 二の腕も出したくないし、胸元も隠したい。脚ももちろんだし、背中も……隠したい場所はたくさんあるけれど、全部隠すわけにもいかない。

「やっぱりダイエットしなきゃダメかなぁ……」
「もう、無理しないでよ? チャーコは今のままで十分だと思うけどな。健康的で引き締まってて、出るとこ出てるし。わたしなんか……」

 そう言ってイッコは悲しそうに自分の胸を押さえる。水太りタイプの彼女は、水抜きに近いダイエット法でスリムになった。今では少し華奢きゃしゃな感じがするぐらい。わたしは……どう頑張ってもそんなせ方はできなかった。骨太で筋肉質で背も高いため、華奢きゃしゃな感じには到底なれない。太ってる時からすれば今でも十分せているほうなのに、もっとせたいって思うのはどうして? 朱希那さんと自分を比べるのは意味がないと思う。だけど、こんな近くにあれほど素敵な人がいると、比べられてしまう気がしてならなかった。それがわかってて、彼もお義母さまにくぎを刺していたんだろう。

「でもね、最近量るたびに体重が増えてるような……」

 一~二キロならすぐに戻ると安心してしまっていた。だけどあれからさらに二~三キロ増えてしまった今、ちょっとあせりはじめている。
 ここのところ食べる機会が多くて、トレーニングも忙しくてあまりできてなかった。だけど無理な食事制限はよくないってわかっているし……。太っている時なら体重を落とすのは比較的簡単だけど、標準体重になった今、ここからどうやって落とせばいいの? わたしはもう、どうしていいかわからずにいた。



   3 過去からの襲撃?


「どうした? 今日は朝から元気がないな」
「だ、大丈夫です」

 昨日は朱希那さんと龍騎りゅうきさんの結婚式で、式と披露宴ひろうえんに恭一郎さんと招待されていた。
 三十六歳の朱希那さんの結婚相手である龍騎さんは元モデルで、二十三歳の超美形の青年だ。
 すごく素敵な式だったけど、モデル同士にしては地味というか普通だったように思う。親のための結婚式だからわざとそうしたんだと朱希那さんは言ってた。
 ひと言で言うと、真面目まじめな結婚式だったんだよね……同じく花嫁になる身としては一生に一度の晴れ舞台、できればもう少し華やかにしたいなぁと思うわけで……。でも、同じ式場だからおそらく、似た雰囲気の式になりそうだ。それでも恭一郎さんが準備を進めてくれているのだから、なにも言えない。わたしは示された選択肢から選び、衣装だけ決めればよかったから、楽といえば楽なんだけど……もう少し手伝いたいなって、ずっと思っていながら言えずにいた。

「それじゃ、行こうか?」
「はい」

 わたしは恭一郎さんにエスコートされて、パーティー会場へ入っていった。
 今日はホテルで行われる、朱希那さんの事務所主催の結婚パーティーだった。
 結婚式の二次会的なものかと思って参加したら、とんでもない! ホテルで行われる本格的なパーティー形式なもので、業界の人達がかなり集まっている……どうやら朱希那さんの書籍&DVDの新装版のお披露目ひろめも兼ねているらしい。
 そんなところに、どうしてわたし達が呼ばれたのか不思議だったけど、恭一郎さんと朱希那さんとはただのイトコ同士だと証明するためのようだった。以前、朱希那さんと龍騎さんの交際を世間に公表できなかった時期、恭一郎さんは朱希那さんのにせの恋人役を演じていたことがある。写真週刊誌にも出て話題になっていたから、それがフェイクだったと証明するために、彼とその婚約者であるわたしも一緒に招待されたみたい。
 それにしても、会場のあまりにも華やかな雰囲気に尻込みしてしまう。
 こんなところ、半年前のわたしだったら絶対に来てない! きっと恥ずかしさだけで死ねると思う。だって、ほとんどがモデル業界の人達だよ? すれ違う人はみなスタイルがよくて美しく、おまけに個性的でオーラがある人達ばかり。わずかに地味なスーツを着ている人もいるけれど、その人達はどうやら会社のお偉いさんっぽい雰囲気だ。
 わたしをエスコートしてくれている恭一郎さんも、いつもより仕立てのいい光沢のあるダークスーツに身を包んでいて、目を見張る格好よさだ。元々背も高く肩幅があってスーツの似合う人だから、モデル達が集まる中でも見劣みおとりしない。
 そんな人の横にいるのがわたしでは……恭一郎さんに申し訳ないと思う。スタイルもよくない、着ているものも似合ってない。この場所にいることが、たまれなかった。
 昨日の式と披露宴ひろうえんの時は、きっちりしたフォーマルなワンピースにジャケットを合わせていった。だけど、今日はなにを着て行けばいいのかわからなくて、お世話になっている結婚式場のブライダルコーディネーターの工藤くどうさんにお願いして、式場のレンタル衣装から見繕みつくろってもらった。
 脚も出したくない二の腕も出したくないと言うわたしの意思をんで選んでくれたのは、すそがアシンメトリーでひざからふくらはぎぐらいまで丈のあるドレスだった。胸が強調されそうなので、ビスチェタイプは避けてもらったんだけど……逆に胸元が縦に深くカットされたものになってしまい、恥ずかしいぐらいだった。そこさえ目をつむれば縦長のラインで体型がきれいに見える。

『このドレスが似合う人って、かえっていないんですよ。万人に似合う可愛らしいひざ丈のドレスは、たぶん業界の人達の中では浮くと思うんです。大人っぽくてセクシー系のドレスのほうが、目立たないと思います。この丈だって、千夜子さんぐらいの背がないと似合わないですし』

 そうおだてられて選んだ。色はベージュピンクで地味というかヌーディな感じ。セクシーだけど、見ようによっては派手にも見える。

『サイズの関係で、どうしてもお胸が強調されてしまいますけど』

 言われたとおり完全に谷間が強調されちゃってる! こんなに胸元の開いた服を着るのは初めてで、恭一郎さんも気に入らないのか、ムッとした顔で工藤さんに詰め寄っていた。

『他にないのか?』
『千夜子さんはお顔が可愛らしくていらっしゃるので、上品なエロ可愛さがあって、これが一番似合ってらっしゃると思いますよ』

 確かに他のも着てみたけど、無難ぶなんなものは太って見えた。結局それに決めたけど、肩が出てしまうのでストールをつけてもらった。こうして着たこともないようなセクシーなドレスを身にまとい、わたしはこのパーティーに参加したのだった。


 わたし達は会場の人混みをって朱希那さん達を探し、祝福の声をかけ近寄る。

「アキ、昨日に引き続き大変だな」
「恭ちゃん、千夜子さんも! 今日も来てくれてありがとうね」

 朱希那さんは今日もすごくきれいだった。彼女を気に入っているデザイナーさんが昨日と今日のドレスを提供してくれたそうで、どちらも見たこともないほど複雑なラインと重ねられた布地のドレープが美しかった。昨日のドレスのテーマは荘厳そうごんで、今日のは妖艶ようえんだそうだ。昨日は親族が見ても目をかない程度の露出で上品さがあったけど、今日は露出がすごく、デザインも斬新ざんしんだった。全体は白地で、胸元は黒のレースで飾られている。身体の線がはっきりと出るようシェイプされていて、身体に巻き付くようなスカートは前から見れば超ミニで、うしろから見るとロングのドレープ。さすがモデルさんだけあって、立ってるだけでかっこいい!

「朱希那さん、昨日のドレスもきれいでしたけど、今日のドレスもすごく素敵です!」
「ありがとう、千夜子さんも素敵よ。でも……よくそんなドレスを着るの、恭ちゃんがゆるしたわね。今日のパーティーのお客さんの中には軽い奴らがたくさん交じっているから狙われないように、できるだけ恭ちゃんから離れないようにしてね」

 え? どういう意味だろう……こういうの着ちゃいけなかったの?

「その時は速攻で帰るぞ」
「ごめんごめん、そんな神経とがらせないでよ。あいかわらず彼女のことになると鶏冠とさか立てるの早いんだから」


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